56 / 58
49あなたになんの権限があってそんな事を?
しおりを挟む翌朝シエルは全く知らない部屋で目が覚めて驚いた。
「ここはどこでしょうか?私は…」
昨夜はスタンフォース公爵の屋敷でディナーを頂いてそして…と言うことはここはスタンフォース公爵の?
周りを見回せば家具も絨毯もかなりいいものばかりだ。
「失礼します」
そこに侍女が入って来た。
「まあ、お目ざめでしたか。ご気分はどうです?昨夜は気分が悪くなられたとかで急きょお泊まりいただきましたが」
「申し訳ありません。それでここはスタンフォース公爵のお屋敷ですよね?」
シエルは恐る恐る聞く。
「はい、もちろんでございます。ここはスタンフォース家の客間ですのでご安心ください。まだお休みになりますか?失礼かとは思いましたが昨晩は私共の方で着替えをさせていただきました。ドレスはあちらにかけてありますのでお着替えの時はお声を掛けて下さい」
シエルは自分が覚えのない寝間着を着ていることにやっと気づく。
もう、私ったらそんなにワインを飲んだつもりはなかったのに…
「まあ、本当に申し訳ありません。ワインを飲み過ぎたのかしら、こんなに気分が悪くなったことはなかったのですが、すみませんがお茶を頂けませんか?」
とにかくお茶を飲んだらすぐにお暇しなくてはと。
「はい、すぐにお持ちします。それで旦那様にもお知らせしておきますので」
侍女はそう言うと出て行った。
しばらくしてスタンフォース公爵が扉をノックした。
「クリゲルだ。シエル殿入ってもよろしいか?」
「えっ?あっ、はい、どうぞ」
シエルはまだ寝巻姿だったので恥ずかしかったが心配をかけた手前断るわけにもいかなかった。
「シエル殿おはよう。実は話がある。着替えが終わって食事がすんだら王宮に出向くのでそのつもりでいて欲しい」
「はい、わかりました。昨晩は申し訳ありませんでした。あのようなことになったのは初めてで…」
「それは気にしなくてもいい。では着替えが終わったら朝食室に来てくれ」
「はい、わかりました」
シエルは言われた通りにしたが、何か昨日とは違う彼の態度に違和感を覚えた。
きっとワインいっぱいで酔っぱらった私に幻滅でもしたんだわ。
シエルはお茶を飲むのもやめて急いでスタンフォース公爵家の侍女に手伝ってもらってドレスを着て髪を結ってもらった。
支度が終わると朝食室に入った。
スタンフォース公爵が先に朝食を終えていてシエルはひとりで朝食を済ませた。
もう、待っててくれると思ってたのに、これは相当怒ってるのね。でもちょうどいいわ。私とは結婚しないつもりみたいだし話をしなくても婚約がなくなるなら良かったわ。
シエルは彼は婚約申し込みを取り下げると父に話をするつもりなのだろうと思った。
クリゲルは馬車に乗るときも紳士的な所作だったが言葉はほとんど交わすことはなかった。
それからスタンフォース公爵と一緒に王宮に向かった。
馬車の中でもシエルが話しかけようとすると手で制して話はしたくないとそっぽを向かれた。
3年前も勝手な人だと思ったがここまでひどいとは思ってもいなかったわ。
とにかく婚約の話はなかった事に私からお父様に言います。
シエルはあまりの冷たい態度にひどく腹を立てていた。
国王の執務室に入るといよいよスタンフォース公爵が怒りをあらわに話を始めた。
「国王陛下、今回の婚約申し込みはお断りします」
「ほう、それはまたどうして?昨日はあんなに乗り気だったではないか。何がそんなにお気に召さなかったのだ?」
父ルドルフもいきなりの婚約申し込みの断りにいささか憤っている。
「こんなことを申し上げていいのかわかりませんが、父から王宮のシエル様の部屋にウィスコンティン様が出入りしていると話を聞きまして、いろいろ噂もありましたので、勝手とは思いましたが私の方でシエル様のお身体を調べさせていただきました。もちろん医者にです」
驚いたのはシエルだ。
何の話?私の身体を調べたですって?いつどこで???
「スタンフォース公爵?今なんておっしゃいました。私の身体を調べたと?私、何も聞いておりませんけど、どういうことですの?」
「あなたに話せば、はぐらかされるかもしれないと思ったので、ワインに眠り薬を入れて内密に調べました。その結果。シエル殿は純潔ではないと判明しました。すでにどなたかの手であなたの純潔は奪われていると医者が見立てましたので、残念ですが婚約はなかった事にさせていただきます。では、私は急ぎますので失礼します」
クリゲルはもうくるりと向きを変えている。
シエルの内心は穏やかではなかった。だって本当の事ですもの。
絶対に空いては誰かと聞かれるはず…ボルクの名前を出せば彼に迷惑がかかってしまう。
ああ、どうしましょう。
思った通り父はクリゲルを呼び止めた。
「それはどういうことだ?医者が確認したとは…シエルの身体を勝手に調べるなど無礼ではないか!」
父はかなり怒っているらしい。スタンフォース公爵に文句を言っている。
クリゲルは国王の方に向き直るとすました顔で言う。
「ですが国王陛下、シエル様にはいろいろ噂もあった事ですし、私は当たり前のことをしたと思っています。それに初めにわかって良かったとも思っています。私を責めるよりそのお相手がどなたかを突き止める方が先決なのでは?もちろん私には関係のない事ですしこれ以上ここで話をするのも無駄と思いますので失礼します」
スタンフォース公爵あくまで紳士的に、それもかなり冷淡な態度だった。
彼は身をひるがえすとあっという間に執務室を後にしていた。
シエルはいたたまれなくなる。
お父様に何て言えばいいの?困ったわ。
それにしてもあの冷血動物め。(もちろんスタンフォース公爵の事です)
「お父様ひどすぎますわ。こんなの許せません。勝手に眠り薬を盛るなんて!どうりで身体がひどく気だるくなってきたと…」
シエルはわめき散らす。
ルドルフは大きくため息を吐いた。
「シエル、そんな事はどうでもよい。それよりお前はもう?いったい相手は誰なんだ?まかさボルクではあるまな。オーランド国の皇帝との閨を嫌がったのはもうボルクと出来ていたからなのか?」
父の顔はひどく落胆して怒ると言うよりがっかりしたらしく、肩はがっくり落ちて眉も下がり声も小さかった。
シエルは父をがっかりさせたことに胸が締め付けられるがそれは違うとはっきりさせなければと。
「ひどいわ。お父様いくら何でもそんなことあるはずがありません。私は皇帝の…あの時はまだ純潔でしたわ!」
「まだだって?シエルやっぱりお前は…では誰なんだ?言いなさいシエル。これは大変な問題なんだ。わかっているのか?」
父はシエルの目の前で今度は拳を震わせて怒り始めた。
お父様ごめんなさい。でも…でも…
「それは…いえ、言えません。私は結婚はする気もありませんし誰も困らないではないですか。だからお父様もうこの話は終わりにして下さい」
「もういい、それなら諜報部に調査を依頼するまでだ。すぐに相手はわかるはずだ!」
父も意地になっているのかどうやっても相手を突き止めると聞かない。
困ったわ。ボルクがいてだってわかったら彼が困るんじゃ…
そして翌日にはシエルが出向いたあの逢引き宿のある食堂が浮かび上がる。シエルがそこに出入りしていたと知ってルドルフは倒れそうになる。
ボルクはあいにくその日は地方に出かけていなかった。
早速諜報部にホルックと言う男が連れて来られて調べを受ける。
シエルも諜報部に呼ばれて話を聞かれた。その人があの食堂にボルクと同伴していた女性だった。
「あなたはあの時の…」シエルは驚いた。
「私をご存知でしょうか?」
彼女はメリーと言うがシエルはあの時顔を見たが彼女は何も気づいてなかったようでシエルは恥ずかしながら事情を説明した。それで事実がわかりホルックは放免となった。
表でシエルは偶然ホルックに出会って謝った。
「ごめんなさい。こんなことになるなんて思っていなかったわ」
シエルはホルックからひどくぶつぶつ言われた。
「まったく、あの日あんたの男には殴られるわ。今度はあんたと寝たなんて勘違いされてこんな所にまで引っ張られてよぉ、まさかあんたがお姫様だったなんて、ほんとにやっぱりあの時早く奪っとくんだったな。でも、あんたの男は自分で名乗らないつもりなのか?ひでぇよな。あんたを傷ものにしておいてさ」
ホルックは完全にボルクがシエルのいい男だと思っている。
シエルは慌てて否定する。
「ホルックさん違いますから。彼は助けてくれただけでそんな関係ではありませんから」
「じゃあ一体誰なんだ?自分で言えばいいじゃねぇか。どうせ結婚するんだろう?」
「でも、父が許してくれるかどうか…」
「ったく。貴族ってのは面倒なんだな。好きなら結婚すればいいだろう?」
ホルックの素直な気持ちに思わずそうだと言いたくなる。
だが、貴族社会は相手との婚姻の身分の差はかなり厳しいから…だからボルクは結婚は無理だといい張っているんだろうから。
シエルはホルックと別れてこれ以上ないって言うほど大きなため息をついた。
今夜どうしたって父と貌を合わせることになる。
シエルの気持ちは海底の底より深く沈んで行った。
11
あなたにおすすめの小説
【完結】王命の代行をお引き受けいたします
ユユ
恋愛
白過ぎる結婚。
逃れられない。
隣接する仲の悪い貴族同士の婚姻は王命だった。
相手は一人息子。
姉が嫁ぐはずだったのに式の前夜に事故死。
仕方なく私が花嫁に。
* 作り話です。
* 完結しています。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
次期騎士団長の秘密を知ってしまったら、迫られ捕まってしまいました
Karamimi
恋愛
侯爵令嬢で貴族学院2年のルミナスは、元騎士団長だった父親を8歳の時に魔物討伐で亡くした。一家の大黒柱だった父を亡くしたことで、次期騎士団長と期待されていた兄は騎士団を辞め、12歳という若さで侯爵を継いだ。
そんな兄を支えていたルミナスは、ある日貴族学院3年、公爵令息カルロスの意外な姿を見てしまった。学院卒院後は騎士団長になる事も決まっているうえ、容姿端麗で勉学、武術も優れているまさに完璧公爵令息の彼とはあまりにも違う姿に、笑いが止まらない。
お兄様の夢だった騎士団長の座を奪ったと、一方的にカルロスを嫌っていたルミナスだが、さすがにこの秘密は墓場まで持って行こう。そう決めていたのだが、翌日カルロスに捕まり、鼻息荒く迫って来る姿にドン引きのルミナス。
挙句の果てに“ルミタン”だなんて呼ぶ始末。もうあの男に関わるのはやめよう、そう思っていたのに…
意地っ張りで素直になれない令嬢、ルミナスと、ちょっと気持ち悪いがルミナスを誰よりも愛している次期騎士団長、カルロスが幸せになるまでのお話しです。
よろしくお願いしますm(__)m
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました
大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
完結(R18 詰んだ。2番目の夫を迎えたら、資金0で放り出されました。
にじくす まさしよ
恋愛
R18。合わないと思われた方はバックお願いします
結婚して3年。「子供はまだいいよね」と、夫と仲睦まじく暮らしていた。
ふたり以上の夫を持つこの国で、「愛する夫だけがいい」と、ふたり目以降の夫を持たなかった主人公。そんなある日、夫から外聞が悪いから新たな夫を迎えるよう説得され、父たちの命もあり、渋々二度目の結婚をすることに。
その3ヶ月後、一番目の夫からいきなり離婚を突きつけられ、着の身着のまま家を出された。
これは、愛する夫から裏切られ、幾ばくかの慰謝料もなく持参金も返してもらえなかった無一文ポジティブ主人公の、自由で気ままな物語。
俯瞰視点あり。
仕返しあり。シリアスはありますがヒロインが切り替えが早く前向きなので、あまり落ち込まないかと。ハッピーエンド。
今宵、薔薇の園で
天海月
恋愛
早世した母の代わりに妹たちの世話に励み、婚期を逃しかけていた伯爵家の長女・シャーロットは、これが最後のチャンスだと思い、唐突に持ち込まれた気の進まない婚約話を承諾する。
しかし、一か月も経たないうちに、その話は先方からの一方的な申し出によって破談になってしまう。
彼女は藁にもすがる思いで、幼馴染の公爵アルバート・グレアムに相談を持ち掛けるが、新たな婚約者候補として紹介されたのは彼の弟のキースだった。
キースは長年、シャーロットに思いを寄せていたが、遠慮して距離を縮めることが出来ないでいた。
そんな弟を見かねた兄が一計を図ったのだった。
彼女はキースのことを弟のようにしか思っていなかったが、次第に彼の情熱に絆されていく・・・。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる