菅首相、「手遅れ感が満載」の緊急事態再宣言

1月4日の年頭記者会見で質問を聞く菅義偉首相(写真:時事)

菅義偉首相が4日の年頭会見で、緊急事態宣言を再発令する方針を打ち出した。東京や神奈川など、首都圏を中心とした感染急拡大に歯止めをかけるのが目的だが、与党内からも「遅すぎた」との批判が噴出し、「手遅れ感満載」(自民若手)の方針転換となった。

しかも会見の中で、今年の政局の最大の焦点となる衆院解散のタイミングについて、菅首相は「秋のどこかで」と発言し、会見後に官邸報道室を通じて「秋までのどこかに」だったと慌てて訂正する騒ぎもあった。

首相官邸の仕事始めの混乱ぶりは、「錯乱状態のトップリーダー」(自民長老)を国民に印象付ける結果ともなった。

にじむ都知事への不満と不信

菅首相は、4日午前11時から首相官邸で年頭会見を行い、コロナ特別措置法に基づく緊急事態宣言について、東京、神奈川、千葉、埼玉の4都県を対象とした再発令を「検討する」と明言した。政府は諮問委員会や国会報告を経て7日中に正式決定、8日午前零時から実施する方針だ。

宣言の実施期間は2月第1週までの約1カ月間とする方向で、今回は飲食店への営業時間短縮などに対策を集中させる方針だ。小中高校の一斉休校は要請せず、宣言期間中の大学入学共通テストも感染対策を徹底することを前提に予定通り実施する。

菅首相は専門家らの分析を踏まえ、「飲食でのリスクを抑えることが重要だ」として、感染拡大が続く4都県で集中的に対策を取り、感染防止の実効性を高めたい考えを示した。

ただ、元日以降も緊急事態再宣言に慎重な姿勢を続けてきた菅首相の「朝令暮改」(立憲民主党幹部)のような方針転換には、「飲食店の時短営業を徹底できない東京都知事への不満と不信が原因」(政府筋)との思いがにじむ。

そもそも、東京の新規感染者数は2020年の大晦日に一気に1300人超へ急増した。しかし、この時点でも菅首相らの間に緊急事態宣言を検討する空気は薄かった。

しかし、正月休みで検査数が減った元日以降も、首都圏の感染者数は高止まりが続き、2日に小池百合子都知事らがコロナ担当の西村康稔経済再生相に宣言発出を求めて直談判した時点で状況が一変した。

危機感を強めた菅首相が、3日午後に西村氏や加藤勝信官房長官、田村憲久厚労相らと鳩首協議した席で、「(宣言を)やらないといけないな」と漏らし、方針転換が決まったとされる。

意地の張り合いが事態を悪化させた

これについて、首相周辺は「菅首相が小池都知事に『まずは時短要請を』と頼んだが動いてくれなかった」と小池氏への恨み節を口にしたが、与党内では、「これまでも繰り返されてきた菅、小池両氏の意地の張り合いが事態を悪化させた」(公明党幹部)との見方が広がる。

突然の方針転換で混乱する政府担当者を横目に、小池氏をリーダーとする首都圏の4知事は4日夜、飲食店に対する8日から31日までの午後8時閉店要請を政府に先行する形で緊急事態行動として決めた。同時に、4都県の住民に対して同時期の午後8時以降の不要不急の外出自粛要請も打ち出した。

菅首相の会見を受けて調整に着手した政府が、当初見込んでいた9日午前零時からの宣言発令を1日前倒しせざるをえなかったのも、小池氏らの行動が原因だ。菅、小池両氏は2020年7月のGoToトラベル開始時から「いがみ合い」(政府筋)を続けてきた。今回も「本来、最も連携が必要な首相と都知事の対立が迷走の原因」とされることが、国民の不信や不安を増幅させた。

年頭会見とその後の菅首相の言動にもブレや迷走が目立った。その象徴が衆院解散をめぐる菅首相の言い間違いだ。

菅首相は年頭会見で衆院解散の時期を問われると、「当面は新型コロナウイルスの感染対策を最優先に取り組んでいきたい」としたうえで、「秋のどこかで衆院選を行わなければならない」と発言した。