異世界に行った、そのあとで。

神宮寺あおい@1/23先視の王女の謀発売

文字の大きさ
53 / 90

疑惑

しおりを挟む
「ところで、レイラ嬢はどうして私の名前が『ナツメ』だと知っているのでしょうか? 彼女はそれが姓ではなく名前だと確信している感じでしたが」

 べラルド卿の微笑みという目の保養に忘れてしまいそうだったけど、私は先ほどのレイラ嬢との会話で気になったことを聞いてみる。

「たしかに、それはそうですね。陛下は聖女様とナツメ殿に関する詳細について箝口令を敷いていたはずです」

 侯爵家といえばトルス国でも上位貴族になるし、父親から聞いて知っていたとも考えられる。
 でもいくら家族とはいえ、仕事上の話を娘に詳しくするだろうか。

「ヴァニタス家は文官の中でも財務を担当している家門です。当主は聖女様の件も含めて国の機密事項を知り得る立場ではありますが……」

 そこでべラルド卿は考えるように言葉を切った。

「気になるので一度調べてみます。ナツメ殿はできる限りヴァニタス嬢に近づかないでいただけると助かるのですが」

 いや、誰が好き好んでレイラ嬢に近寄るものですか。
 どこからどうみても面倒な性格をしてる人なのに。

「今日お披露目はされましたけど私はこれからも社交界に顔を出すつもりはありませんし、今後も仕事に勤しみたいと思っていますので心配は無用かと」

 あまり重く言ってもべラルド卿が気にしそうだったので、私はいかにも気軽な感じでそう口にした。

「それは……ありがとうございます」

 べラルド卿が再び微笑む。
 なぜか今日は彼が笑みを浮かべるのをよく見る気がした。

 こんなに頻繁に微笑む人だったっけ?

 そうは思ったけど、難しい顔や仏頂面をされるよりはいいかと納得する。

「ああ……どうやら陛下が呼んでいるようですね。少し席を外しますが、よろしいでしょうか?」
「もちろんです」
「下手に話しかけられると大変でしょうから、この場から離れないでいただけるとありがたいのですが」
「どこにも行くつもりはありませんので大丈夫ですよ」

 殿下や聖女である花音ちゃんがいるこの場であれば無闇に誰かが近寄ってくることもないだろう。
 そう思って答えた私の言葉に納得すると、べラルド卿は彼を呼びに来た人と一緒に場を離れて行く。
 なんとなくその背を見送っていたら横合いから興味津々な花音ちゃんに話しかけられた。

「ナツメさん、べラルド卿と何だか良い感じですか?」
「……え?」

 一瞬言われた意味がわからず思わず問い返す。

「だから、ベラルド卿と良い雰囲気だなと思ったんですけど」

 そう聞く花音ちゃんは恋バナを楽しむ女子高生の顔をしていた。

 良い感じ?
 べラルド卿と私が?
 さすが女子高校生。
 恋バナが好きだよね。
 
「べラルド卿は私が他に頼る先がないから気にかけてくれているだけだと思うけど?」
「ほんとーに、それだけですか?」

 花音ちゃんが疑わしげな視線を向けてくる。

「それ以外に何もないでしょう? 変なことを言うとべラルド卿に迷惑がかかるわよ」

 ただでさえ望まない好意に困らされているべラルド卿に私まで迷惑をかけるわけにはいかない。
 そう思って答えたんだけど。

「殿下、どう思います?」
「……ナツメ殿が鈍感だということはわかった」

 そこ、失礼なこと言ってない?
 しかもべラルド卿の気持ちを勝手に推測しているし。
 恋バナは自分たちのことだけでお願いします。

 そう私が心の中で思ったのは仕方ないことだと思う。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

私生児聖女は二束三文で売られた敵国で幸せになります!

近藤アリス
恋愛
私生児聖女のコルネリアは、敵国に二束三文で売られて嫁ぐことに。 「悪名高い国王のヴァルター様は私好みだし、みんな優しいし、ご飯美味しいし。あれ?この国最高ですわ!」 声を失った儚げ見た目のコルネリアが、勘違いされたり、幸せになったりする話。 ※ざまぁはほんのり。安心のハッピーエンド設定です! ※「カクヨム」にも掲載しています。

逆行令嬢は聖女を辞退します

仲室日月奈
恋愛
――ああ、神様。もしも生まれ変わるなら、人並みの幸せを。 死ぬ間際に転生後の望みを心の中でつぶやき、倒れた後。目を開けると、三年前の自室にいました。しかも、今日は神殿から一行がやってきて「聖女としてお出迎え」する日ですって? 聖女なんてお断りです!

恋愛は見ているだけで十分です

みん
恋愛
孤児院育ちのナディアは、前世の記憶を持っていた。その為、今世では恋愛なんてしない!自由に生きる!と、自立した女魔道士の路を歩む為に頑張っている。 そんな日々を送っていたが、また、前世と同じような事が繰り返されそうになり……。 色んな意味で、“じゃない方”なお話です。 “恋愛は、見ているだけで十分よ”と思うナディア。“勿論、溺愛なんて要りませんよ?” 今世のナディアは、一体どうなる?? 第一章は、ナディアの前世の話で、少しシリアスになります。 ❋相変わらずの、ゆるふわ設定です。 ❋主人公以外の視点もあります。 ❋気を付けてはいますが、誤字脱字が多いかもしれません。すみません。 ❋メンタルも、相変わらず豆腐並みなので、緩い気持ちで読んでいただけると幸いです。

踏み台(王女)にも事情はある

mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。 聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。 王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。

魅了魔法に対抗する方法

碧井 汐桜香
恋愛
ある王国の第一王子は、素晴らしい婚約者に恵まれている。彼女は魔法のマッドサイエンティスト……いや、天才だ。 最近流行りの魅了魔法。隣国でも騒ぎになり、心配した婚約者が第一王子に防御魔法をかけたネックレスをプレゼントした。 次々と現れる魅了魔法の使い手。 天才が防御魔法をかけたネックレスは強大な力で……。

ボロボロになるまで働いたのに見た目が不快だと追放された聖女は隣国の皇子に溺愛される。……ちょっと待って、皇子が三つ子だなんて聞いてません!

沙寺絃
恋愛
ルイン王国の神殿で働く聖女アリーシャは、早朝から深夜まで一人で激務をこなしていた。 それなのに聖女の力を理解しない王太子コリンから理不尽に追放を言い渡されてしまう。 失意のアリーシャを迎えに来たのは、隣国アストラ帝国からの使者だった。 アリーシャはポーション作りの才能を買われ、アストラ帝国に招かれて病に臥せった皇帝を助ける。 帝国の皇子は感謝して、アリーシャに深い愛情と敬意を示すようになる。 そして帝国の皇子は十年前にアリーシャと出会った事のある初恋の男の子だった。 再会に胸を弾ませるアリーシャ。しかし、衝撃の事実が発覚する。 なんと、皇子は三つ子だった! アリーシャの幼馴染の男の子も、三人の皇子が入れ替わって接していたと判明。 しかも病から復活した皇帝は、アリーシャを皇子の妃に迎えると言い出す。アリーシャと結婚した皇子に、次の皇帝の座を譲ると宣言した。 アリーシャは個性的な三つ子の皇子に愛されながら、誰と結婚するか決める事になってしまう。 一方、アリーシャを追放したルイン王国では暗雲が立ち込め始めていた……。

私の存在

戒月冷音
恋愛
私は、一生懸命生きてきた。 何故か相手にされない親は、放置し姉に顎で使われてきた。 しかし15の時、小学生の事故現場に遭遇した結果、私の生が終わった。 しかし、別の世界で目覚め、前世の知識を元に私は生まれ変わる…

【完結】異世界から来た聖女ではありません!

五色ひわ
恋愛
 ミシュリーヌは、第四王子オーギュストの妃としてフルーナ王国の王宮で暮らしている。しかし、夫であるオーギュストがミシュリーヌの寝室に訪れることはない。ミシュリーヌは聖女の力を持っていたため、妻に望まれただけなのだ。それでも、ミシュリーヌはオーギュストとの関係を改善したいと考えている。  どうすれば良いのかしら?  ミシュリーヌは焦っていた。七年間かけて国中の水晶を浄化したことにより、フルーナ王国は平穏を取り戻しつつある。それは同時に聖女の力がこの国に必要なくなったことを意味していた。  このまま、オーギュストの優しさに縋ってお飾りの妻を続けるしかないのだろうか。思い悩むミシュリーヌの前に現れたのは、オーギュストの恋人を名乗る女性だった。 ・本編141話 ・おまけの短編 ①9話②1話③5話

処理中です...