給与水準低下でこれから「家賃デフレ」が進む

収入の下落を反映して家賃も下落していく(撮影:今井康一)

新型コロナウイルス感染拡大による景気悪化の影響は、さまざまなパスを通じて消費者物価を押し下げる可能性が高い。5月の消費者物価指数(コア)は前年同月比マイナス0.2%と、2カ月連続の水面下となった。当面は原油安を中心とした年初からの国際商品市況の悪化が下落要因となるだろう。

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長期的な影響としては雇用や賃金の悪化を通じたデフレ圧力が懸念される。経団連によると、夏のボーナスは前年同期比マイナス6.0%と、減少率はリーマン・ショックの影響を受けた2009年(同マイナス19.39%)以来の落ち込みとなった。もっとも、これでも春闘の段階でボーナスの年間支給額を決めた企業が7割あり、新型コロナの影響は少ないとしているという(毎日新聞6月18日付)。2020年度の業績を受けた2021年度の夏のボーナスは一段と悪化する可能性が高く、デフレ圧力は長期化するだろう。

所定内給与の下落は「家賃」への低下圧力に

賃金の減少がボーナスにとどまらず、所定内給与にまで波及する場合、消費者物価指数の約17.8%を占める「家賃」への影響が懸念される(帰属家賃は全体の約15.0%)。消費者物価指数の「家賃」は民営借家世帯を対象とした3カ月に1度の訪問調査によって作成される家賃調査を基礎統計として作成されるが、所定内給与との連動性が高い。毎月の賃金が減少すれば、それに応じて「家賃」の低い物件に需要が集中することが予想され、「家賃」には低下圧力がかかることになる。

 

所定内給与の変化が「家賃」に与える影響を調べるため、簡単な重回帰モデルを作成した。具体的には「家賃」を被説明変数とし、所定内給与(3カ月ラグ)と2つのトレンド項を説明変数とした。

トレンド項①(2010年1月以降)を用いた理由は、リーマン・ショック以降は所定内給与の上昇率に対して「家賃」の上昇率がやや低くなっていることを考慮したものである。

これは、第1にリーマンショック前後で貸家の新規供給が半減し、平均築年数が長期化したために市場に供給されている家賃全体が下落したこと(アメリカと異なり、日本では「家賃」の推計において経年劣化〈=築年数〉の影響を考慮していない)、第2にアベノミクス以降の「官製春闘」による所定内給与の増加は持続的ではないと人々が考え、所定内給与に対する「家賃」の比率を抑制したことなどが背景にあると考えられる。

また、人口減少が進む中で「空家問題」も懸念され、人口が増えている首都圏以外では「家賃」に対する価格下落圧力が徐々に強くなっている可能性もあるだろう。いずれにせよ、リーマン・ショック以降は「家賃」に対して何らかの価格下落圧力がかかっていることは事実であり、当レポートではトレンド項①を用いてモデルの改善を図った。

2018年以降は民泊需要が家賃を押し上げたか

さらに、トレンド項②(2018年10月以降)は、この時期からはトレンド項①の考察とは逆に所定内給与の上昇率に対して「家賃」の上昇率がやや高くなっていることから、このギャップを埋めるために用いた。

この時期から「家賃」が持ち上がる理由を特定することは困難だが、筆者は「民泊需要」が背景にあるのではないかとみている。2018年6月に住宅宿泊事業法(民泊新法)が施行され、貸家を民泊に転換する動きが増加した。つまり、「民泊」という新しい需要が生じたことによって賃貸市場の需給がタイト化したり、収益性の観点から一般的に投資利回りの高い「民泊」とフェアな水準まで「家賃」が引き上げられたりする例があった可能性がある。