侍ジャパンの金メダルで「野球離れ」は止まるのか

金メダルを獲得した侍ジャパン(写真:千葉 格/アフロ)

2008年の北京五輪以来の野球競技は、日本の金メダルで幕を閉じた。日本は公開競技だった1984年のロサンゼルス五輪で金メダルを取ったことはあるが、正式競技となってからは初めてだ。

日本チームの関係者はほっと胸をなでおろしたことと思われる。端的に言えば日本は「鉄板の本命」だった。参加国はわずか6、日本と韓国を除く4カ国は寄せ集めのチームで、中にはいったん引退した選手や所属チームが決まっていない選手もいた。自国のトップリーグの精鋭を選抜することができたのは日本と韓国だけだった。

現役メジャーリーガーが不参加の理由

各国がこうした陣容になったのは、「MLBが一切協力しなかった」ためだ。今回の野球五輪競技の運営を仕切ったのは「WBSC(世界野球ソフトボール連盟)」だ。WBSCはMLBと資本関係があり、その影響下にあるが、世界のトップリーグであるMLBは従来の方針どおり、現役のメジャーリーガーは派遣しなかった。

トップクラスのメジャーリーガーは、球団と巨額の複数年契約を結んでいる。彼らがMLBのペナントレースと関係のないイベントでプレーしてケガや故障をすることは、球団にとって巨額の損失を意味する。球団オーナーはこれを恐れて五輪への選手派遣に首を縦に振らないのだ。

それはアメリカの選手だけではない。ドミニカ共和国、メキシコ、イスラエル、韓国、そして日本のメジャーリーガーも同様だ。だから大谷翔平が侍ジャパンのユニフォームを着てプレーすることはありえないのだ。

そんな中で、日本はNPBのトップクラスの選手を選抜した。昨年の両リーグMVP、沢村賞、新人王を受賞した5選手のうち、セMVPの巨人の菅野智之は辞退したが、パMVPのソフトバンク柳田悠岐、セ新人王の広島、森下暢之、パ新人王の西武、平良海馬、沢村賞の中日、大野雄大が出場した。タイトルホルダーも多く、まさにベストメンバーだった。

韓国もKBO(韓国プロ野球)のトップ選手を招集した一方、他の4カ国は、まだ働けそうな元メジャーリーガーと、若手マイナーリーガーでチームを編成した。

中にはドミニカ共和国のホセ・バティスタ、メルキー・カブレラ、メキシコのエイドリアン・ゴンザレス、アメリカのトッド・フレージャー、スコット・カズミアー、イスラエルのイアン・キンズラーのようにMLBのオールスター戦に出場した元スーパースターもいたが、すでにMLB球団を退団しており「時価」での実力には疑問符が付いた。

またドミニカ共和国のファン・ロドリゲス、アメリカのシェーン・バズのようにMLBのトッププロスペクト(有望株)ランキングの上位に載るような若手選手もいたものの、有望マイナーリーガーの出場も少なかった。MLB傘下のマイナーリーグはコロナ禍のため昨年は全休になった。メジャーリーガーを目指す多くの若手にとって1年ぶりのマイナーリーグでの出世争いのほうが、オリンピックより重要だったのだ。

「日本の敵は日本」という状態

そんな中で、各国が目をつけたのは「日本でプレーする選手」だった。NPBはMLBに次ぐレベルのプロリーグだ。そしてNPBは選手の東京五輪出場を奨励している。NPBでバリバリ活躍する選手(日本から見れば外国人選手)は、即戦力として期待できる。

アメリカは、DeNAのタイラー・オースティンが中軸に座り、ソフトバンクのニック・マルティネスが先発、ヤクルトのスコット・マクガフ、この春までオリックスのブランドン・ディクソンが救援で参加。ドミニカ共和国は巨人のC.C.メルセデス、エンジェル・サンチェスが先発、元巨人のフアン・フランシスコが中軸、メキシコは元阪神のエフレン・ナバーロが中軸を打った。メキシコは独立リーグ・茨城アストロプラネッツでプレーするセサル・バルガスも招聘している。