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第9章 オレはケレメイン大公国の大公妃殿下です。
611.子どもだったカズラくんの見えていた世界は、カズラくんが思うより狭かったのです。カズラくんを追い詰めた人の狙いは三人いましたが?
「女神様の世界で生きるというカズラくんの思いの強さが、よく分かった。」
オレが当たり前に感じていた平穏は、カズラくんの二十年の人生にはなかった。
カズラくんは、浮気や不倫という概念がない世界で生きたかったのかな。
「生まれてきた場所では思うように生きていくことができないと知ったからね。」
とカズラくん。
「日本に帰ってみて。
神子様になったときの状況と比べてさ。
カズラくんが良くなったと思うことはなかったかな?」
「日本では、ぼくのいない時間が当たり前に流れていたよ。」
とカズラくん。
失言だった。
「ごめん。」
オレが謝ると。
カズラくんは、日本にいた日々を思い返すように、一瞬、遠い目になった。
「カズラくんが帰ったら、カズラくんという存在の認知があやふやになって、カズラくんがいないことを不思議に思わない世界のまま、時間が流れていたんだよな。」
オレがいなくなって、オレがいないことを疑問に思われない時間が流れていたことを目の当たりにして平常心を保てる自信がオレにはない。
「ぼくが日本に帰って気づいたことは、二つ。
ぼくがいない間、困った人はいなかった、ということ。
ぼくが抜けたことで、ぼくの周りにいた人達の歯車が噛み合っていたこと。」
とカズラくん。
カズラくんの声音に変化はない。
でも。
「カズラくん。」
なんて悲しいことを言うんだ。
「ぼくの両親は、ぼくのことを二人の愛の結晶だと言っていた。
ぼくは、両親に望まれて生まれてきたんだよ。」
とカズラくん。
カズラくんの変わらない声音は、まだヒビが入っていないだけなんだと思う。
「カズラくんが日本から持ち込んだ花々は、カズラくんの思い出に結びついているだよな。
思い出の花々の数は、たくさんカズラくんがご両親とお出かけした数なんだよな。」
カズラくんの思い出の花々は、四季折々の花だった。
カズラくんは、季節の花を家族で愛でるような暮らしをしていたんだと思う。
「子どものぼくは、両親のさす傘にすっぽり入っていて、両親のさす傘の隙間から、周りを見ていたんだよ。
ぼくの見ていた世界は、安全を保証された半分以下の世界だった。」
とカズラくん。
大人のさすコウモリ傘に、抱っこされて入っていたら。
子どもが見える景色は、足元だけかな。
「大人になってみないと、分からないこともあるからなー。
大人になってからも、オレには分からないことだらけだぞ。」
異世界転移とか。
魔法だとか、女神様がいる世界とか。
複雑な家族関係とか。
男同士の性行為で気持ちよくなるには、どうしたらいいか、とか。
「大人になったぼくは、両親の傘から出て、自分で自分の傘をさそうとした。
ぼくは、ぼくらしく生きていこうとした。
大人になったぼくには、ぼくの思い通りの人生を切り開くことができる。
子どものぼくは、そう信じて疑わなかった。
だから。
ぼくに与えられた環境から吸収できることを全て使って、ぼくは独り立ちしたんだよ。」
とカズラくん。
オレは、カズラくんの目に張っている膜に気づいた。
「頑張ったな、カズラくん。
オレは、独り立ちしようとする気持ちがえらいと思うぞ。」
頑張って働かなくていいよと親から言われたら、頑張らないまま生きる人もいると思う。
「ぼくは、ぼくのためになると思って、独り立ちを決意して、実行に移したわけだけど。」
とカズラくん。
「うん。」
オレは、余計な言葉を吐き出さないように、口数を最小限におさえた。
「ぼくの独り立ちは、誰にも望まれていなかったんだよね。
本妻の子どもと本妻に睨まれてから、ぼくは嫌というほど思い知った。」
とカズラくん。
「本妻の子どもさんだけでなく、本妻さんとも、カズラくんは対峙したんだな。」
「本妻は、本妻の子どもとは違って、父に対しても思うところがあったよ。
本妻は、本妻の子どもに見せなかった感情をぼくには隠さなかった。
本妻は、本妻の子どもに、愛人と愛人の子どもの存在を気づかせたくなかったから。
本妻の怒りの対象は、父、母、ぼくの三人。」
とカズラくん。
「本妻さんは、何に怒っていたのかな?」
想像はつく。
でも、オレはカズラくんの話を遮らないようにした。
「父の愛人である母が、何もせずに、ただただ養われているだけの存在なことは、会社経営者の父を支えている本妻にとって許しがたいことだった。
その母の子どもであるぼくがのびのび暮らした結果。
本妻の子どもよりも早くに社会的な成功をおさめて、順風満帆な人生を送ろうとしていると知った本妻は、本妻と本妻の子どもという犠牲の上にぼくの成功が成り立っていることを分からせたいと考えた。
父に対しては、父が愛人親子に金を出すだけで、何の責任も背負わせようとしないことを恨んでいた。」
とカズラくん。
「カズラくんの会社を寄越せと騒いだのは本妻の子どもさんだけど、カズラくんを追い込んだのは、本妻さんかな?」
「本妻は、ぼくを追い込めれば、ぼくとぼくの母と父の三人まとめて復讐できると考えたんだよ。
浅はかだよね。
追い込まれたぼくを救おうとあたふたする両親なんて、ぼくにはいなかったのに。」
とカズラくん。
カズラくんの目に張っている膜が、ブワッと広がる。
オレが当たり前に感じていた平穏は、カズラくんの二十年の人生にはなかった。
カズラくんは、浮気や不倫という概念がない世界で生きたかったのかな。
「生まれてきた場所では思うように生きていくことができないと知ったからね。」
とカズラくん。
「日本に帰ってみて。
神子様になったときの状況と比べてさ。
カズラくんが良くなったと思うことはなかったかな?」
「日本では、ぼくのいない時間が当たり前に流れていたよ。」
とカズラくん。
失言だった。
「ごめん。」
オレが謝ると。
カズラくんは、日本にいた日々を思い返すように、一瞬、遠い目になった。
「カズラくんが帰ったら、カズラくんという存在の認知があやふやになって、カズラくんがいないことを不思議に思わない世界のまま、時間が流れていたんだよな。」
オレがいなくなって、オレがいないことを疑問に思われない時間が流れていたことを目の当たりにして平常心を保てる自信がオレにはない。
「ぼくが日本に帰って気づいたことは、二つ。
ぼくがいない間、困った人はいなかった、ということ。
ぼくが抜けたことで、ぼくの周りにいた人達の歯車が噛み合っていたこと。」
とカズラくん。
カズラくんの声音に変化はない。
でも。
「カズラくん。」
なんて悲しいことを言うんだ。
「ぼくの両親は、ぼくのことを二人の愛の結晶だと言っていた。
ぼくは、両親に望まれて生まれてきたんだよ。」
とカズラくん。
カズラくんの変わらない声音は、まだヒビが入っていないだけなんだと思う。
「カズラくんが日本から持ち込んだ花々は、カズラくんの思い出に結びついているだよな。
思い出の花々の数は、たくさんカズラくんがご両親とお出かけした数なんだよな。」
カズラくんの思い出の花々は、四季折々の花だった。
カズラくんは、季節の花を家族で愛でるような暮らしをしていたんだと思う。
「子どものぼくは、両親のさす傘にすっぽり入っていて、両親のさす傘の隙間から、周りを見ていたんだよ。
ぼくの見ていた世界は、安全を保証された半分以下の世界だった。」
とカズラくん。
大人のさすコウモリ傘に、抱っこされて入っていたら。
子どもが見える景色は、足元だけかな。
「大人になってみないと、分からないこともあるからなー。
大人になってからも、オレには分からないことだらけだぞ。」
異世界転移とか。
魔法だとか、女神様がいる世界とか。
複雑な家族関係とか。
男同士の性行為で気持ちよくなるには、どうしたらいいか、とか。
「大人になったぼくは、両親の傘から出て、自分で自分の傘をさそうとした。
ぼくは、ぼくらしく生きていこうとした。
大人になったぼくには、ぼくの思い通りの人生を切り開くことができる。
子どものぼくは、そう信じて疑わなかった。
だから。
ぼくに与えられた環境から吸収できることを全て使って、ぼくは独り立ちしたんだよ。」
とカズラくん。
オレは、カズラくんの目に張っている膜に気づいた。
「頑張ったな、カズラくん。
オレは、独り立ちしようとする気持ちがえらいと思うぞ。」
頑張って働かなくていいよと親から言われたら、頑張らないまま生きる人もいると思う。
「ぼくは、ぼくのためになると思って、独り立ちを決意して、実行に移したわけだけど。」
とカズラくん。
「うん。」
オレは、余計な言葉を吐き出さないように、口数を最小限におさえた。
「ぼくの独り立ちは、誰にも望まれていなかったんだよね。
本妻の子どもと本妻に睨まれてから、ぼくは嫌というほど思い知った。」
とカズラくん。
「本妻の子どもさんだけでなく、本妻さんとも、カズラくんは対峙したんだな。」
「本妻は、本妻の子どもとは違って、父に対しても思うところがあったよ。
本妻は、本妻の子どもに見せなかった感情をぼくには隠さなかった。
本妻は、本妻の子どもに、愛人と愛人の子どもの存在を気づかせたくなかったから。
本妻の怒りの対象は、父、母、ぼくの三人。」
とカズラくん。
「本妻さんは、何に怒っていたのかな?」
想像はつく。
でも、オレはカズラくんの話を遮らないようにした。
「父の愛人である母が、何もせずに、ただただ養われているだけの存在なことは、会社経営者の父を支えている本妻にとって許しがたいことだった。
その母の子どもであるぼくがのびのび暮らした結果。
本妻の子どもよりも早くに社会的な成功をおさめて、順風満帆な人生を送ろうとしていると知った本妻は、本妻と本妻の子どもという犠牲の上にぼくの成功が成り立っていることを分からせたいと考えた。
父に対しては、父が愛人親子に金を出すだけで、何の責任も背負わせようとしないことを恨んでいた。」
とカズラくん。
「カズラくんの会社を寄越せと騒いだのは本妻の子どもさんだけど、カズラくんを追い込んだのは、本妻さんかな?」
「本妻は、ぼくを追い込めれば、ぼくとぼくの母と父の三人まとめて復讐できると考えたんだよ。
浅はかだよね。
追い込まれたぼくを救おうとあたふたする両親なんて、ぼくにはいなかったのに。」
とカズラくん。
カズラくんの目に張っている膜が、ブワッと広がる。
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