「影響力のない人」がわかっていない2つの原則

影響力のある人はいつの間にか周囲の人を巻き込み、味方にし、動かしていきます。この巻き込む力を支えているのが、「ストレングス」です。

人を動かす秘訣は、自ら行動したくなる気持ちを起こさせること。自ら動いてもらうために必要なのは、命令口調での指示や脅しではありません。人は誰かに認められ、求められていると感じたとき、行動を起こします。

そこで、影響力のある人たちは聞き手に自信を持たせるステップを踏み、「私は力にあふれている、行動力がある、能力がある、チャンスがある」といった感覚を持たせ、行動を後押ししているのです。

実は私も「ストレングス」を頻繁に使っていて、配信する動画で次のようなメッセージを繰り返し発信しています。

「このチャンネルを見ているみなさんは、間違いなく多くの知識を得ています。それはおそらく普通の人が一生触れないようなレベルの知識です」

「みなさんは解決方法となる知識、ツールを持っています。つまり、行動を起こす準備は整っているのです」

いずれも嘘偽りのない本心です。ただ、それをメッセージとして繰り返し発信しているのは、聞いた人に強さを与えることができると知っているからです。

「ここを見れば何か対応策が得られる」と思える動画チャンネルを知っていると、それだけで少し力が湧いてきます。そして、その情報を発信している人、自分の行動を後押ししてくれる人を信用するようになっていくのです。

過去と現在を比較してもらう

私は動画を通じて「ストレングス」を行なっていますが、もちろん、フェイス・トゥ・フェイスのコミュニケーションではより高い効果が期待できます。

大切なのは、聞き手の自己重要感を満たすよう働きかけること。人は誰かに認められ、求められているとき、自分は重要な存在だと信じることができます。すると、失われていた自信が回復し、モチベーションが高まり、行動力も増していくのです。

たとえば、今、あなたの身近に仕事や勉強でつまずき、自信を失っている人がいるとしましょう。あなたなら、どんな声掛けをしますか?多くの場合、「がんばろう」「この失敗も次につながるよ」など、ポジティブな言葉で相手を励ますのではないでしょうか。

しかし、影響力のある人は相手が自己重要感を取り戻すよう、もうひと工夫加えます。聞き手が「過去の自分」と「今の自分」を比較するきっかけとなるような言葉を贈るのです。
 
「ここまで努力してきたプロセスに目を向けてみよう。以前よりできることが増えていない? それは成長の証だし、このつまずきだってきっと次につながるよ」

「あなたのがんばりは僕も仲間もずっと見てきたし、知っているよ。一度結果が出なかったくらいで信頼は揺らがないし、挽回のチャンスはすぐにやってくるよ」

そんなふうに投げかけることで、聞き手が自分では気づけないままでいる成長と変化を指摘します。本人に自分を客観視するきっかけを提供するのです。

ポイントは誰かとの比較ではなく、本人の過去と現在に目を向けること。人は誰しも、自分のことを重要だと思いたいものです。その願いが満たされず、心が揺れ動いているときこそ、話し手は「あなたの存在そのものに価値がある」と伝えましょう。

相手が自分の成長や変化、持っている能力、価値を再発見できたとき、やる気は一気に高まります。まさに話し手の言葉によって、「ストレングス」されるのです。

「ストレングス」で自信を取り戻した人は…

好意は、人やグループに影響力を発揮するうえで欠かせない感情です。話し手であるあなたに対して聞き手が好意を抱くと、それが信頼関係を結ぶ土台となっていきます。

たとえば、歴史に名を残す大衆扇動家たちは聞き手である大衆の心に届く言葉を繰り出し、好意を引き出しています。アドルフ・ヒトラーは第1次世界大戦後の大不況で苦しい状況にいる国民に向け、「あなた方には戦う力があるはずだ」「どんな苦境に立たされてもドイツ国民としての誇りは失われていないはずだ」と働きかけ、支持を拡大。巧みな演説で国民の好意を引き出し、「我々が一致団結して戦うことができれば、必ず勝利が見える」と戦争に向けて国民を煽っていきました。