「仕事の借りは仕事で」ではメンタル復活しない訳

気持ちがヘコんだとき、回復できる自己肯定感の高めかたとは(写真:C-geo/PIXTA)
仕事や学習の成果に大きく関与する「自己肯定感」。昨今、教育界でも「自己肯定感」を育むことの大切さが声高に言われるようになった。ではどうやって自己肯定感は高めていけるのか。『全米トップ校が教える自己肯定感の育て方』を刊行したスタンフォード大学オンラインハイスクール校長の星友啓さんに、気持ちがヘコんだときにも回復できる自己肯定感の高めかたを聞いた。

仕事や人間関係でヘコんだとき

仕事や人間関係でヘコんだとき、皆さんはいろいろな方法で気晴らしをしようとしますよね。

しかし、何をしていてもヘコんだことを考えてしまうこと、ありませんか?そもそも、気晴らしはもともとのヘコみの原因から逃げているだけではないのか、と自己嫌悪に陥ってしまうこともあるかもしれません。

つまり、こういうことですね。

「今現在ヘコんでしまっている問題のほかの部分でポジティブになっても、ヘコみの原因となった問題は解決しない。だから、ヘコみの外で自己肯定して一時的に気分が良くなったとしても、またネガティブになってしまうのではないだろうか。やはり、仕事でヘコんでいるのなら、仕事で自己肯定をすることが必要だ」と。

これは、自己肯定理論を理解するのにまさに最重要のポイントです。

人間は誰もがいろいろな「顔」を持っています。仕事の顔、家庭の顔、趣味のクラブでの顔……。例えば、仕事の「顔」でヘコむことがあった時、その脅威に晒されている自分の「顔」を直接自己肯定しようとするのは逆効果だと明らかにされているのです。

つまり、仕事でヘコんだときに、仕事に関係することで自己肯定をしようとすると、余計ネガティブになってしまったり、かえって目の前の問題をそのまま受け入れることが難しくなってしまうことがあります。

つまり、同じ自己肯定でも、その時々で、肯定するべき「顔」を慎重に選ぶ必要があります。

自己肯定ならなんでもいいというわけではなく、脅威に晒された「顔」以外、いわば、ヘコみの外での自己肯定ができなければいけません。これが自己肯定理論を実践するための最重要メッセージです。

ヘコんだ「顔」とは違う「顔」で自己肯定をすることは、決して問題から逃げるということにはなりません。むしろ、問題から目を背けようとする心のクセを抑えて、現実を受け入れる心の準備を整えてくれるのです。

例えば、こういうことです。仕事でヘコんで、家に帰り、いつものままの家族と過ごしたとき、明日また頑張ろうと思える。そうした場合、自己肯定理論によれば、自分の仕事の役割とは別の家族の中での役割で自己肯定ができたと解釈できます。

そして、もちろん、明日仕事に行っても、もともとの仕事で起きた問題自体は未解決のまま残っているわけですが、家族による自己肯定で自分自身の心の安定を維持することができたので、もともとの問題に向き合うための心の準備ができているのです。

いわば、自分の心が傷ついたとき、その傷に直接薬を塗ろうとしても激痛のため難しいので、まずは、そのほかの部分をケアすることで、心全体として傷を癒す準備を整えることができるのです。

プレッシャーにも強いメンタルを作る

そして、ヘコみの外での自己肯定は、実際にヘコんだときの対処の方法を与えてくれるだけではなくて、将来に起こるかもしれない心をヘコます状況に備えて、強いメンタルをつくるのにも役立ちます。

まず、ヘコみの外の自己肯定で違う価値観や違う意見に、よりオープンな気持ちを保つことができます。

自分と違う意見は心への脅威となりかねません。特に自分がとことん信じ込んでいることを否定するような考えはなおさらです。そのため、異なる意見に出くわしたときに、否定的になってしまったり、真剣に取り合わない態度になってしまったりするのは、私たちの自然な心の傾きです。