異世界に行った、そのあとで。

神宮寺あおい@1/23先視の王女の謀発売

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公爵令息

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「お披露目を兼ねた舞踏会の話は私もつい最近殿下から聞いたばかりだから、ナツメさんにもすぐに知らせがいくと思うんですよね」

 そもそも当事者である私がなぜそのことを知らないのか疑問に思っていたら花音ちゃんがそう教えてくれた。
 つまり、本当に決まったばかりなのだろう。

 そして悩みはリベルタ嬢の質問に戻る。

「エスコート……」

 もちろん意味はわかる。
 舞踏会の時女性のパートナーを務める男性のことだ。
 それくらいは私でも知っている。

 しかしそんな相手に心当たりがあるわけがない。
 そもそもこの世界に知り合いがほとんどいないのだから。
 まさかグノシー伯に頼む訳にもいかないよね。
 王家主催の舞踏会ともなればグノシー伯も参加するだろうし、そのパートナーは当然奥さまだ。

 えええ……どうするの?

 しかも困るのはエスコート相手がいない、というだけではない。

 ドレスなんて一枚も持ってないけど!?
 
 そう。
 仕事に必要ではないドレスなど一枚も手持ちにない。
 しかも王家主催ともなれば格式も高いだろうから尚更無理だ。

 いや、参加自体が難しいのでは?

 そう途方に暮れていたら私の心配を解消するためか花音ちゃんが「たぶん……」と話し始める。

「私の準備にかかる物は王家が用意してくれるって言ってたから、ナツメさんも同じなんじゃないかなぁ?」

 ……それはどうだろう?
 最初に召喚された時のことを思い返してみると楽観的には考えられない。

「でしたら私の家で用意させていただいてもよろしいでしょうか?」

 頭を悩ませる私に、不意にリベルタ嬢が言った。

「え?」
「ナツメさんさえよろしければですけれど」
「でもそんなことをしてもらう理由がないわ」

 もしかすると私がべラルド卿との間の橋渡しを承諾したからだろうか?

「その代わり、と言ってはいけませんけど、兄のパートナーとして参加していただければと思いますの」

 ん?
 お兄さん?

「リベルタ嬢にはお兄様がいらっしゃるの?」
「はい、一人います」

 リベルタ嬢の兄ともなれば公爵家の跡取り息子のはず。
 そんな立場の人であればすでに婚約者がいるのでは?

「お気遣いはありがたいけれど、そんなことをしてもらったらお兄様の婚約者さんに申し訳ないわ」
「あ、兄に婚約者はいません」
「いない?」
「はい」

 にこやかに言われたものの、私は困惑する。
 何歳のお兄さんかはわからないけど、リベルタ嬢の年齢を考えればおそらく結婚適齢期のはず。
 しかも公爵家。

 むしろなぜ婚約者がいないのか疑問なんだけど!

「あ! 兄がおかしな人だから婚約者がいないとかではありません!」

 不審そうな顔でもしてたのか、リベルタ嬢が慌てたように言った。

「実は、以前家としての繋がりもあって婚約を結んでいた侯爵家のご令嬢がいたのですが……」

 そこでリベルタ嬢は一旦言葉を切った。
 続く内容が言いにくいものなのかもしれない。

「その方があまりにも兄にのめり込みすぎて、社交の場で兄と少し話しただけの他のご令嬢にまで嫌がらせをするようになってしまいまして……」

 ……それはなかなかに強烈……。

「兄はたしかに華やかな見た目をしていますし、外交を担う家門ということもあって多くのご令嬢に好かれてはいるのですが、婚約中は決してよそ見はしていなかったのです。でも婚約者の方は兄を信じることができなかったみたいで」

 で、どうなったの!?
 
 私はその先を知りたい気持ち半分、少し恐ろしい気持ち半分でリベルタ嬢の話の続きを待った。
 
「兄の行く先々に現れ、さらには仕事中でも構わず付きまとい、兄と話しただけのご令嬢の家にまで脅しをかけるような行為をするようになってしまったのです」

 それはいわゆるストーカー……。
 侯爵家といえば高位貴族。
 他の多くのご令嬢の家より家格が上だよね。

「結局そのご令嬢との婚約は破棄になりまして、それ以降いまだに兄に婚約者はいないのですわ」

 それは……お気の毒としか言えないわ。

「下手に誰かをお誘いすることもできませんし、今度の舞踏会でも兄にはパートナーがいないのです。ですので、もしナツメさんがよろしければパートナーになっていただければと思うのですが、いかがでしょう?」

 いかがでしょうと言われてもどうしたらいいのか。
 そもそもリベルタ嬢のお兄さんには会ったこともないし、そもそもお兄さんの方が私が相手では嫌だと思うかもしれない。

 そう思うと安易に返事をすることができなかった。

「私にはもったいないようなお相手だと思うんだけど……。まずはお兄さんの意向を確認してもらった方がいいんじゃないかな?」

 そして、私の言葉にリベルタ嬢はにこりと微笑むと「わかりました」と答えてくれた。
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