文字の大きさ
大
中
小
461 / 673
第9章 オレはケレメイン大公国の大公妃殿下です。
461.オレは、ミーレ長官に交代と、退出を伝えましたが、ミーレ長官は、従いません。ミーレ長官についていた部下の姿が、見当たりません。
「ミーレ長官。交代だ。部屋を出ろ。」
オレは、語気が強くならないように注意しながら話す。
ミーレ長官は、言葉を発さず、一向に部屋を出ようとしない。
部屋の中にいるはずのドリアン王国の侯爵子息も、言葉を発さない。
部屋の中にいるはず、というのは。
オレと女神様の立っている角度から、ドリアン王国の侯爵子息が見えないから。
扉を開けて、見えない場所に誰かがいると分かる部屋に、足を踏み入れる気は、オレにはない。
何かを企んでいるとしか思えない人が待っているなら、向こうがしびれを切らすまで、待たせておく。
ドリアン王国の侯爵子息は待たせるとしても。
ミーレ長官は、どうしたものか?
様子がおかしい人に、おかしいぞ、と指摘するのも、刺激するのも、止めたほうがいい。
信頼関係が出来上がっていない間柄では、特に。
オレが、ミーレ長官に顔がヤバいから休んでこい!と伝えて、ミーレ長官が、分かりました、と素直に受け入れてくれるだけの信頼関係が、オレとミーレ長官の間にはない。
オレは、ミーレ長官を信用しているけれど、ミーレ長官からオレへの信用度合いは、なくはないけれど、オレより低い。
ミーレ長官と接してきて、分かってきたことがいくつかある。
礼儀正しく振る舞うこと。
自分自身が権力を使うこと。
権力者に従うこと。
ミーレ長官は、どれも、そつなくできる。
ただし、そこに、ミーレ長官の心があるかは、不明。
周りに振り回されてきて、自分自身以外の意図で動かされてきたミーレ長官の人生の中で、ミーレ長官が身についた生き方。
ミーレ長官の心の機微を見せられる相手は、限られている。
ミーレ長官が、お母さんの客死事件の追求を止めない姿を見せているミーレ長官の奥様や息子さんは、ミーレ長官が、心を許している数少ない相手だった。
でも。
ミーレ長官の奥様は、ケレメイン大公国に来たタイミングで、亡くなったお母さんのことばかりを追って、生きている妻子を忘れることがないように、と、ミーレ長官に釘をさしている。
ミーレ長官の奥様は、ミーレ長官に釘をさして、話し合いをしたことで、ミーレ長官が、変わったと信用している。
ミーレ長官の奥様と息子さんの立場からすれば、ミーレ長官が生きている家族に向き合うようになってくれたことは、喜ばしいから、態度が変わったミーレ長官の内面には言及しない。
オレの推測だけど。
ミーレ長官の奥様の指摘によって態度を改めたミーレ長官は、家族に対しても、内面を見せなくなったんじゃないかな。
ミーレ長官は、家族との関係を破綻させて、居場所を失ってしまわないように、本心を家族から隠した。
オレは、そんな気がしている。
我慢強い人の中には、我慢することが常態化していて、我慢すること、我慢しないことの加減がわからなくなって、我慢するのが当たり前だから、我慢し続けている人がいる。
我慢し続けているうちに、限界がきて壊れてしまう人もいる。
覆い隠した心の内側に、我慢し続けた感情が蓄積して、ヘドロ化してしまう人もいる。
感情がヘドロ化してしまうと、ヘドロを一掃するまで、ヘドロ化した部分が広がり続ける。
ヘドロ化した感情は、表面上見えなくされているだけ。
勝手に消えない。
無くならない。
心の内側にためこんだヘドロは、本人の我慢強さが、外に出すまいとする。
ミーレ長官は、本心を隠して、我慢して、表面を繕うことで生きてこれた。
感情の発露する場所をなくしていたミーレ長官。
顔は認識していても、交流したことはなかったドリアン王国の侯爵子息と、ミーレ長官が出会ったことが、ドリアン王国の狙い通りなら。
ドリアン王国の侯爵子息は、ミーレ長官の隠された本心を揺さぶっていると思う。
同時に。
ミーレ長官には、ミーレ長官の本心を理解して、寄り添う人がいないことを突きつけていないかな?
ドリアン王国の侯爵子息は、ミーレ長官に寄り添うとは言わないと思う。
ドリアン王国のやり方を侯爵子息が踏襲しているなら、ミーレ長官に寄り添うことで味方に引き入れることはしない。
ドリアン王国のこれまでのやり方から予想すると、ドリアン王国の侯爵子息は、ミーレ長官に、苦しい現実を突きつけて、判断を狂わせる方法をとったと思う。
ミーレ長官は、今、オレの前で、心の内側に溜め込んでいたヘドロにまみれている。
ミーレ長官の奥様と息子さんに捨て台詞を吐いたドリアン王国のスパイが、ミーレ長官の奥様と息子さんに接触した時点で。
ミーレ長官は、この状態に出来上がっていたのかな?
ミーレ長官が、狙われていると考えもしなかったオレの失策。
事態は、想定していた以上に悪化している。
この場を立ち去って、カズラくんがいる安全圏に逃げたい。
でも。
今のミーレ長官に背中を向けたら、ミーレ長官と信頼関係を築く機会は、永遠に失われてしまう気がする。
今のミーレ長官を突き放してはいけない。
ミーレ長官を突き放す姿勢を見せたら、ダメだ。
オレは、冷静に周りを観察するように努めた。
ドリアン王国の侯爵子息がいる部屋の周囲には、ミーレ長官の部下が、一人も見当たらない。
ミーレ長官か、ドリアン王国か。
どちらが、ミーレ長官の部下を遠ざけたのかな?
ミーレ長官についていた部下は今どこにいる?
ミーレ長官についていた部下からの報告が上がってこなかったのは、ミーレ長官が止めていたのかな?
それとも?
オレは、語気が強くならないように注意しながら話す。
ミーレ長官は、言葉を発さず、一向に部屋を出ようとしない。
部屋の中にいるはずのドリアン王国の侯爵子息も、言葉を発さない。
部屋の中にいるはず、というのは。
オレと女神様の立っている角度から、ドリアン王国の侯爵子息が見えないから。
扉を開けて、見えない場所に誰かがいると分かる部屋に、足を踏み入れる気は、オレにはない。
何かを企んでいるとしか思えない人が待っているなら、向こうがしびれを切らすまで、待たせておく。
ドリアン王国の侯爵子息は待たせるとしても。
ミーレ長官は、どうしたものか?
様子がおかしい人に、おかしいぞ、と指摘するのも、刺激するのも、止めたほうがいい。
信頼関係が出来上がっていない間柄では、特に。
オレが、ミーレ長官に顔がヤバいから休んでこい!と伝えて、ミーレ長官が、分かりました、と素直に受け入れてくれるだけの信頼関係が、オレとミーレ長官の間にはない。
オレは、ミーレ長官を信用しているけれど、ミーレ長官からオレへの信用度合いは、なくはないけれど、オレより低い。
ミーレ長官と接してきて、分かってきたことがいくつかある。
礼儀正しく振る舞うこと。
自分自身が権力を使うこと。
権力者に従うこと。
ミーレ長官は、どれも、そつなくできる。
ただし、そこに、ミーレ長官の心があるかは、不明。
周りに振り回されてきて、自分自身以外の意図で動かされてきたミーレ長官の人生の中で、ミーレ長官が身についた生き方。
ミーレ長官の心の機微を見せられる相手は、限られている。
ミーレ長官が、お母さんの客死事件の追求を止めない姿を見せているミーレ長官の奥様や息子さんは、ミーレ長官が、心を許している数少ない相手だった。
でも。
ミーレ長官の奥様は、ケレメイン大公国に来たタイミングで、亡くなったお母さんのことばかりを追って、生きている妻子を忘れることがないように、と、ミーレ長官に釘をさしている。
ミーレ長官の奥様は、ミーレ長官に釘をさして、話し合いをしたことで、ミーレ長官が、変わったと信用している。
ミーレ長官の奥様と息子さんの立場からすれば、ミーレ長官が生きている家族に向き合うようになってくれたことは、喜ばしいから、態度が変わったミーレ長官の内面には言及しない。
オレの推測だけど。
ミーレ長官の奥様の指摘によって態度を改めたミーレ長官は、家族に対しても、内面を見せなくなったんじゃないかな。
ミーレ長官は、家族との関係を破綻させて、居場所を失ってしまわないように、本心を家族から隠した。
オレは、そんな気がしている。
我慢強い人の中には、我慢することが常態化していて、我慢すること、我慢しないことの加減がわからなくなって、我慢するのが当たり前だから、我慢し続けている人がいる。
我慢し続けているうちに、限界がきて壊れてしまう人もいる。
覆い隠した心の内側に、我慢し続けた感情が蓄積して、ヘドロ化してしまう人もいる。
感情がヘドロ化してしまうと、ヘドロを一掃するまで、ヘドロ化した部分が広がり続ける。
ヘドロ化した感情は、表面上見えなくされているだけ。
勝手に消えない。
無くならない。
心の内側にためこんだヘドロは、本人の我慢強さが、外に出すまいとする。
ミーレ長官は、本心を隠して、我慢して、表面を繕うことで生きてこれた。
感情の発露する場所をなくしていたミーレ長官。
顔は認識していても、交流したことはなかったドリアン王国の侯爵子息と、ミーレ長官が出会ったことが、ドリアン王国の狙い通りなら。
ドリアン王国の侯爵子息は、ミーレ長官の隠された本心を揺さぶっていると思う。
同時に。
ミーレ長官には、ミーレ長官の本心を理解して、寄り添う人がいないことを突きつけていないかな?
ドリアン王国の侯爵子息は、ミーレ長官に寄り添うとは言わないと思う。
ドリアン王国のやり方を侯爵子息が踏襲しているなら、ミーレ長官に寄り添うことで味方に引き入れることはしない。
ドリアン王国のこれまでのやり方から予想すると、ドリアン王国の侯爵子息は、ミーレ長官に、苦しい現実を突きつけて、判断を狂わせる方法をとったと思う。
ミーレ長官は、今、オレの前で、心の内側に溜め込んでいたヘドロにまみれている。
ミーレ長官の奥様と息子さんに捨て台詞を吐いたドリアン王国のスパイが、ミーレ長官の奥様と息子さんに接触した時点で。
ミーレ長官は、この状態に出来上がっていたのかな?
ミーレ長官が、狙われていると考えもしなかったオレの失策。
事態は、想定していた以上に悪化している。
この場を立ち去って、カズラくんがいる安全圏に逃げたい。
でも。
今のミーレ長官に背中を向けたら、ミーレ長官と信頼関係を築く機会は、永遠に失われてしまう気がする。
今のミーレ長官を突き放してはいけない。
ミーレ長官を突き放す姿勢を見せたら、ダメだ。
オレは、冷静に周りを観察するように努めた。
ドリアン王国の侯爵子息がいる部屋の周囲には、ミーレ長官の部下が、一人も見当たらない。
ミーレ長官か、ドリアン王国か。
どちらが、ミーレ長官の部下を遠ざけたのかな?
ミーレ長官についていた部下は今どこにいる?
ミーレ長官についていた部下からの報告が上がってこなかったのは、ミーレ長官が止めていたのかな?
それとも?
感想 84
あなたにおすすめの小説
異世界転移してΩになった俺(アラフォーリーマン)、庇護欲高めα騎士に身も心も溶かされる
ヨドミもし生まれ変わったら、俺は思う存分甘やかされたい――。
アラフォーリーマン(社畜)である福沢裕介は、通勤途中、事故により異世界へ転移してしまう。
異世界ローリア王国皇太子の花嫁として召喚されたが、転移して早々、【災厄のΩ】と告げられ殺されそうになる。
【災厄のΩ】、それは複数のαを番にすることができるΩのことだった――。
αがハーレムを築くのが常識とされる異世界では、【災厄のΩ】は忌むべき存在。
負の烙印を押された裕介は、間一髪、銀髪のα騎士ジェイドに助けられ、彼の庇護のもと、騎士団施設で居候することに。
「αがΩを守るのは当然だ」とジェイドは裕介の世話を焼くようになって――。
庇護欲高め騎士(α)と甘やかされたいけどプライドが邪魔をして素直になれない中年リーマン(Ω)のすれ違いラブファンタジー。
※Rシーンには♡マークをつけます。
ギャップがあり過ぎるけど異世界だからそんなもんだよな、きっと。
一片澪※異世界人が全く珍しくないその世界で神殿に保護され、魔力相性の良い相手とお見合いすることになった馨は目の前に現れた男を見て一瞬言葉を失った。
衣服は身に着けているが露出している部分は見るからに固そうな鱗に覆われ、目は爬虫類独特の冷たさをたたえており、太く長い尾に鋭い牙と爪。
これはとんでも無い相手が来た……とちょっと恐れ戦いていたのだが、相手の第一声でその印象はアッサリと覆される。
男だって愛されたい!
朝顔レオンは雑貨店を営みながら、真面目にひっそりと暮らしていた。
仕事と家のことで忙しく、恋とは無縁の日々を送ってきた。
ある日父に呼び出されて、妹に王立学園への入学の誘いが届いたことを知らされる。
自分には関係のないことだと思ったのに、なぜだか、父に関係あると言われてしまう。
それには、ある事情があった。
そしてその事から、レオンが妹の代わりとなって学園に入学して、しかも貴族の男性を落として、婚約にまで持ちこまないといけないはめに。
父の言うとおりの相手を見つけようとするが、全然対象外の人に振り回されて、困りながらもなぜだか気になってしまい…。
苦労人レオンが、愛と幸せを見つけるために奮闘するお話です。
[BL]異世界転移して獣人王子様に見初められた俺がオメガになって世界を救う、かもしれない!?
わをん留学先のウィーンに向かう途中、飛行機事故の巻き添えになった俺。気づいたら異世界に迷い込んでいたーー。
「お前が生き残る道はこれしかないんだ! とにかく今すぐ俺と結婚しろ!」
第一印象最悪の俺様系獣人が王子様で男の俺に雑なプロポーズ!? 子供を産まなきゃ解放しないって何だそれ!
〈運に見放された男が運命の番となる獣人と出会い、抗えぬ絆に導かれて恋に落ちていくさまを描きます〉
*スタンダードなオメガバース設定にファンタジー要素を独自アレンジしています。物語を始める前に簡単な解説、世界観と設定を書きましたのでご一読くだされば幸いです。
*表紙画像はOpenAIのDALL·Eによります。
猫を追いかけて異世界に来たら、拾ってくれたのは優しい貴族様でした
水無瀬 蒼清石拓也はある日飼い猫の黒猫・ルナを追って古びた神社に紛れ込んだ。
そこで、御神木の根に足をひっかけて転んでしまう。
倒れる瞬間、大きな光に飲み込まれる。
そして目を覚ましたのは、遺跡の中だった。
体調の悪い拓也を助けてくれたのは貴族のレオニス・アーゼンハイツだった。
2026.1.5〜
黒とオメガの騎士の子育て〜この子確かに俺とお前にそっくりだけど、産んだ覚えないんですけど!?〜
せるせ王都の騎士団に所属するオメガのセルジュは、ある日なぜか北の若き辺境伯クロードの城で目が覚めた。
しかも隣で泣いているのは、クロードと同じ目を持つ自分にそっくりな赤ん坊で……?
「お前が産んだ、俺の子供だ」
いや、そんなこと言われても、産んだ記憶もあんなことやこんなことをした記憶も無いんですけど!?
クロードとは元々険悪な仲だったはずなのに、一体どうしてこんなことに?
一途な黒髪アルファの年下辺境伯×金髪オメガの年上騎士
※一応オメガバース設定をお借りしています
助けたドS皇子がヤンデレになって俺を追いかけてきます!
夜刀神さつき医者である内藤 賢吾は、過労死した。しかし、死んだことに気がつかないまま異世界転生する。転生先で、急性虫垂炎のセドリック皇子を見つけた彼は、手術をしたくてたまらなくなる。「彼を解剖させてください」と告げ、周囲をドン引きさせる。その後、賢吾はセドリックを手術して助ける。命を助けられたセドリックは、賢吾に惹かれていく。賢吾は、セドリックの告白を断るが、セドリックは、諦めの悪いヤンデレ腹黒男だった。セドリックは、賢吾に助ける代わりに何でも言うことを聞くという約束をする。しかし、賢吾は約束を破り逃げ出し……。ほとんどコメディです。 ヤンデレ腹黒ドS皇子×頭のおかしい主人公