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第2部
第46話
※第2部/第34話よりサイドストーリー
その日、いつものように木の枝で日光浴をしていた仔栗鼠は、猛禽類の目に留まり、急降下してきた大きな爪に、ガシッと捕われてしまった。為すすべもなく上空へと連れ去られ、今生に別れを告げるため小さな手を合わせたとき、猛禽類を目がけて石礫があがり、見事に命中した(その後、コリスは亮介に救われる)。
「よっしゃ!! 見たか、兄者! 今の、オレサマの一撃必殺を!」
猛禽類の餌食となるコリスを助けたわけではなく、命中率の腕前を自慢したかったキツネは、兄者と呼んで慕う灰色大熊に駆け寄った。ハイロとは異なる個体につき、以降は〈クマ〉と表記する。
キツネはイヌ科の仲間だが夜行性につき、明るいところでは瞳孔がネコのように縦長で、針状になる。体型は四肢が短く、胴が長い。耳は三角形で、尻尾は太く、もさっとしていた。毛色は変化に富み、夏毛は焦茶である。体長は60センチほどだが、それとはべつに、さらに尾の長さが40センチほどあった。
キツネと行動するクマは、風上に鼻を立て、なにやらにおいを気にしていた。ハイロのように雄々しい姿が特徴的な大熊だが、彼の左まぶたは生まれつき閉じたままで、右目も視力が弱いという欠点があった。とはいえ、嗅覚や聴力はずば抜けて発達しており、日常生活に影響はなく、クマ自身も深刻に悩む性格ではなかった。
「兄者、オレサマの話、聞いてる?」
キツネが問いかけてもクマは無言で、感知したにおいに思考をめぐらせた。クマが気にかけるにおいは、水の精霊の精気を身のうちに蓄えた亮介のものである。およその年齢や性別まで嗅ぎわけて言い当てることができるクマは、なぜ、森の奥地に幼子の気配が漂っているのか、ふしぎに思った。もっとも、キールやノネコといった小動物と暮らすうち、亮介だけが放つ人間の臭気は薄れていき、ニッシュの樹皮でつくった衣服を身につけることで、森のにおいが肌に染みこんでいった。初対面のコリスが亮介から感じ取ったのは、ごく自然な森林の香りだった。
「兄者、調子が悪いんで?」
キツネの何度目かの呼びかけに、クマは「絶好調だ」といって、丸太小屋のある方角を見つめた。微かに、同族(ハイロ)のにおいが風に混じっている。クマはゆっくり歩きだし、あとをついてくるキツネのことばに耳をかたむけた。
「少し前、この辺りに黒蛇がでたって仲間が騒いでたっけ。……見たところ、それらしき痕跡は消えてるし、餌食になったやつはいなそうですねぇ。……しっかし、黒蛇の食事は丸呑みが基本だから、骨までしゃぶられちまったら、どいつが襲われたかなんて、わかりゃしない。生きるためとはいえ、大蛇に食われた動物は、お気の毒さまってもんよ。オレサマ的には、どうせ食われるなら兄者のような孤高の肉食獣に、有無を言わさず、一発で仕留めてもらいたいね」
キツネは冗談半分で軽口を述べたが、クマは「非常食にしては、よくしゃべるな」といって冷笑した。一瞬、背筋がゾッとなるキツネだが、クマの糧として食されるならば本望だった。
「オレサマは、これからも兄者のそばにいますぜ。この肉が必要なときは、遠慮なくどうぞ」
それこそ冗談にしか聞こえない科白に、クマは小さく息を吐いた。この2匹の出逢いは亮介が森にあらわれた直後のことで、つきあいはまだ浅い。だが、キツネは(一方的に)クマになついていた。
★つづく
その日、いつものように木の枝で日光浴をしていた仔栗鼠は、猛禽類の目に留まり、急降下してきた大きな爪に、ガシッと捕われてしまった。為すすべもなく上空へと連れ去られ、今生に別れを告げるため小さな手を合わせたとき、猛禽類を目がけて石礫があがり、見事に命中した(その後、コリスは亮介に救われる)。
「よっしゃ!! 見たか、兄者! 今の、オレサマの一撃必殺を!」
猛禽類の餌食となるコリスを助けたわけではなく、命中率の腕前を自慢したかったキツネは、兄者と呼んで慕う灰色大熊に駆け寄った。ハイロとは異なる個体につき、以降は〈クマ〉と表記する。
キツネはイヌ科の仲間だが夜行性につき、明るいところでは瞳孔がネコのように縦長で、針状になる。体型は四肢が短く、胴が長い。耳は三角形で、尻尾は太く、もさっとしていた。毛色は変化に富み、夏毛は焦茶である。体長は60センチほどだが、それとはべつに、さらに尾の長さが40センチほどあった。
キツネと行動するクマは、風上に鼻を立て、なにやらにおいを気にしていた。ハイロのように雄々しい姿が特徴的な大熊だが、彼の左まぶたは生まれつき閉じたままで、右目も視力が弱いという欠点があった。とはいえ、嗅覚や聴力はずば抜けて発達しており、日常生活に影響はなく、クマ自身も深刻に悩む性格ではなかった。
「兄者、オレサマの話、聞いてる?」
キツネが問いかけてもクマは無言で、感知したにおいに思考をめぐらせた。クマが気にかけるにおいは、水の精霊の精気を身のうちに蓄えた亮介のものである。およその年齢や性別まで嗅ぎわけて言い当てることができるクマは、なぜ、森の奥地に幼子の気配が漂っているのか、ふしぎに思った。もっとも、キールやノネコといった小動物と暮らすうち、亮介だけが放つ人間の臭気は薄れていき、ニッシュの樹皮でつくった衣服を身につけることで、森のにおいが肌に染みこんでいった。初対面のコリスが亮介から感じ取ったのは、ごく自然な森林の香りだった。
「兄者、調子が悪いんで?」
キツネの何度目かの呼びかけに、クマは「絶好調だ」といって、丸太小屋のある方角を見つめた。微かに、同族(ハイロ)のにおいが風に混じっている。クマはゆっくり歩きだし、あとをついてくるキツネのことばに耳をかたむけた。
「少し前、この辺りに黒蛇がでたって仲間が騒いでたっけ。……見たところ、それらしき痕跡は消えてるし、餌食になったやつはいなそうですねぇ。……しっかし、黒蛇の食事は丸呑みが基本だから、骨までしゃぶられちまったら、どいつが襲われたかなんて、わかりゃしない。生きるためとはいえ、大蛇に食われた動物は、お気の毒さまってもんよ。オレサマ的には、どうせ食われるなら兄者のような孤高の肉食獣に、有無を言わさず、一発で仕留めてもらいたいね」
キツネは冗談半分で軽口を述べたが、クマは「非常食にしては、よくしゃべるな」といって冷笑した。一瞬、背筋がゾッとなるキツネだが、クマの糧として食されるならば本望だった。
「オレサマは、これからも兄者のそばにいますぜ。この肉が必要なときは、遠慮なくどうぞ」
それこそ冗談にしか聞こえない科白に、クマは小さく息を吐いた。この2匹の出逢いは亮介が森にあらわれた直後のことで、つきあいはまだ浅い。だが、キツネは(一方的に)クマになついていた。
★つづく
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2023.04.15
閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。
m(_ _)m
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