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宰相の覚悟 Sideルシウス
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ナツメから届けられた手紙を机の上に置くとルシウスは椅子の背もたれに身を預けた。
ギシリッとルシウスの体重を受け止めた椅子の背が音を立てる。
(さてどうしたものか)
そう考えたところで思考を遮るかのように声がかかった。
「だから逃げられる前に掴まえておけと言ったのに」
そんな物騒な言葉を放ったのはトルス国の王太子ソレイユだ。
少し前からルシウスの執務室に居座り、応接テーブルに出された紅茶と茶菓子を堪能している。
そしてソレイユの向かい側にはどことなく困った顔をしたレグルスが座っていた。
ここに来る前に一緒に剣術の稽古をしていたらしく、ソレイユによって強制的につき合わされた格好だ。
「外堀から埋めようとするから時間がかかるんだ」
そう言ってソレイユはもう一つクッキーを口に放り込む。
「太りますよ」
「さっき散々カロリーを消費してきたところだからな。中年のお前と違って若いし、消費も早いから問題はない」
「殿下、言葉が過ぎます」
ルシウスの注意もどこ吹く風、さらには揶揄うように言葉を続けるソレイユに対して、答える声が低くなってしまうのは仕方ないだろう。
「お前にはしっかりとナツメ殿を掴まえていてもらわねばならん」
「なぜですか?」
「そうでなければカノンがナツメ殿とばかり居たがるからだ。それに、ナツメ殿の考え方は我が国では考えつかないようなことが多くある。今後も自発的にこの国に貢献してもらうためにも、その心を掴んでおくのは重要だろう」
どちらかというと前半の方が本音では? と思わないでもないが、いろいろな意味でこの国にいて欲しいというのも正直なところではあるのだろう。
もちろん、ルシウスにとっては国益も大事ではあるがナツメの気持ちをおろそかにしたい訳ではない。
「父上」
そんな二人の会話に遠慮がちにレグルスが口を挟む。
「なんだ」
「その……俺はもう母親を必要とする年ではありませんし、父上が好ましく思う相手がいるのであれば再婚して欲しいと考えています」
思ってもいない突然の言葉にルシウスは面食らう。
「それに、その相手がナツメさんならば他のご令嬢やご婦人よりもむしろ良い相手だと思っています」
さらには重ねてそう言われた。
レグルスとしては、自分の存在が父親とナツメとの間の邪魔になってはいけないと思ったのかもしれない。
「そうか……」
息子の思わぬ言葉を受けて、ルシウスはそろそろ行動に移す時だと思う。
最初にナツメに会った時は聖女ではない異世界からの客人の登場に戸惑った。
会話を交わしても必要以上に自分に対して興味を示すこともなく、誰かに寄りかかるよりは自立した生活を良しとするその心意気を好ましく思ったものだ。
その上仕事に対する新しい見解を示し、気づけばレグルスやカイル、リベルタの相談に乗っていた。
まさかのソレイユまで聖女とのあれこれを相談しているとは思ってもいなかったが。
(殿下も、こう見えて意外に気難しい方だからな)
聖女への想いが強かったこともあり最初ナツメの存在を無視してしまったソレイユではあるが、王太子という立場上彼もまた簡単に人を信じるタイプではない。
軽口を叩いたりある意味自由に振る舞っているように見えて、その実相手のことをよく見ていた。
そのソレイユもまた、ルシウスの相手としてナツメを推しているのである。
ルシウスはもう一度ナツメからの手紙に視線を落とす。
『公爵邸を出て王宮に戻る』、そう書いてある手紙に。
「少し出てくる」
椅子から立ち上げるとルシウスはそう言った。
「父上?」
「大事な相手はちゃんと掴まえておかなければな」
そう宣言して、ルシウスは執務室を出たのだった。
ギシリッとルシウスの体重を受け止めた椅子の背が音を立てる。
(さてどうしたものか)
そう考えたところで思考を遮るかのように声がかかった。
「だから逃げられる前に掴まえておけと言ったのに」
そんな物騒な言葉を放ったのはトルス国の王太子ソレイユだ。
少し前からルシウスの執務室に居座り、応接テーブルに出された紅茶と茶菓子を堪能している。
そしてソレイユの向かい側にはどことなく困った顔をしたレグルスが座っていた。
ここに来る前に一緒に剣術の稽古をしていたらしく、ソレイユによって強制的につき合わされた格好だ。
「外堀から埋めようとするから時間がかかるんだ」
そう言ってソレイユはもう一つクッキーを口に放り込む。
「太りますよ」
「さっき散々カロリーを消費してきたところだからな。中年のお前と違って若いし、消費も早いから問題はない」
「殿下、言葉が過ぎます」
ルシウスの注意もどこ吹く風、さらには揶揄うように言葉を続けるソレイユに対して、答える声が低くなってしまうのは仕方ないだろう。
「お前にはしっかりとナツメ殿を掴まえていてもらわねばならん」
「なぜですか?」
「そうでなければカノンがナツメ殿とばかり居たがるからだ。それに、ナツメ殿の考え方は我が国では考えつかないようなことが多くある。今後も自発的にこの国に貢献してもらうためにも、その心を掴んでおくのは重要だろう」
どちらかというと前半の方が本音では? と思わないでもないが、いろいろな意味でこの国にいて欲しいというのも正直なところではあるのだろう。
もちろん、ルシウスにとっては国益も大事ではあるがナツメの気持ちをおろそかにしたい訳ではない。
「父上」
そんな二人の会話に遠慮がちにレグルスが口を挟む。
「なんだ」
「その……俺はもう母親を必要とする年ではありませんし、父上が好ましく思う相手がいるのであれば再婚して欲しいと考えています」
思ってもいない突然の言葉にルシウスは面食らう。
「それに、その相手がナツメさんならば他のご令嬢やご婦人よりもむしろ良い相手だと思っています」
さらには重ねてそう言われた。
レグルスとしては、自分の存在が父親とナツメとの間の邪魔になってはいけないと思ったのかもしれない。
「そうか……」
息子の思わぬ言葉を受けて、ルシウスはそろそろ行動に移す時だと思う。
最初にナツメに会った時は聖女ではない異世界からの客人の登場に戸惑った。
会話を交わしても必要以上に自分に対して興味を示すこともなく、誰かに寄りかかるよりは自立した生活を良しとするその心意気を好ましく思ったものだ。
その上仕事に対する新しい見解を示し、気づけばレグルスやカイル、リベルタの相談に乗っていた。
まさかのソレイユまで聖女とのあれこれを相談しているとは思ってもいなかったが。
(殿下も、こう見えて意外に気難しい方だからな)
聖女への想いが強かったこともあり最初ナツメの存在を無視してしまったソレイユではあるが、王太子という立場上彼もまた簡単に人を信じるタイプではない。
軽口を叩いたりある意味自由に振る舞っているように見えて、その実相手のことをよく見ていた。
そのソレイユもまた、ルシウスの相手としてナツメを推しているのである。
ルシウスはもう一度ナツメからの手紙に視線を落とす。
『公爵邸を出て王宮に戻る』、そう書いてある手紙に。
「少し出てくる」
椅子から立ち上げるとルシウスはそう言った。
「父上?」
「大事な相手はちゃんと掴まえておかなければな」
そう宣言して、ルシウスは執務室を出たのだった。
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