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ゴツい乙女騎士の俺は傍若無人な冷酷王子に愛されたかっただけなのに
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これ以上あの場にいたくなかった俺は、2人にろくな挨拶もせずにその場を立ち去った。
後ろでアルベルトが俺の名前を呼んだ気がするが、俺は邪魔者なんだ。戻ったって居場所なんかない。
寮に戻る気にもなれず、あてもなく街をふらふらと歩いていると、目に映り込んだのは酒場のプレート。
男たちの賑やかな笑い声と、女たちの楽しそうな笑い声。
瞬間、先ほどの令嬢を思い出す。
甘くて高い、可愛らしい声。アルベルトの腕に絡めた細い腕。花が咲いたかのような華やかな顔。
俺にはないものだ。
俺は何を思い上がっていたのだろう。
こんな可愛いくもないごついだけのおやじを、暴君とはいえあんなかっこよくて能力の高いアルベルトが好きになるはずないじゃないか。
酒場のドアを開ける。外よりも騒がしい中の空気に圧倒されつつ、奥へと進んでいく。
「よお、マルクスじゃねえか、久しぶり!」
奥の小テーブルに着くと、酒場のマスターに話しかけれた。
「ああ、久しぶりだな。」
「最近めっきり来なくなったから、心配してたんだぜ?前は毎日来てたからな。」
「そんなに来ていたか?」
「なあにとぼけてんだよ!なんの音沙汰もなく来なくなったから、仕入れた酒が余って仕方ねえ!」
そう言って豪快に笑うマスター。
以前は毎日…は大袈裟だが、2日に1回は来ていた気がする。
部屋にいると独り身の寂しさを痛感するため、気を紛らわせるためよくここに来ていた。
ここはいつも賑わっているし、喧騒の中飲んでいると、1人でいても寂しくない。
アルベルトと仲良くなってからは主にアルベルトの部屋で過ごすことが多かったし、約束なく急に部屋に来ることもあったから訓練終わりは部屋に直帰することが多くなり、来なくなってしまった。
なんだか懐かしいな、と思いながら酒を注文する。
酒を取りに行ったマスターの後ろ姿をぼーっと眺めていると、飲んでいた顔馴染みの客に話しかけられた。
「マルクスー!ひっさしぶリー!」
「お、おお、だいぶ酔ってるな。」
「まだまだぁ!こんなもんじゃ酔えねえっつうの!それにしても、お前しばらく来ねえ間、何してたんだよお!」
肩に手を回され、絡まれる。
この感じも懐かしくて、自然と笑みが溢れる。
「大したことはない、ちょっと忙しかっただけだ。」
「えー!?俺たちはてっきり、ついにお前に女ができたのかと思ったぜぇ!!」
途端、一気にさっきの光景を思い出してしまった。
悲しさを紛らわせるために来たのに、結局頭の中はアルベルトだらけ。
でも、俺なんかが少しの間でも夢を見させてもらえたんだ。
本来ならば一瞬でもできないような体験だ。
それだけでいい、この思い出だけ心の中に大切にしまって。
むしろいい機会だ。今まで散々嫌な思いをして、それでも縋ってきた恋だったけど。
彼女の出現で、いい加減目を覚ます時だと思い知らされた。
「おおー?しけたツラしてんなあ。さてはマルクス、お前フラれたな!?」
「いや、まあ、そもそも始まってもないし、」
「何ウジウジしてんだよ、似合わねえぞ!男ならガツンとアタックしろー!」
そう言ってマスターもう一杯!なんて叫ぶ奴の横で、俺の気持ちはどんどん沈んでいく。
似合わない、か。確かにそうだよな。
俺の見た目は完全に筋骨隆々な男だし、このナリで少女のように恋をしているなんて、誰がどう見ても気持ち悪いに決まっている。
「お前なあ、いい加減飲み過ぎだぞ。マルクス、ほら酒。あと、こいつは最近嫁とうまくいってないんだ、人に絡みたくてしょうがねえのさ、気にするなよ。」
「だってよおマスター!あいつ二言目には、」
「はいはい、もうその話は聞き飽きたぜ、ほれ、これ飲んだらそろそろ帰れよ。」
「おいマスター!そんなこと言わずに聞いてくれよおお。」
そんな会話を横からぼーっと見つめる。
嫁とうまくいってない、か。
そもそも好きな人と両思いになって結婚までできるなんて、前世でどんだけ徳を積んだんだってくらいの奇跡だ。
「んー?マルクス、お前なんか元気なくねえかー?」
「え、ああ、いや、ちょっと疲れてるのかもな、これ飲んだら帰る。気にしないでくれ。」
「失恋がそんなにショックかあ。かわいそうに…おおおいみんな!!いい女知らねえか!こいつに紹介してくれよ!!」
「お、おい!お前、酔いすぎだ!!」
大声で叫び出され、流石に少し焦る。
酒場の客たちがこちらを見て笑っている。
いい女がいたら俺が紹介して欲しいぜーなんて野次や、一晩でよければ相手しようかー?なんて女の声まで聞こえる。
流石に惨めで恥ずかしくて、飲み途中の酒をそのままに酒場を出ようとしたが。
「ぐわああっ!!」
隣にいた奴はいつの間にか酒場の隅に吹っ飛んでいて、代わりにここにいるはずのない男が目の前に立っていた。
「ア、アル、」
アルベルト、と声をかけようとしたが、彼は俺の知っているアルベルトではなく。
“冷酷な第二王子“のアルベルトの顔をしていた。
「誰のものを勝手に譲ろうとしていた?」
「うう、」
先ほどまで騒がしかった酒場は静まり返り、皆がアルベルトを見ている。
第二王子なだけあって国民は誰もが知っている。
その美貌も、キレたら手がつけられないことも。
だから誰も吹っ飛んだやつを助けられないし、こちらに飛び火がいかないよう息を潜めて静止することで精一杯だ。
「あと、相手をすると言っていた女、誰だ。」
「!?」
「お前だな?」
急に話を振られ、身体をびくつかせた女性。
一瞬のその動きをめざとく見つけ、彼女の元に向かおうとするアルベルトの腕を、震えながら掴む。
あの懐っこいアルベルトを知っていても、このアルベルトと本当に同一人物か疑いたくなる。
それほどまでに、この状態のアルベルトはひどく恐ろしい。
「マルクス、ひどいじゃないか、探したんだよ!」
途端、顔を綻ばせ、俺を抱きしめるアルベルト。
いつものアルベルトとさっきまでの態度の差が激しすぎて理解が追いつかず、身体の震えが止められない。
俺の身体が震えていることに気づき、顔を覗き込まれる。
「寒い?お酒飲んで体温が下がったのかな?一緒に部屋に帰ろう。こんなところ、マルクスには似合わないよ。」
「!?」
そう早口で捲し立て、気づけばお姫様抱っこをされていた。
「懐かしいね、マルクスがしてくれたのが始まりだったなあ。」
皆が注目している中、恐怖と羞恥心で訳がわからなくなる。
訳がわかっていないのは多分酒場の誰もが同じで、先ほどまでとは打って変わって甘い笑顔でゴツい男をお姫様抱っこをするアルベルトの姿に、戸惑いを隠せない表情を浮かべている。
だが、次第にいつもと様子が違うアルベルトにじりじりと近づいてくる奴らもいた。
「ア、アルベルト王子!お久しぶりです!覚えていらっしゃいますか!?前に一度訓練兵に志願してお会いしたことがあって、」
「アルベルト王子!私は以前から王子をお慕いしていて…王宮暮らしに退屈していないですか?私でよければいつでもお相手を、」
「ダメよ、あんたなんかただのアバズレじゃない!アルベルト王子、私の方が絶対満足させられます、どうか私をお選びください!」
「いやいや、アルベルト王子は女じゃなく強いやつをご所望だ、俺なんか結構腕っぷし強いんでどうでしょう!」
俺が気に入られていると判断した奴らが次々に話しかけてくる。
まあ俺レベルを気にいるなら自分も、と思っているのだろう。
だが、そんな奴らを無視して歩き続けるアルベルト。
「アルベルト王子!」
そう言ってアルベルトの肩に誰かが手を置いた瞬間。
その一瞬で目の前に群がっていた奴らがいなくなった。
正確には視界から、だが。
手が塞がっていたにも関わらず、足で文字通り奴らを一蹴したため、うめき声をあげて足元に倒れ込んでいる。
「マルクスに死体を見せるわけにいかないからな。マルクスがいなければ…」
そう言って酒場の奴らを一瞥するアルベルトの瞳には怒りが見え、今度こそ話しかける人間はいなかった。
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