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6.放課後デート2
ここがお勧めなんだと言われて早坂に連れてこられたのは、住宅地の中にある、木々に囲まれた静かな一軒家カフェだった。
この店は知ってる。この辺りのエリアでは有名な行列必須の人気店だ。
「ちょうど予約した時間だ」
早坂はスマホで時間を確認して、行列の先頭に行くと店員に予約画面を見せる。店員は「お待ちしておりました」と俺と早坂を案内してくれた。
「早坂予約してたの?!」
「うん。だって並ぶと二時間は待たされる。それだと乃木も疲れるだろ?」
なんとスマートな男だ。できる男はこういうところまでできるのかと、俺は敗北感に苛まれた。
席について、注文するのはもちろんこの店一番人気のアニバーサリータルトだ。季節に合わせたフルーツとともに、日付の入ったチョコプレートがついてきて、それが記念日をお祝いするときに可愛く映えると人気の商品なのだ。
注文し終えた後、隣の席から五歳くらいの女の子のわめき声が聞こえてきた。
つい耳をそば立ててみると、アニバーサリータルトを食べにきたのに本日分は売り切れになったと店員に言われて「嫌だ! どうしても食べたい!」とゴネているようだ。
それを見てすぐさま早坂が立ち上がった。
「あの俺、さっきそのタルトを頼んだんですけど、あの子に譲ることってできますか?」
「あ、はい……お客様の分で最後でしたから……」
「じゃあお願いします。俺はそうだなぁ、チーズケーキにします」
早坂の申し出を聞いて、女の子は目を輝かせた。女の子の母親も「いいんですか?!」と驚いている。
店員まで「他のお客様にお気遣いありがとうございます」と早坂に礼を言っている。
散々感謝されてから席に戻ってきた早坂は「待たせてごめん」と俺に謝った。
「いや、全然待ってない……」
ほんの数分の出来事だし、なにより早坂はめちゃくちゃいい奴だなと感心してしまった。
「待ってない、か……」
なぜか早坂はしゅんと落ち込んでしまった。どうしたんだろうと声をかけようとしたら、早坂から「そうだ、この前、波田野がさぁ」と話題を振ってきた。
早坂の話は面白い。学校では無口に思えてたけど、実は波田野や蓑島とか、仲のいい奴らとはよく喋っていたのかもしれないな。
ケーキが運ばれてきて、俺もなんとなく周りにつられて写真を撮った。
記念日といえば、今日は記念日だ。
早坂との初デート記念日。
って、違う! 俺は何を考えているんだ!
タルトを食べてたら、妙に目の前の早坂から「可愛い……」と視線を感じる。
あ、そうか。早坂も本当はアニバーサリータルトを食いたかったんだもんな……。
「……あ、のさ、早坂、ひと口食う?」
俺がスッと早坂のほうにタルトの皿を向ける。半分くらい食べてから気がついたから俺の食べかけだけど。
「いいの?!」
早坂は身を乗り出すくらいの勢いで食いついてきた。うっわこれ、相当食べたかったんだな。
「こっち食いかけだけど、後ろから食べて——」
「ありがとう乃木!」
早坂は堂々と俺の口をつけたほうにフォークを突き刺し、ひと口パクリと食べた。
なんて奴だ、そっち食ったら間接キスになるだろ……。
「どう? 美味い?」
「うん。幸せ過ぎて泣きそうなくらいに美味い」
「えっ? そんなに?!」
そんなに好きならと、「残りもあげるよ」と言ったら「大丈夫。もう俺の夢は叶ったから」と早坂はひと口だけで満足したらしい。
店を出たら、外は少しずつ暗くなりかけていた。早坂とふたりで駅に向かって歩き出す。
「ありがとう乃木。今日はすごく楽しかった」
早坂は俺に感謝してきた。そこで俺は気がついた。
早坂に感謝される=早坂に好かれる=告白ゲームを諦めてくれない、の方程式が成り立ってしまうことに。
「俺は歩き疲れたよ」
せっかく楽しく過ごしたのに、最後にウザいひと言! これで早坂は俺のことを嫌いになるだろう。
「早坂、おぶれよ。俺もう歩きたくない」
これはさらにウザいぞ。誰がDKなんて喜んで背負って歩きたい?! そんな奴いねぇよ。
さすがの早坂も怒るに違いない。
「いいよ。乗って。鞄もちょうだい。俺が持つから」
早坂は俺の目の前でしゃがんで背中を見せてくる。ここにおぶされ、という意味なのだろう。
「はっ、早坂やめとけよ、俺、結構重いし……」
「ごめん。今日は俺に付き合ったせいで歩き疲れたよな。俺なら大丈夫。ほら、おんぶしてもらいたいんだろ?」
うわ、どうする。こいつ、なんで嫌がらないんだよ……。
でも「おぶれ」と言ったのは俺だ。今さらなかったことにはできない。
「じゃ。じゃあ……」
俺は早坂の背中にまたがり、早坂の首に腕を回した。
「もっとしっかり俺に抱きついて」
早坂が立ち上がり、俺にそんなことを言った。
もっと抱きつけって……そんな……。
「ぴったりくっついてくれたほうが、重くないから」
そ、そういうもんなのか。おぶってもらったのなんて、子供の頃以来のことで、俺は緊張して遠慮していたが、早坂の言葉に従って早坂の身体に身を寄せた。
「よし。動くぞ」
早坂はマジで俺をおぶって歩き出した。
信じられない。こんな街中で男が男をおぶっていくなんて……。
しかも俺、ちっさいけど、女ほどは軽くない。
くっつけと言われたから、早坂に抱きついてるけど、すごくドキドキする。
あったかいし、頼り甲斐あるし、普通に歩かなくていいから楽だし、最高だ。
ごめんな、早坂。本当はこんなことしたくないだろうに。
でも、告白ゲームを始めたのは早坂。半分は自業自得だ。
「乃木が俺を頼ってくれてるみたいで、すごく幸せだ」
「へぁっ?!」
急に何を言い出すかと思えば!
「乃木。駅じゃなくて家までおぶろうか?」
「やっ、やめろって! 駅も近くなったら降りるから!」
俺が恥ずかしいわ! 怪我もしてないのにおぶられてるなんて。
「わかった。じゃあ駅の少し手前までな!」
早坂は俺を大切なものかのように扱う。こんな奴が本当にそばにいてくれたらいいのにな。
この店は知ってる。この辺りのエリアでは有名な行列必須の人気店だ。
「ちょうど予約した時間だ」
早坂はスマホで時間を確認して、行列の先頭に行くと店員に予約画面を見せる。店員は「お待ちしておりました」と俺と早坂を案内してくれた。
「早坂予約してたの?!」
「うん。だって並ぶと二時間は待たされる。それだと乃木も疲れるだろ?」
なんとスマートな男だ。できる男はこういうところまでできるのかと、俺は敗北感に苛まれた。
席について、注文するのはもちろんこの店一番人気のアニバーサリータルトだ。季節に合わせたフルーツとともに、日付の入ったチョコプレートがついてきて、それが記念日をお祝いするときに可愛く映えると人気の商品なのだ。
注文し終えた後、隣の席から五歳くらいの女の子のわめき声が聞こえてきた。
つい耳をそば立ててみると、アニバーサリータルトを食べにきたのに本日分は売り切れになったと店員に言われて「嫌だ! どうしても食べたい!」とゴネているようだ。
それを見てすぐさま早坂が立ち上がった。
「あの俺、さっきそのタルトを頼んだんですけど、あの子に譲ることってできますか?」
「あ、はい……お客様の分で最後でしたから……」
「じゃあお願いします。俺はそうだなぁ、チーズケーキにします」
早坂の申し出を聞いて、女の子は目を輝かせた。女の子の母親も「いいんですか?!」と驚いている。
店員まで「他のお客様にお気遣いありがとうございます」と早坂に礼を言っている。
散々感謝されてから席に戻ってきた早坂は「待たせてごめん」と俺に謝った。
「いや、全然待ってない……」
ほんの数分の出来事だし、なにより早坂はめちゃくちゃいい奴だなと感心してしまった。
「待ってない、か……」
なぜか早坂はしゅんと落ち込んでしまった。どうしたんだろうと声をかけようとしたら、早坂から「そうだ、この前、波田野がさぁ」と話題を振ってきた。
早坂の話は面白い。学校では無口に思えてたけど、実は波田野や蓑島とか、仲のいい奴らとはよく喋っていたのかもしれないな。
ケーキが運ばれてきて、俺もなんとなく周りにつられて写真を撮った。
記念日といえば、今日は記念日だ。
早坂との初デート記念日。
って、違う! 俺は何を考えているんだ!
タルトを食べてたら、妙に目の前の早坂から「可愛い……」と視線を感じる。
あ、そうか。早坂も本当はアニバーサリータルトを食いたかったんだもんな……。
「……あ、のさ、早坂、ひと口食う?」
俺がスッと早坂のほうにタルトの皿を向ける。半分くらい食べてから気がついたから俺の食べかけだけど。
「いいの?!」
早坂は身を乗り出すくらいの勢いで食いついてきた。うっわこれ、相当食べたかったんだな。
「こっち食いかけだけど、後ろから食べて——」
「ありがとう乃木!」
早坂は堂々と俺の口をつけたほうにフォークを突き刺し、ひと口パクリと食べた。
なんて奴だ、そっち食ったら間接キスになるだろ……。
「どう? 美味い?」
「うん。幸せ過ぎて泣きそうなくらいに美味い」
「えっ? そんなに?!」
そんなに好きならと、「残りもあげるよ」と言ったら「大丈夫。もう俺の夢は叶ったから」と早坂はひと口だけで満足したらしい。
店を出たら、外は少しずつ暗くなりかけていた。早坂とふたりで駅に向かって歩き出す。
「ありがとう乃木。今日はすごく楽しかった」
早坂は俺に感謝してきた。そこで俺は気がついた。
早坂に感謝される=早坂に好かれる=告白ゲームを諦めてくれない、の方程式が成り立ってしまうことに。
「俺は歩き疲れたよ」
せっかく楽しく過ごしたのに、最後にウザいひと言! これで早坂は俺のことを嫌いになるだろう。
「早坂、おぶれよ。俺もう歩きたくない」
これはさらにウザいぞ。誰がDKなんて喜んで背負って歩きたい?! そんな奴いねぇよ。
さすがの早坂も怒るに違いない。
「いいよ。乗って。鞄もちょうだい。俺が持つから」
早坂は俺の目の前でしゃがんで背中を見せてくる。ここにおぶされ、という意味なのだろう。
「はっ、早坂やめとけよ、俺、結構重いし……」
「ごめん。今日は俺に付き合ったせいで歩き疲れたよな。俺なら大丈夫。ほら、おんぶしてもらいたいんだろ?」
うわ、どうする。こいつ、なんで嫌がらないんだよ……。
でも「おぶれ」と言ったのは俺だ。今さらなかったことにはできない。
「じゃ。じゃあ……」
俺は早坂の背中にまたがり、早坂の首に腕を回した。
「もっとしっかり俺に抱きついて」
早坂が立ち上がり、俺にそんなことを言った。
もっと抱きつけって……そんな……。
「ぴったりくっついてくれたほうが、重くないから」
そ、そういうもんなのか。おぶってもらったのなんて、子供の頃以来のことで、俺は緊張して遠慮していたが、早坂の言葉に従って早坂の身体に身を寄せた。
「よし。動くぞ」
早坂はマジで俺をおぶって歩き出した。
信じられない。こんな街中で男が男をおぶっていくなんて……。
しかも俺、ちっさいけど、女ほどは軽くない。
くっつけと言われたから、早坂に抱きついてるけど、すごくドキドキする。
あったかいし、頼り甲斐あるし、普通に歩かなくていいから楽だし、最高だ。
ごめんな、早坂。本当はこんなことしたくないだろうに。
でも、告白ゲームを始めたのは早坂。半分は自業自得だ。
「乃木が俺を頼ってくれてるみたいで、すごく幸せだ」
「へぁっ?!」
急に何を言い出すかと思えば!
「乃木。駅じゃなくて家までおぶろうか?」
「やっ、やめろって! 駅も近くなったら降りるから!」
俺が恥ずかしいわ! 怪我もしてないのにおぶられてるなんて。
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