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社会人 編
真相と真実と事実は、同じようで違う見え方をする事もあるらしい
「……悪かったよ。連絡先ブロックした事も、急に居なくなった事も。だってオレ、ウサギが嫌いだって言ってたのに、お前を騙してた。
だけど、お前から面と向かって罵声を浴びせかけられたら、オレ、耐えられない。だから、お前を避けた。それは、事実だよ。連絡先ブロックして、ちょっと実家に帰って休もうと思ってたんだ……そしたら、おやじが、詐欺に騙されてて……。
そこからは、その借金を返すのに必死で、大学なんて行ってられなくて、ずっと働いてた。着信拒否してたのも、忘れてた。ごめん。でも、お前はカッコイイから、オレの事なんて忘れて、素敵な人に囲まれて楽しくやってるんだって思ってたんだ」
はっとした顔をしたあと、また泣きそうになる狼谷。こいつ、こんな涙もろかったか? 目じりについた水滴をぬぐってやると、すんっすんっと鼻をすする。そして、眉を悲しそうに寄せた。
「……先輩が、なんで突然いなくなったのかは、わかった。けどっ、それでも、落ち着いたらオレに連絡ぐらいくれてもっ」
ぐっと詰まるように言葉を絞り出す。それに、オレは眉を下げた。
「オレを嫌ってるだろうお前に、連絡する勇気は、オレには無いよ」
諦めたように言うと、またぎゅっと抱きしめられた。
「き、嫌いじゃ、ない!!」
「えっ?」
「センパイの事、嫌って、ない!」
勇気を振り絞って出した、みたいな声で言われた言葉を、オレは信じられなかった。
「でもお前、大学のあの時、凄い不機嫌そうな顔ですぐ出て行ったじゃないか……」
そう。
今でもたまに思い出しては、胸がギュウッと締め付けられるように、苦しくなるあの、振り返りざまの、表情。冷たくて、無感情で、軽蔑していた、あの、顔。
だけど、目の前にいる狼谷は、思い出のオオカミと違って、目元を真っ赤にして、オレに真っ直ぐ感情をぶつけてきた。
「あれは!! 他のオメガ呼んでこようって思ったんだ! あの後すぐ戻ってきたのに……先輩、いなく、なって…どこにも……」
悲しそうな、憤った顔をした狼谷は、こまで言うと、一旦ぐっと言葉を詰まらせ、涙をぽろぽろと流していた。
「は?」
どういう、事だろう。
「お、オレ、そういうのはじめてで、何もわかんなくて焦ってた。せ、センパイに酷いことしちゃったし、他の人に助けてもらおうって、センパイ、ひどくグッタリしてて、可哀想だった、から」
びっくりした。本当に、びっくりした。
何をどうしたら、この感情からあの表情が出てくるんだ?
「あんまりにも冷たい目で一瞥されたから、怒って、一刻も早く立ち去りたかったのかと……」
思わず口に出していたらしい。狼谷は、酷く傷ついた顔をした。
「お、オレ、いくら嫌いな人だからって、そんなこと、しない……それが先輩なら、なおさら…」
こ、これは、うなだれた大型犬、しょんぼりした、狼ならぬ大型犬だ! いつの間にか出ていた獣耳とが、本当に悲しそうにうなだれているのが見える。灰色のきれいな毛並み。
「オレのこと、嫌ってないのか……?」
ずっと聞きたかった、いや、聞く事すら恐れてきっとそうだと思い込んでいた、狼谷の気持ち。
確かに、オレの知ってる狼谷は、あんな酷い奴じゃない筈だった。だから、余計に怒らせてしまったようで、人が変わってしまったようで、怖かったのだ。
その当の本人は、ぐっと眉間に力をいれて、顔を上げた。酷く睨んでいるように見えるが、目の周りは先ほどから泣いているので真っ赤だ。
「嫌いじゃ、ないって、言ってるだろ! むしろ」
「?」
何かを言いたいが、どう言って良いのかわからない風で、今度は一転困ったように眉を下げた。耳も下がる。
何を言おうとしているのか全く予想がつかなくて、ただ、待った。
やがて。
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