「せっかく〇〇したんだから…」の考えがヤバい訳

それまでに費やした資金や労力や時間が惜しいがために、その経済行為を続けてしまうと損失がより拡大するかもしれません(写真:buritora/PIXTA)
「新型コロナウイルスの出現によって変わりつつある世の中では、戦略的に“やめる”ことが大切」と語るのは「プレゼンの神」と呼ばれる元マイクロソフト業務執行役員の澤円さん。これまでの価値観にしばられずに、「いま、自分が本当にやりたいことなのか」を考え直すことが重要だといいます。なぜいまこの時代に、「やめる」ことが重要なのか。最新刊『「やめる」という選択』から一部抜粋、再構成して掲載します。

誰の人生にもある「埋没(サンク)コスト」とは?

「せっかくここまで頑張ったのだから、この案件は最後までやり切りたい」

「せっかく大企業に入れたのだから、転職せずに頑張りたい」

「せっかく続けてきたのだから、とにかくやっていこう」

このような「せっかく○○したのだから」という理由で続けていることはないでしょうか? 

仕事に関係のないことでも、

「せっかく買ったんだから使わないともったいない」

「せっかく遠くに旅行に行くんだから、ここにも寄らないと」

「せっかく資格を取ったんだから、何か生かせることをしないと」

といった具合です。

このこうした思考がまるで“重し”のようにのしかかり、気づかないうちにあなたの人生を停滞させるコストに化けてしまっていることがあるのです。

このような考え方や行動パターンは、経済学の概念である「サンクコスト」ととてもよく似ています。サンクコストとは、「ある経済行為(投資、生産、消費など)に支出した固定費のうち、どんな意思決定(中止、撤退、白紙化など)をしても回収できない費用」。それまでに費やした資金や労力や時間が惜しいがために、その経済行為を続けてしまい、損失がより拡大するおそれがあるコストのことです。

これを人生に当てはめると、前述のような「せっかく○○したのだから」という言葉で表せる思考と行動になる、というわけです。

そして僕は、この「せっかく○○したのだから」という思考や行動こそが、「頑張っているのに、なぜかうまくいかない」という状態を生み出していると考えています。

そして、「せっかく○○したこと」がコストに化けているのならば、思いきってやめてみたらどうかと思います。

たとえば、「会社をやめたいな、でもやっぱりやめるのはもったいないかな」と考えるとき、その「やめない」と判断した理由が、「せっかく入ったのだから」ということだけなら、これはもう「やめてしまったほうがいい」状態なのだと思います。なぜなら、少し極端かもしれませんが、その会社に入社した時点である意味では目標を達成しているからです。それ以上、その会社にい続ける理由がないともいえますよね。

ある会社に入社したという事実が決断の大きな理由になるのなら、それは失うことをおそれるだけの状態であり、ただのサンクコストになっています。

もちろん頑張って希望の会社に入社したわけだから、自分を否定する必要はありません。自分の心のなかの「思い出箱」に、その会社で得た経験を大切にしまって、次の道へ進めばいいのです。

「いいか? 俺が若い頃はな……」がやめられない理由

自分の成功体験を、自分のなかだけの誇らしい思い出として持つのはいいですが、つねに自分をアップデートしていく意識がなければ、自分が誇りとしてきた過去の価値観に、いまの自分が簡単に固定されてしまいます。

そうして少しずつ成長が止まり、人生を豊かにするための大切な時間の使い方ができない状態になっていくのです。

あげくは、「いいか? 俺が若い頃はな……」と、部下や後輩たちに言い出しかねません。あなたのまわりにも、このような成長と思考が停止し、ただ部下の邪魔をするだけの上司はいませんか?