FIREを目指す人が知るべき「3つの不都合な真実」

「FIRE」で人は本当に幸せをつかめるのか?(写真:PeopleImages/iStock)

最近、ビジネスパーソンの間で「FIRE」が注目されています。FIREとは「Financially Independence, Retire Early」の頭文字で、若いうちに経済的に自立し、仕事を辞めることです。

ネットや雑誌では、「30代で億り人(資産1億円)になってリタイアし、南の島でのんびり暮らしてます」といった成功事例が紹介されています。また、フィナンシャル・プラナーや証券会社によるFIRE実現のノウハウ指南もよく目にします。

ただ、夢のような話には落とし穴が付きもの。そんなにうまくFIREが実現するものでしょうか。今回は「FIREを目指す人が見落とす3つの盲点」を紹介します。

「年率4%」の盲点

早期退職するには、まず経済的自立を実現する必要があります。資産がどのくらいあれば実現可能なのでしょうか。ここでフィナンシャル・プラナーなど専門家が提唱するのが「4%ルール」です。

「4%ルール」とは、リタイア後の資産運用で4%の利回りを確保し、生活費など年間支出を運用資産の4%未満に抑えることで資産を取り崩すことなく生活できる、という考え方です。

つまり、年間支出の25倍の資産があればFIREできるというわけです。年間支出が200万円なら5000万円、年間支出が400万円なら1億円の資産が必要となります。

ここで1つ目の盲点は、「本当に4%で資産運用できるのか?」ということです。定期預金や国債の利回りはほぼゼロなので、4%の利回りを確保するには株式投資(などハイリスクの資産運用)をする必要があります。

過去の日経平均の複利の年平均利回りは、以下の通りです。

直近10年(2010年末~2020年末)10.36%
直近20年(2000年末~2020年末)3.50%
直近30年(1990年末~2020年末)0.47%

直近10年の数字を見ると、「4%くらいは楽々行けるでしょ」と思いますが、直近20年、直近30年を見ると、4%は高いハードルです。

しかも、日経平均先物は、プロの機関投資家が大半の取引をしており、この利回りはプロの平均的な成績と言えます。4%という利回りは素人投資家がプロと戦って勝つことを意味し、現実的ではありません。

なお、列挙した利回りは税引き前ベースで、そこから所得税や取引手数料を差し引かれるので、実質の利回りは下がります。

さらに、私たちは生活費の支出や非常時に備えて預金を持つ必要があり、資産をすべて運用に回せるわけではありません。「俺は6%で運用しているよ!」という凄腕の個人投資家も、所有資産5000万円のうち6割の3000万円を株で6%で運用しているなら、所有資産に対する利回りは、3.6%(=6%×6割)になるわけです。

「預金取り崩しの恐怖」に耐えられますか?

2つ目の盲点は、「預金取り崩しの恐怖」です。

仮に資産運用の才能があり、4%の利回りを実現できるとしても、それは長期間の平均の話。株は大きく値上がり値下がりするので、ときに利回りが4%を下回り、マイナスになります。つまり、株に投資している限り、生活費などの支出のために運用資産を取り崩すという場面が出てきます。

ここで、「逆にプラスのときもあり、平均ではプラスなんだから、マイナスになったら一時的に取り崩せば済む話」と言い切る専門家がいます。理屈はまったくその通りですが、おそらくこうした専門家は、預金取り崩しの恐怖を経験したことがないのでしょう。

私事ですが、20年前に会社員を辞めてコンサルティング事務所を開業したとき、なかなか受注が増えず、預金を取り崩す生活が7カ月くらい続きました。預金通帳の残高がだんだん減っていくのを見て、「俺はこのまま破産するのか……」と恐怖に身が震えました。妻からは「いつまでこんな生活が続くのよ」と非難され、一時的に夫婦関係も悪化しました。