アニメをうまく描く人になる、たった1つのコツ

この絵が描けるようになるには?(イラスト:『なぞるだけで絵がうまくなる! アニメ私塾式 キャラ作画上達ドリル 』(宝島社))

アニメ映画『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編』が10月16日の公開からわずか10日で興行収入100億円を突破し、日本で上映された映画でも最速記録を打ち立てた。近年、テレビアニメもアニメ映画も制作本数が増加傾向にあり、拡大を続けているアニメ市場。圧倒的に高い画力、実写より美しい映像で視聴者を魅了する作品も増えている。それだけアニメの存在が人々に浸透し、常に新しいものが求められているということだろう。

その代表とも言えるテレビアニメ『鬼滅の刃』(2019)、アニメ映画『君の名は。』(2016)や『天気の子』(2019)などの大ヒットは、社会現象を巻き起こしたと言って過言ではない。

しかし、アニメを作るには当然のことだが、アニメの絵を描く「アニメーター」たちが、限られた制作期間内に成果物を用意しなければならない。

そもそも1本のアニメを作るために必要な絵の総数はどのくらいの数になるのか。1000枚? 2000枚? いや、もっとだ。

1話30分の総作画枚数は3000~5000枚

1話30分のアニメを作る場合、1話に必要となる平均的な総作画枚数は3000~5000枚と言われている。1クールのアニメならそれが12~13話分だ。1話あたりの制作期間は平均して3か月ほど。アニメ映画を1本作る場合は万を超える枚数と、年単位での制作スケジュールになることが多い。

描く対象だって作品によって違う。老若男女のキャラクターはもちろん、動物やファンタジックな生き物、妖怪やモンスター、ロボットなど、さまざまなジャンルの絵を描くこともある。アクションシーンではどんなアクションを行うか、構図や動き方を考えるのも大事だ。しかも「早く」「上手く」「作品ごとに異なる絵柄で」「膨大な枚数を描く」必要がある。単純なようで非常に難しい工程が、アニメーターには課せられているのだ。

では、なぜアニメーターたちは早く、上手く、どんなキャラクターでも描くことができるのか。

拙著『なぞるだけで絵がうまくなる! アニメ私塾式 キャラ作画上達ドリル』でも実例を含めて詳しく解説しているが、大きな理由の1つが、「トレス」を繰り返していることだ。

最初はラフな絵を基にアニメは描かれていく(イラスト:『なぞるだけで絵がうまくなる! アニメ私塾式 キャラ作画上達ドリル 』(宝島社))

アニメにおけるトレスとは、原画(元となるラフな絵、「第一原画」とも記載される)を綺麗な1本線の絵にするため、別の紙に絵をなぞる作業。いわゆる清書のようなもので、「クリンナップ」とも呼ばれている。スタッフロールで「第二原画」や「動画」としてクレジットされている新人アニメーターの作業であることが多い。そのトレス作業を短期間のうちに何度も、何枚も繰り返すことが、アニメーターの絵の上達・速筆に繋がっているのだ。

原画を担当するアニメーターは原画マンと呼ばれており、これは高い画力を持つアニメーターだけがなれるポジション。同時に「レイアウト」と呼ばれる、画面作りの設計図のようなものを作れる技術も求められる。彼らが描く原画は基本的にラフなものであることが多いが、非常に完成度が高く、絵の見せ方も圧倒的にうまい。

アニメーター全員が最初からうまいワケではない

だが実はハイレベルな原画を描き上げる原画マンも、ある程度のキャリアを積んだ後にそのポジションにおさまるケースが多い。新人時代は「動画」を担当する動画マンを経験して技術を磨いたケースがほとんどだ。アニメーターだからといって、みんながみんな最初から絵がうまいわけではない。実力にはバラつきがあって当然のこと。絵が上手くとも、「キャラクターの動かし方」や「アニメ用の綺麗な線の描き方」を知らないという壁にぶつかる人もいる。最初から原画を担当できるアニメーターは本当に一握りの存在だ。