私たちはなぜ眠る?日本人に足りない眠りの効能

ストレスと不安を緩和させ、心の健康を手に入れるための睡眠とは? (写真:EKAKI/PIXTA)
母親のアルツハイマー闘病生活をきっかけに健康や脳のはたらきについて学び、ニューヨークタイムズ・ベストセラーとなった『Genius foods』(未邦訳)の著者であるマックス・ルガヴェア氏が、このたび健康的な生活を送るための実践的なガイドブックとして『ジーニアス・ライフ』を上梓した。
食生活のみならず、エクササイズや自然との関わりなど生活全般についてまとめられた本書から、今回は高まるストレスと不安を緩和させ、心の健康を手に入れるための睡眠について、一部を抜粋してお届けする。

睡眠不足で一気に加齢する脳

「ジーニアス・ライフ」にとって、からだにいい食生活を送り、太陽の光を浴びることと同じくらい重要なのは、質の高い眠りだ。

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睡眠は血圧と血糖値を下げ、ホルモンを調節し、代謝を促し、からだを強くしてくれる。究極のアンチエイジングであり、とりわけ脳を若々しく保ってくれる。注意力を高め、情報を受け取り、保存する力も向上する。

睡眠不足になると、その反対のことが起きてしまう。睡眠時間が慢性的に4時間未満の人は、認知能力の脳年齢が一気に8歳も進んでしまうという。

慢性的な睡眠不足は、からだのあらゆるシステムに影響を及ぼす。そして、その一部は代謝機能の低下が原因で起きる。

●睡眠時間が減ると血糖値が高くなる

動物実験でも人間の臨床試験でも、睡眠時間が減ると、インスリン感受性が低下する。つまり、からだがより多くのインスリンを生成し、血糖値が高いままの状態が続くのだ。

アメリカ内分泌学会が発表したある研究によると、睡眠時間がたったひと晩、8.5時間から4時間に減っただけで、“一夜にして”代謝性肥満が生じるという。

これは、体重が9~14キロ増えた時の影響に相当するようだ。肝臓で糖と脂肪の産生が増えて、血糖の効率的なコントロールができなくなってしまうのだ。高血糖はやがて血管を傷つけ、脳を含む全身の器官に酸素を運ぶ血管の働きを阻害する。

睡眠はまた、脳を毎晩、脳脊髄液に浸すことで冴えた頭脳を維持する。睡眠中は、脳脊髄液が脳内に滲み出し、有害な老廃物を押し流してくれる。

この老廃物には、アルツハイマー病患者の脳に見られる異常タンパク質(アミロイドβとタウタンパク質)も含まれる。たったひと晩でも睡眠時間が短いと、脳脊髄液中のアミロイドβは30%、タウタンパク質は50%も濃度が高くなってしまうという。

これらの濃度が高いと、そのふたつが蓄積して凝集し、アルツハイマー病の特徴であるプラークと「もつれ」を形成しやすくなってしまう。

睡眠とうつ病の関係

最近では、長引くうつ病の原因は睡眠障害にあると結論づける研究結果も増えてきた。睡眠とうつ病との関係は、つまるところ、脳の奥深くに位置する扁桃体に行き着くのかもしれない。

過敏な扁桃体は、ごくささいな出来事でも大きなストレス要因と捉える。多くのうつ病患者の扁桃体は活発だ。驚くべきことに、たったひと晩睡眠不足だっただけで、扁桃体が約60%も反応しやすくなると主張する人もいる。睡眠不足のときにイライラしやすい理由もここにある。

睡眠が足りているときには、前頭前皮質の“理性の声”が扁桃体の働きを抑制する。幸せを感じやすくなり、ストレスに強くなる。

カリフォルニア大学教授のマシュー・ウォーカーは、睡眠負債(毎日の睡眠不足の積み重なり)が社交生活に及ぼす影響について研究している。