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8.川沿いの道
浅宮は自転車を降りて、それをひきながらふたりで川辺を歩いている。俺の地元にもこんなところがあったなと少し懐かしい感じのする、川に沿った遊歩道。燈色の空。夕焼け雲がどこまでも真っ直ぐ続いている。
最初こそ有栖の話をしていたが、途中から話が逸れて浅宮と色んな話をした。
中学の時の話や、家族の話。浅宮はやっぱり中学でもモテていて、兄弟は弟がひとりいるということがわかった。十歳も離れているから、浅宮は弟を随分と可愛がっているらしい。
やがて浅宮は自転車を遊歩道の端に止め「ちょっと座ろうぜ」と伸びた草をかき分けて土手を下る。
「俺のカバンの上に座る?」
浅宮が土手のコンクリートに座ろうとした俺に自分のカバンを差し出してきたから「いいよっ気にしないからっ」と断る。そうしたら浅宮はスポーツタオルをカバンから取り出して、それをコンクリートの上にひいてくれた。
ふたり並んで座って川を眺めていたら、浅宮が話を切り出してきた。
「三倉あのさ、もしかして、カバン取りに教室に戻ったとき、俺、教室にいた……?」
うわ。浅宮にバレてる。こいつ鋭いな。
タイミング的に俺が『カバンを取りに行った=教室に来た』じゃないかと考えたんだな……。
「うん……いた。あの、瀬野はるかとふたりでいたからなんとなく教室に入り辛くてさ」
誤魔化したってしょうがない。俺は正直に答えた。
「だよな。俺たちの話、もしかして聞こえてた……?」
「えっ、あの……」
どうしよう。盗み聞きしてたことまで話してしまおうか。
「浅宮。瀬野に告白されてた……みたいで……」
「断ったけどな」
「浅宮は、有栖のことを想ってるんだもんな……」
自分で言っててなんか胸が苦しくなる。どうしてだろう。そんなこと最初からわかっていたことなのに。
浅宮は何も答えない。有栖を想ってるから、瀬野の気持ちに応えられない。そこに少しの罪悪感みたいなものがあるのだろう。
「俺、ちょっとだけ聞こえちゃったんだけどさ、浅宮はもうすぐ有栖に告白するの……?」
「えっ! はわっ?!」
浅宮。慌てすぎて変な声出てるぞ。
「片想いってなんかモヤモヤするし、辛いよな……。いっそ打ち明けたくなる気持ちもわかるよ」
今の俺には身に沁みてわかる。でも俺の想いは絶対に浅宮に伝えない。
浅宮は有栖が好きだってわかっているんだから。
「いや、俺は——」
「俺も瀬野と同じ気持ちだ。あっ、浅宮なら告白してもうまくいくよ! 応援……してるからさっ」
俺は無理矢理明るい声をだした。
これは本心じゃない。最初の頃は協力するなんて言ってたけど、今の俺はすっかり心変わり。浅宮がこのまま有栖に告白しないで、ずっと一緒にいてくれたらいいのにな、なんて思ってる。
「思い切って告白してみろよ、浅宮っ」
ドンと浅宮の背中を叩いてやる。そんなことをする俺はバカだ。浅宮を失うことになるかもしれないのに。
「いいよ、俺自信ないし……」
「浅宮と有栖はお似合いだと思うよ。そうだ、有栖に探りを入れてみようか? 浅宮のことどう思ってるかって——」
「やめろよ!!」
間髪入れずに浅宮に怒鳴られた。そうだよな……そんなことして有栖に気持ちを勘付かれでもしたら大変だ。
「ごめん……それはしない……」
温厚で優しい浅宮でも、怒鳴ることがあるんだな。浅宮に初めて怒鳴られて、ちょっと凹むな……。
「三倉は?」
「ん……?」
「三倉は俺のこと応援してくれるけど、逆に三倉は好きな奴いないのか?」
「なっ……!」
なんてこと訊くんだよ! 言えるわけない言えるわけない。本人を目の前にして言えるわけないだろ!
「いっ、いいんだよ、俺のことなんて! 俺は浅宮が幸せになってくれたらそれでいいんだ」
頼むからほっといてくれよ。俺は有栖にはなれない。有栖と比べたら俺なんて下の下の下だ。そんなことはわかっているから。
「おっ、俺そういうの別に興味……ないから……」
もちろん嘘だ。
最近は浅宮のことばかり考えるようになっていた。なんでこんなに浅宮が気になるんだろう……。
「付き合うとかどうでもいいし」
なんか虚しくなってきて、泣きたくなんかないのに涙があふれてくる。それを浅宮にバレたくないからそっぽを向いたのに、こんなときだけ敏感な浅宮は、わざわざ移動してまで俺の顔を覗き込んできた。
「三倉……泣いてる……?!」
言うなよバカ。
俺がかぶりを振って「泣いてない」と否定してるのに、「えっ、なんで泣く?!」と浅宮は慌てている。
「ごめんっ。ホントごめん……。変なこと訊いた俺が悪い」
本当にそうだよ。俺はギリギリのところで気持ちを抑えて耐えてるんだから。
「もしかして三倉、好きな人が……」
駄目だ。浅宮にそんなこと言われたら涙を堪えきれなくなってきた……。
浅宮が指で俺の涙を拭った。やめろ。優しくされると余計に辛くなるんだよ……。
「わかるよ。泣くほどそいつのことが好きなんだろ……」
そうだよ。靄がかったみたいな気持ちだったのに、今日で俺は、はっきり自覚した。
俺は浅宮が好きだ。
「お前を泣かせるような奴は俺がぶん殴ってやりたいよ……」
俺を泣かせたのは浅宮、お前だ。自分の頭でもぶん殴ってろよ……。
「俺、三倉のこと応援するよ。三倉だって俺のこと応援してくれてるんだから」
それは無理だ。この世に浅宮はひとりしかいないんだから、浅宮×有栖か、浅宮×俺のどちらかしかない。浅宮の想いが叶ったら、必然的に俺の願いは叶わないんだよ。
最初こそ有栖の話をしていたが、途中から話が逸れて浅宮と色んな話をした。
中学の時の話や、家族の話。浅宮はやっぱり中学でもモテていて、兄弟は弟がひとりいるということがわかった。十歳も離れているから、浅宮は弟を随分と可愛がっているらしい。
やがて浅宮は自転車を遊歩道の端に止め「ちょっと座ろうぜ」と伸びた草をかき分けて土手を下る。
「俺のカバンの上に座る?」
浅宮が土手のコンクリートに座ろうとした俺に自分のカバンを差し出してきたから「いいよっ気にしないからっ」と断る。そうしたら浅宮はスポーツタオルをカバンから取り出して、それをコンクリートの上にひいてくれた。
ふたり並んで座って川を眺めていたら、浅宮が話を切り出してきた。
「三倉あのさ、もしかして、カバン取りに教室に戻ったとき、俺、教室にいた……?」
うわ。浅宮にバレてる。こいつ鋭いな。
タイミング的に俺が『カバンを取りに行った=教室に来た』じゃないかと考えたんだな……。
「うん……いた。あの、瀬野はるかとふたりでいたからなんとなく教室に入り辛くてさ」
誤魔化したってしょうがない。俺は正直に答えた。
「だよな。俺たちの話、もしかして聞こえてた……?」
「えっ、あの……」
どうしよう。盗み聞きしてたことまで話してしまおうか。
「浅宮。瀬野に告白されてた……みたいで……」
「断ったけどな」
「浅宮は、有栖のことを想ってるんだもんな……」
自分で言っててなんか胸が苦しくなる。どうしてだろう。そんなこと最初からわかっていたことなのに。
浅宮は何も答えない。有栖を想ってるから、瀬野の気持ちに応えられない。そこに少しの罪悪感みたいなものがあるのだろう。
「俺、ちょっとだけ聞こえちゃったんだけどさ、浅宮はもうすぐ有栖に告白するの……?」
「えっ! はわっ?!」
浅宮。慌てすぎて変な声出てるぞ。
「片想いってなんかモヤモヤするし、辛いよな……。いっそ打ち明けたくなる気持ちもわかるよ」
今の俺には身に沁みてわかる。でも俺の想いは絶対に浅宮に伝えない。
浅宮は有栖が好きだってわかっているんだから。
「いや、俺は——」
「俺も瀬野と同じ気持ちだ。あっ、浅宮なら告白してもうまくいくよ! 応援……してるからさっ」
俺は無理矢理明るい声をだした。
これは本心じゃない。最初の頃は協力するなんて言ってたけど、今の俺はすっかり心変わり。浅宮がこのまま有栖に告白しないで、ずっと一緒にいてくれたらいいのにな、なんて思ってる。
「思い切って告白してみろよ、浅宮っ」
ドンと浅宮の背中を叩いてやる。そんなことをする俺はバカだ。浅宮を失うことになるかもしれないのに。
「いいよ、俺自信ないし……」
「浅宮と有栖はお似合いだと思うよ。そうだ、有栖に探りを入れてみようか? 浅宮のことどう思ってるかって——」
「やめろよ!!」
間髪入れずに浅宮に怒鳴られた。そうだよな……そんなことして有栖に気持ちを勘付かれでもしたら大変だ。
「ごめん……それはしない……」
温厚で優しい浅宮でも、怒鳴ることがあるんだな。浅宮に初めて怒鳴られて、ちょっと凹むな……。
「三倉は?」
「ん……?」
「三倉は俺のこと応援してくれるけど、逆に三倉は好きな奴いないのか?」
「なっ……!」
なんてこと訊くんだよ! 言えるわけない言えるわけない。本人を目の前にして言えるわけないだろ!
「いっ、いいんだよ、俺のことなんて! 俺は浅宮が幸せになってくれたらそれでいいんだ」
頼むからほっといてくれよ。俺は有栖にはなれない。有栖と比べたら俺なんて下の下の下だ。そんなことはわかっているから。
「おっ、俺そういうの別に興味……ないから……」
もちろん嘘だ。
最近は浅宮のことばかり考えるようになっていた。なんでこんなに浅宮が気になるんだろう……。
「付き合うとかどうでもいいし」
なんか虚しくなってきて、泣きたくなんかないのに涙があふれてくる。それを浅宮にバレたくないからそっぽを向いたのに、こんなときだけ敏感な浅宮は、わざわざ移動してまで俺の顔を覗き込んできた。
「三倉……泣いてる……?!」
言うなよバカ。
俺がかぶりを振って「泣いてない」と否定してるのに、「えっ、なんで泣く?!」と浅宮は慌てている。
「ごめんっ。ホントごめん……。変なこと訊いた俺が悪い」
本当にそうだよ。俺はギリギリのところで気持ちを抑えて耐えてるんだから。
「もしかして三倉、好きな人が……」
駄目だ。浅宮にそんなこと言われたら涙を堪えきれなくなってきた……。
浅宮が指で俺の涙を拭った。やめろ。優しくされると余計に辛くなるんだよ……。
「わかるよ。泣くほどそいつのことが好きなんだろ……」
そうだよ。靄がかったみたいな気持ちだったのに、今日で俺は、はっきり自覚した。
俺は浅宮が好きだ。
「お前を泣かせるような奴は俺がぶん殴ってやりたいよ……」
俺を泣かせたのは浅宮、お前だ。自分の頭でもぶん殴ってろよ……。
「俺、三倉のこと応援するよ。三倉だって俺のこと応援してくれてるんだから」
それは無理だ。この世に浅宮はひとりしかいないんだから、浅宮×有栖か、浅宮×俺のどちらかしかない。浅宮の想いが叶ったら、必然的に俺の願いは叶わないんだよ。
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