脱サラでつまずく人には耳が痛い不都合な真実

フリーランスの道は「穴あき屋根なしの1人用ボートを漕いでいる」ようなもの(写真:ペイレスイメージズ1(モデル)/PIXTA)
「会社員として働くよりも、自分のペースでのんびり働けそう……」
フリーランスに憧れる人の中には、こうした幻想を抱く人もいるかもしれません。しかし、フリーランスとして悠々自適に働ける人はごくわずか。これまで20種類以上の職業を経験し、現在はオンライン予備校「スタディサプリ」で日本史・倫理・政治経済・現代社会・中学地理・中学歴史・中学公民の7科目を担当する社会講師、著述家として活躍する伊藤賀一氏が「フリーランスの道のりの険しさ」を解説。新書『会社を離れても仕事が途切れない7つのツボ』より一部抜粋・再構成してお届けします。

「のんびりマイペース」は、会社員の副業ならOKだと思いますが、会社を離れたフリーランスなら甘いです。

フリーは、海の真ん中で「穴あき屋根なしの1人用ボートを漕いでいる」ようなものです。底から水が噴き出し雨に打たれ、さらに荒波に揉まれるので、必死で穴を塞ぎ水を掻き出しながら漕がなきゃ沈みます。

もし3人で共同事務所を借りた場合は? それは、3人が近くでそれぞれに穴あきボートを漕いでるだけの話……。

理想はプールのビートバンです。小さな発泡スチロールの板ですが、絶対に沈まない。1人用ボートとかビートバンとか、こんな話を聞くと「それじゃ、いざというとき、誰も助けてあげられないじゃないか!」と思われるかもしれませんが、呑気なのもいい加減にしてほしいです。フリーランスに「誰かを助ける」余裕なんてあるわけがありません。「自分がどう生き延びるか」に、まずは集中してください。

フリーランスに「助け合い」は要らない

僕にはフリーの知人も多いですが、イメージしているのは、それぞれが冬山の断崖絶壁に張り付いている姿です。

登る山は皆、違うので、互いを助けることはできません。だから、たまに声をかけ合う。「おーい、大丈夫ー?」「おーい、頑張れー!」という感じです。

力及ばず滑落していく人を何人も見ました。滑落しても麓で生き残っていれば、違う山を勧め、紹介してあげることはできます。それが限界です。

「限界」をご理解いただく参考として、物書きと講師を仕事にしている、僕の例を紹介しましょう。

本を書きたがっている人に編集者や出版社を紹介しても、企画が通ることはまれです。そもそも、編集者自らが立案し、著者を探し依頼するような気合満点の企画でも、昨今は、なかなか通りません。出版社・編集者にとっては、「未来の著者候補」が1人増えただけで、そういう候補は、テーマごとにネットを探ればいくらでも出てくるからです。

また、講師枠が空いていることを確認したうえで講師の出講先を紹介しても、落ち目の人は買い叩かれます。というか、買い叩かれたように感じてしまう。当然ですが、紹介者よりギャラが安いからです。

書籍の企画が通らず、講師としても買い叩かれる。これが続くと、紹介者と当事者との関係はギクシャクしてきます。これでは互いに不幸になるだけ……。

1人で穴あき屋根なしのボートを漕ぎ、冬山の断崖絶壁を登る覚悟はできていますでしょうか? 「のんびりマイペース」は、大成功してから考えることなのです。

家族を説得する方法

もし、あなたが独立や副業を選ぶとしたら、家族にどう宣言するか? これは「邪魔されたくないが、ギスギスしたくもない」が本音ですよね。とくに会社を辞めてフリーになるとは、なかなか言い出せない。副業にしても、本業で特別な実績を上げていない人は、家族に悲観的な見方をされるのが普通です。

持つべき意識としては、新企画のプレゼンととらえていただければと思います。企画の意図、競合相手、成功事例、売り上げの見込み、必要コスト、リスク、リスクヘッジなどを盛り込んだ企画書を実際に作り、ご家族に見せてください。銀行に融資をお願いする場合に、今後の事業計画書を作成するのと同じで、当たり前の作業です。そのうえで、扶養家族(パートナーや子ども)に真剣に伝えて「本気で反対」されたら、賛成が得られるまではやめておきましょう。