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第2部
第37話
「ただいま、ハイロさん! お願い、これでおいしいものつくるの協力してください!」
先に帰宅していたハイロは、畑で収穫まぎわの野菜につく害虫を駆除していた。そこへ、バタバタと走り寄ってくる亮介に、ワッと泣きつかれた。差しだされたバケツには、山菜や木の実、きのこ類がたくさんはいっている。あとからキールとノネコが追いつき、コリスもマイペースにチョロチョロ近づいてくる。ハイロと目があうと、ぎょっとして身を引いた。
「わっ、また人間がいる~。しかも、おっきくてツンツン頭だぁ。かっこいいな~。……あれ? クンクン、あれれ? でもぉ、このにおい、大熊さんっぽいような? ふしぎ~」
人型時のハイロは高身長のため、かんたんにプチッと潰されそうと思ったコリスは、安全な距離を保てる位置で足をとめた。ふだんからぽやぽやした調子だが、こんなときの野生の本能は正常に働くようだ。
「彼は灰色大熊が先祖がえりした姿で、ハイロさんというのだよ」
「ほえっ、大熊さんのご先祖は人間だったの~? すごいね~」
「遠い昔、半獣属のなかには進化の過程で人間の姿を捨てたものがいるのかもしれないね」
「いいな、人間かぁ。ぼくも、いちどはなってみたいかも~。どうやったら、先祖がえりできるの~」
「なりたくて、できるものではないよ。それに、健康そうなハイロさんだって、突然倒れてしまったくらい、からだへの負荷も強いようだ」
「え~、残念だな。ぼくも変身してみたかったなぁ。あ、ノネコさんが人間になったら、メガネをかけていそうだよね」
「そうなのかい?」
「うん。なんとなく!」
「理想の人間になるには、それなりの努力が必要だと思うけれど……」
「そんなむずかしい話じゃなくてぇ、パッと見の印象だよぅ。ノネコさんは、とっても頭がいいから、メガネが似合いそうだなぁって思っただけで~」
ノネコとコリスは、ハイロの正体について話すうち、本筋からはなれていく。大熊が動物の姿にもどる日がくるのかどうか、誰にもわからない。当の本人さえ、どのように生活して行くべきなのか、悩ましいのが現状と思われたが、好奇心の強いコリスだけは、憧憬の念を抱いた。しかし、その関心はすぐに料理へと移行する。亮介の腕にあるバケツをのぞき見たハイロは、「きのこ類が多いな」と、つぶやいた。
「う、うん。あっちのコリスくんが好きなものを、たくさん採ってきたの。……なんとかして胃袋をつかまないと、僕が食べられちゃうかもしれないから」
亮介が気まずい表情をして見せると、事情を理解したハイロは部屋から鍋と火打石をもってくるよう指示をだし、バケツを受けとった。
「ちょうど収穫できる野菜がある。きのこと煮込んでみるか」
「じゃあ、大きいほうの鍋だね。すぐもってくる」
熱をとおす料理は、きまって庭の焚き火でつくる。古い木造の室内で火を起こす作業は、なるべく避けていた。丸太小屋には煉瓦造りの暖炉が設置されていたが、煙突の掃除をする必要があった。ハイロもミュオンも奥まで手が届かず、ひとまず夏のあいだは保留にしてあった。必要な食器類を外へ運びだす亮介は、寝室の扉に目を留めた。
(ミュオンさん、今、仔栗鼠っていう半獣がきてるよ。知ってるかな? ……このまま、いっしょに暮らすことになれば、また家族が増えるね。そのときは、家の中がにぎやかになると思う。もし、うるさかったらごめんね)
亮介は、頭のなかでミュオンに話しかける癖がついていた。そうすることで、気持ちが通じあえているような気がした。
★つづく
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