組織が「エースじゃない従業員」に求めていること

組織の中に自分の役割をみつける……豊田順子氏が自身の経験を交えながら、エース以外の社員に託された役割について紹介します(写真:IYO/PIXTA)
日本テレビ放送網勤続30年、アナウンサー一筋で、最近は新人アナウンサーを鍛える「鬼教官」としても視聴者から人気を集める豊田順子氏。今や日テレアナウンス部の次長も務める同氏は、「エースや花形部署以外の従業員にも重要な役割がある」といいます。今回は、同氏の初著書『辞めない選択』から、自身の経験を交えながら、エース以外の社員に託された役割について紹介します。

番組から声がかからなければ出番は減る

放送局のアナウンサーはサラリーマンといえど人気商売の要素がありますので、その時々で注目されている人、そうではない人が出てきてしまいます。私たちはある意味、受注産業なので番組から声がかからなければ当然、出番は減ります。また、知らない顔を出すより視聴者におなじみの人を揃えたほうが、安定感が出るというのが演出側の定石でもあり、出番が多いアナウンサーにはますますいろいろな番組から声がかかり、その中から局の顔に育っていく人が出てきます。

私の若手時代は、ゴールデン番組に出演するアナウンサーは男性も女性もほぼ固定されていて、その人が売れっ子アナウンサーという受け止め方でした。

自局のアナウンサーが出演できる番組の数は決まっていますので、そのパイをどう分けるかという調整は、組織である以上、当然しなければなりません。平成の初めの頃まではキャスティングの偏りをコントロールする、マネージメントするという時代ではありませんでしたが、今は令和。人気も大事ですが、若手の育成、労務的なマネージメントという観点から、極力チャンスを与えようとする考え方も出てきています。

現場からの引きが多い人はアウトプットばかりになるので、自分の引き出しをつくるインプットの時間や経験を蓄積させる時間をつくってあげたい。担当する番組が少ない、エースになれないと足踏みしている人は表に出なくてもコツコツと力をためる仕事を覚えてほしい。

そう考えると、キャスティングは全体の中の最大公約数というのが落としどころになります。人気がある人に出番が集中するような9対1ではなく、少しでも8対2、7対3、6対4にしてあげるような差配をする必要があると思います。

私にキャスティングの決定権はありませんが、こうしたバランスを整えて、できるだけ若手にその時々のふさわしいアドバイスをしてあげたいと考えています。バラエティをやっている人もニュースを正確に読めるようになってほしいし、スポーツ番組では伝統の箱根駅伝中継もあるしサッカー中継も熱い。

それぞれのジャンルの基礎を全員に身につけてもらって、そこから本人の志向性や会社が育てたい道などをトータルに判断してキャスティングしていくことで、人気にでこぼこがあってもアナウンス部全体のパワーアップを図っていくことができると考えています。

組織の中に必ずあなたの役割がある

テレビ局に限らずどの会社にも花形部署があり、花形エースがいると思います。今、自分は活躍できていないと嘆いている人達も、組織の中には必ずあなたの役割はあるはずです。

私の経験を告白すると、実は若手の頃、バラエティ番組も担当してみたかった。楽しい演出と素敵な衣装、みんなが笑顔になれる夢のような世界。当時は女子アナブームの真っただ中で、フジテレビの女子アナ三人娘(有賀さつきさん、河野景子さん、八木亜希子さん)に対抗すべく、開局40周年記念企画としてDORAという女子アナ歌手ユニットも結成されました。抜擢されたのは私の2年上の永井美奈子さん、1年上の米森麻美さんときて、私を飛ばした1年下のヤブちゃんこと藪本雅子さん。見事に私の上と下で(笑)。