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第8部
第137話
ジェミャにより一時的に身体機能が成長した亮介は、8歳児の姿にもどったあと、ノネコと会話した。
「ごめんね、ノネコさん。やっぱり、びっくりした?」
「……うむ。さすがに驚いたな。ハイロさんの先祖がえりとは、また勝手がちがうようだしね。それより、急に姿が見えなくなって、みんな心配しているよ。さあ、早く合流しよう」
「うん。ジェミャさんも、いっしょに行こう」
亮介にそう声をかけられた地の精霊は、『断る』と短く否定した。それから、砂の障壁の効果を消し去ると、『われは行かぬ』と念をおし、くるりと背を向ける。
「ジェミャさん、どこ行くの!?」
とっさに追いかける亮介だが、ジェミャは4枚の羽をひろげ、ふわっと空へ飛んでしまった。ジェミャから悪意は感じないが、味方なのか仲間なのか、よくわからない存在だった。少なくとも、誰かが不幸になることを望んでいる精霊ではない……はずだ。
(ああ、行っちゃった。ジェミャさんも、いっしょに来てくれればいいのにな……。まだ聞きたいこともあったし……)
亮介は、まぶしい太陽光に目を細めた。かつて、この森には奇蹟と呼べる出来事が起きた。その一部始終を知るジェミャは、亮介だけでなく、ミュオンとハイロの因果関係をほのめかし、なぜか愉快そうに笑う。精霊は半獣属の生活に干渉せず、半獣属は精霊の摂理を詮索しない。互いに適度な距離を保ってこそ、平穏な時間を共有できた。種族の境界を越えて戯れたとしても、そうかんたんに奇蹟は起こらない。だからこそジェミャは、外的な快楽を優先し、気に入った半獣を口説いて遊んだりもした。
「リョウスケくん」
ぼんやり空を見あげていた亮介は、ノネコに名前を呼ばれ、「あ、ごめん」と返事をした。ジェミャが残した科白は気になるが、一刻も早くみんなのところへ向かうべきである。
「ノネコさん、ひとつ訊いてもいい?」
「なんだい」
「……うん。……僕って、死ぬの? さっき、生贄がどうとかって」
物騒なことばの響きが頭の隅に引っかかるため、どうしても不安を隠せない。亮介は膝を曲げてしゃがみ、ノネコと目の高さを合わせた。キリッとした賢そうな瞳に、8歳児の顔が映りこむ。両親の庇護のもと、何事からも守られて育つ幼いころの自分は、恵まれた環境で過ごしてきた。異世界にきてからも、他者の協力と理解によって、まいにちが楽しく、ごはんも作ってもらい、ときには危険な目に遭っても、なんとか切り抜けてきた。だが、忘れてはいけない。亮介が身をおく場所は、自然界である。凶暴な動物も存在するため、信頼できる仲間と共に、無用な闘争を回避する術を講じる必要があった。
「ノネコさん、知ってることを教えて。僕は、どうしたらいいの?」
亮介に迫られたノネコは、これから起こるであろう展開を、話せる範囲で打ち明けた。
「あくまで、わたしの予想にすぎないけれど、ハイロさんとつながることで水の精霊が宿したものは、遠い昔、彼らが失ったわが子を取りもどせる唯一の種子であり、わが子のほうも、きっとそのときが近いことを感じている」
「彼らって?」
「今のふたりの、先祖にあたる人たちだよ。ハイロさんとミュオンさんの出遭いは、運命だったのかもしれない。リョウスケくんが襲われたとき、もういちどあのふたりは、めぐり逢ったんだ」
(やっぱり、あのふたりにはずっと前から子どもがいたんだ! いつかの幻影でみたとおりだ。……でも、それと僕と、どんな関係があるんだろう)
★つづく
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