日本人が直面する働き方・学び方の大きな変化

須賀:おっしゃるとおりです。

(撮影:間部 百合)

柳川:グローバルの潮流も、段々とそのような方向に向かいつつあります。コロナウイルスのパンデミックの前から、MITは修士課程の一部を試験フリーにしてオンラインで授業を行い、その中からいい学生を選んで対面授業に進ませています。試験をなくし、オンラインで授業を行うことで、MITは世界中から学生を呼べるようになりました。低開発国に住む、優秀だけれども貧しい子供たちに対しても、オンラインであればリーチでき、優秀であれば、彼らに奨学金を出して、対面授業を受けさせることもできます。グローバルには、各大学がそういった意味での人材獲得競争をすることになり、日本もその競争から乗り遅れてはならないと感じています。

須賀:日本の大学も、さまざまな選択肢を検討できますね。

柳川:おそらく問題になるのは、入試がなくなることで、それまで試験のために頑張ってきた人が不公平になるのではないか、とか、入試産業をどうするのかということでしょう。前者の問題に関しては、入学ではなく、卒業が難しくなるということですから、大学入試のために一生懸命努力してきた人たちには、卒業のためにアドバンテージが残るはずなので、大きな問題にはならないと思っています。また、入試産業は、入学したものの、卒業できなくて困る子供たちをサポートする産業になればいいと思いますし、そのような産業があってもいいのではないでしょうか。

入試産業が“卒試”産業に変わる

須賀:入試産業が、”卒試”産業に変わるということですね。

柳川:はい。さらに、このように制度が改革されれば、社会人のリカレント教育にもいい影響があります。働き方改革などで、私が繰り返しお話ししてきた「40歳定年制」のメインとなるポイントは、社会人の学び直し、リカレント教育の重要性です。授業がオンラインになれば、社会人もより一層学びやすくなります。現在の学士や修士といった資格は、単位が大きすぎてそこまでの時間を割けないという人が多くいますが、オンラインであれば、修士コース全体の単位を取得するのではなく、ユニットごとに単位を取ったり、特定のクラスだけを受講したりするといったことにも対応しやすくなると思います。

須賀:大学の科目もアンバンドリング化が進むということですね。世界経済フォーラムでも、グローバルでポストを募集すると、履歴書に学士や修士以外でも、オンライン授業を提供するプラットフォームである、”Coursera”で授業をとって、特定のスキルについてアップデートしたり、補完したりすることを書く人を多く見かけます。

柳川:おっしゃるとおり、特定の資格とまではいかなくても、何かをこれだけ勉強しましたということが履歴書のうえでもアドバンテージになり、評価されるようになれば、1年や2年かけて修士を取るよりも手軽に学びやすくなり、より多くのことに挑戦できるようになります。

須賀:明るい未来が見えてくるような感じがします。一方で、日本経済は「失われた30年」とも言われるように、バブル崩壊以降大きく停滞し、さまざまな問題が山積しています。今後、日本社会にとって大きなリスクだと思われていることはなんでしょうか?

柳川:少子高齢化はやはり大きなリスクです。若くて、社会で活躍できる人が減っていきますが、現在の状況をきちんとマネージし、かつ社会全体としてのアウトプットをどうやって増やしていくかを考えなくては、社会保障が回らなくなってしまいます。私たちはとても大きなチャレンジを迎えています。

須賀:コロナ禍でも世代間の分断が垣間見えました。現在のような状況に対する処方箋としては、どういったことをお考えでしょうか?