一途なエリート騎士の指先はご多忙。もはや暴走は時間の問題か?

はなまる

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49あなたになんの権限があってそんな事を?

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  翌朝シエルは全く知らない部屋で目が覚めて驚いた。

 「ここはどこでしょうか?私は…」

 昨夜はスタンフォース公爵の屋敷でディナーを頂いてそして…と言うことはここはスタンフォース公爵の?

 周りを見回せば家具も絨毯もかなりいいものばかりだ。

 「失礼します」

 そこに侍女が入って来た。

 「まあ、お目ざめでしたか。ご気分はどうです?昨夜は気分が悪くなられたとかで急きょお泊まりいただきましたが」

 「申し訳ありません。それでここはスタンフォース公爵のお屋敷ですよね?」

 シエルは恐る恐る聞く。

 「はい、もちろんでございます。ここはスタンフォース家の客間ですのでご安心ください。まだお休みになりますか?失礼かとは思いましたが昨晩は私共の方で着替えをさせていただきました。ドレスはあちらにかけてありますのでお着替えの時はお声を掛けて下さい」

 シエルは自分が覚えのない寝間着を着ていることにやっと気づく。

 もう、私ったらそんなにワインを飲んだつもりはなかったのに…

 「まあ、本当に申し訳ありません。ワインを飲み過ぎたのかしら、こんなに気分が悪くなったことはなかったのですが、すみませんがお茶を頂けませんか?」

 とにかくお茶を飲んだらすぐにお暇しなくてはと。

 「はい、すぐにお持ちします。それで旦那様にもお知らせしておきますので」

 侍女はそう言うと出て行った。


 しばらくしてスタンフォース公爵が扉をノックした。

 「クリゲルだ。シエル殿入ってもよろしいか?」

 「えっ?あっ、はい、どうぞ」

 シエルはまだ寝巻姿だったので恥ずかしかったが心配をかけた手前断るわけにもいかなかった。

 「シエル殿おはよう。実は話がある。着替えが終わって食事がすんだら王宮に出向くのでそのつもりでいて欲しい」

 「はい、わかりました。昨晩は申し訳ありませんでした。あのようなことになったのは初めてで…」

 「それは気にしなくてもいい。では着替えが終わったら朝食室に来てくれ」

 「はい、わかりました」

 シエルは言われた通りにしたが、何か昨日とは違う彼の態度に違和感を覚えた。

 きっとワインいっぱいで酔っぱらった私に幻滅でもしたんだわ。


 シエルはお茶を飲むのもやめて急いでスタンフォース公爵家の侍女に手伝ってもらってドレスを着て髪を結ってもらった。

 支度が終わると朝食室に入った。

 スタンフォース公爵が先に朝食を終えていてシエルはひとりで朝食を済ませた。

 もう、待っててくれると思ってたのに、これは相当怒ってるのね。でもちょうどいいわ。私とは結婚しないつもりみたいだし話をしなくても婚約がなくなるなら良かったわ。

 シエルは彼は婚約申し込みを取り下げると父に話をするつもりなのだろうと思った。


 クリゲルは馬車に乗るときも紳士的な所作だったが言葉はほとんど交わすことはなかった。

 それからスタンフォース公爵と一緒に王宮に向かった。

 馬車の中でもシエルが話しかけようとすると手で制して話はしたくないとそっぽを向かれた。

 3年前も勝手な人だと思ったがここまでひどいとは思ってもいなかったわ。

 とにかく婚約の話はなかった事に私からお父様に言います。

 シエルはあまりの冷たい態度にひどく腹を立てていた。



 国王の執務室に入るといよいよスタンフォース公爵が怒りをあらわに話を始めた。

 「国王陛下、今回の婚約申し込みはお断りします」

 「ほう、それはまたどうして?昨日はあんなに乗り気だったではないか。何がそんなにお気に召さなかったのだ?」

 父ルドルフもいきなりの婚約申し込みの断りにいささか憤っている。

 「こんなことを申し上げていいのかわかりませんが、父から王宮のシエル様の部屋にウィスコンティン様が出入りしていると話を聞きまして、いろいろ噂もありましたので、勝手とは思いましたが私の方でシエル様のお身体を調べさせていただきました。もちろん医者にです」

 驚いたのはシエルだ。

 何の話?私の身体を調べたですって?いつどこで???

 「スタンフォース公爵?今なんておっしゃいました。私の身体を調べたと?私、何も聞いておりませんけど、どういうことですの?」

 「あなたに話せば、はぐらかされるかもしれないと思ったので、ワインに眠り薬を入れて内密に調べました。その結果。シエル殿は純潔ではないと判明しました。すでにどなたかの手であなたの純潔は奪われていると医者が見立てましたので、残念ですが婚約はなかった事にさせていただきます。では、私は急ぎますので失礼します」

 クリゲルはもうくるりと向きを変えている。
 

 シエルの内心は穏やかではなかった。だって本当の事ですもの。

 絶対に空いては誰かと聞かれるはず…ボルクの名前を出せば彼に迷惑がかかってしまう。

 ああ、どうしましょう。


 思った通り父はクリゲルを呼び止めた。

 「それはどういうことだ?医者が確認したとは…シエルの身体を勝手に調べるなど無礼ではないか!」

 父はかなり怒っているらしい。スタンフォース公爵に文句を言っている。

 クリゲルは国王の方に向き直るとすました顔で言う。

 「ですが国王陛下、シエル様にはいろいろ噂もあった事ですし、私は当たり前のことをしたと思っています。それに初めにわかって良かったとも思っています。私を責めるよりそのお相手がどなたかを突き止める方が先決なのでは?もちろん私には関係のない事ですしこれ以上ここで話をするのも無駄と思いますので失礼します」

 スタンフォース公爵あくまで紳士的に、それもかなり冷淡な態度だった。

 彼は身をひるがえすとあっという間に執務室を後にしていた。


 シエルはいたたまれなくなる。

 お父様に何て言えばいいの?困ったわ。

 それにしてもあの冷血動物め。(もちろんスタンフォース公爵の事です)

 「お父様ひどすぎますわ。こんなの許せません。勝手に眠り薬を盛るなんて!どうりで身体がひどく気だるくなってきたと…」

 シエルはわめき散らす。

 ルドルフは大きくため息を吐いた。

 「シエル、そんな事はどうでもよい。それよりお前はもう?いったい相手は誰なんだ?まかさボルクではあるまな。オーランド国の皇帝との閨を嫌がったのはもうボルクと出来ていたからなのか?」

 父の顔はひどく落胆して怒ると言うよりがっかりしたらしく、肩はがっくり落ちて眉も下がり声も小さかった。


 シエルは父をがっかりさせたことに胸が締め付けられるがそれは違うとはっきりさせなければと。

 「ひどいわ。お父様いくら何でもそんなことあるはずがありません。私は皇帝の…あの時はまだ純潔でしたわ!」

 「まだだって?シエルやっぱりお前は…では誰なんだ?言いなさいシエル。これは大変な問題なんだ。わかっているのか?」

 父はシエルの目の前で今度は拳を震わせて怒り始めた。

 お父様ごめんなさい。でも…でも…

 「それは…いえ、言えません。私は結婚はする気もありませんし誰も困らないではないですか。だからお父様もうこの話は終わりにして下さい」

 「もういい、それなら諜報部に調査を依頼するまでだ。すぐに相手はわかるはずだ!」

 父も意地になっているのかどうやっても相手を突き止めると聞かない。

 困ったわ。ボルクがいてだってわかったら彼が困るんじゃ…



 そして翌日にはシエルが出向いたあの逢引き宿のある食堂が浮かび上がる。シエルがそこに出入りしていたと知ってルドルフは倒れそうになる。

 ボルクはあいにくその日は地方に出かけていなかった。

 早速諜報部にホルックと言う男が連れて来られて調べを受ける。

 シエルも諜報部に呼ばれて話を聞かれた。その人があの食堂にボルクと同伴していた女性だった。

 「あなたはあの時の…」シエルは驚いた。

 「私をご存知でしょうか?」

 彼女はメリーと言うがシエルはあの時顔を見たが彼女は何も気づいてなかったようでシエルは恥ずかしながら事情を説明した。それで事実がわかりホルックは放免となった。



 表でシエルは偶然ホルックに出会って謝った。

 「ごめんなさい。こんなことになるなんて思っていなかったわ」

 シエルはホルックからひどくぶつぶつ言われた。

 「まったく、あの日あんたの男には殴られるわ。今度はあんたと寝たなんて勘違いされてこんな所にまで引っ張られてよぉ、まさかあんたがお姫様だったなんて、ほんとにやっぱりあの時早く奪っとくんだったな。でも、あんたの男は自分で名乗らないつもりなのか?ひでぇよな。あんたを傷ものにしておいてさ」

 ホルックは完全にボルクがシエルのいい男だと思っている。

 シエルは慌てて否定する。

 「ホルックさん違いますから。彼は助けてくれただけでそんな関係ではありませんから」

 「じゃあ一体誰なんだ?自分で言えばいいじゃねぇか。どうせ結婚するんだろう?」

 「でも、父が許してくれるかどうか…」

 「ったく。貴族ってのは面倒なんだな。好きなら結婚すればいいだろう?」

 ホルックの素直な気持ちに思わずそうだと言いたくなる。

 だが、貴族社会は相手との婚姻の身分の差はかなり厳しいから…だからボルクは結婚は無理だといい張っているんだろうから。

 シエルはホルックと別れてこれ以上ないって言うほど大きなため息をついた。

 今夜どうしたって父と貌を合わせることになる。

 シエルの気持ちは海底の底より深く沈んで行った。




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