人手不足だけど「50代は削減」日本企業のジレンマ

人手不足が深刻になりつつある今、50代以上の人材の配置転換がカギになる(写真:kouta/PIXTA)

コロナ感染者数の減少で会社の業績が回復基調になったという会社もちらほら聞くようになりました。ところが、いいことばかりではありません。人手不足で業務に支障が出ている会社が増えているようです。

たとえば、来店客が増えてきた飲食店ではシフトに入るスタッフがいない。製造業でもラインの稼働を増やしたいけど人員が足りない。正社員が不足する会社も4割を超える状況になってきました。

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アメリカでも人手不足で宅配ピザの価格が大幅にアップ、1ドルショップが初の値上げに踏み切るなど、物価上昇に影響が出始めています。日本もひとごとではなく、深刻な問題が起き始めているようです。

例えば、北関東の製造業の社長に聞いた話です。大手メーカーの生産体制が国内回帰して、注文が急増。ところが工場の技能職が足りず、新規採用を始めてから半年が経過したが1名も採用できないとのこと。このままでは来年度以降はメーカーの注文を断ることになるかもしれないが、1回断ると次の仕事に影響する……。そんな不安を語ってくれました。

コロナからのV字回復に「人手不足」が大きな問題として立ちふさがりそうな気配が漂っています。

採用基準を緩和してみるも…

打開するための妙案はないのか。まず思いつくのが「採用基準の緩和」です。

ある食品加工会社では、欲しい人材は20代若手で、40歳を超えると採用基準外と、応募があっても実質採用ゼロと考えているとのことでした。こんな会社は多そうですが、少子化が進み、若手人材の希少性が高まり、年齢幅の狭いこうした採用基準では応募を増やすのは難しいものがあります。年齢不問で選考すれば、何名か採用できそうです。

ただ、職場では年齢別のヒエラルキーが存在しており、40歳を超えた人材は若手と同じ仕事はさせられない。あるいは採用したが、うまくいかなかったなど、ネガティブに反応する会社が大半です。

ならば、ほかに代案はあるでしょうか? 新規採用するのではなく、社内の人材を配置転換して不足を補うことはできないでしょうか。

どこの会社でも人材は全社まんべんなく人手不足というわけではなく、余剰な人を抱える部署や年代層が存在しているもの。その典型が50代超の人材かもしれません。

ところが、人手不足の中、50代以降の人材に早期退職を行う会社が増えています。東京商工リサーチの調査によると2021年の上場企業の早期・希望退職者募集人数が10月31日までに72社、1万4505人。前年に続いて高水準が続いています。

最近はフジテレビが創業以来初で希望退職を行うことが話題になりましたが、もはや50代社員が多い会社では当たり前のように行われるようになりました。しかも早期退職を募集しながら、人手不足だからと同時に若手の新規採用を意欲的に行うことに抵抗感もなくなっています。

20年前なら雇用調整は最後の手段でした。新規採用はストップして、コスト削減などやるべき手を尽くした後でないと、リストラは社内でも納得が得られないと考えられていました。大きな時代の変化を感じます。

先日、お会いした中堅製造業でも、新卒採用の強化と50歳以上の早期退職を同時に実施。アフターコロナの成長戦略の一環であると人事部長が話してくれました。

多くの企業で早期退職が勧められている理由

人手不足にもかかわらず、どうして50代超の社員に対して早期退職を勧める企業は増えているのか?

新しい仕事への適応力の問題もありますが、モデル賃金の設定で報酬が高止まりしていることが要因の1つとなっているように思えます。