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第二話 元貧乏貴族は、鼻息荒く意気込んでしまう
「っんが……」
小鳥のさえずる爽やかな朝。
僕は自分のいびきで目を覚ました。
ハッとして起き上がり、隣を見つめる。
だが、隣に眠っていたはずのモーリス様はもう起床したようで、ベッドが冷たくなっていた。
僕は昨晩のことを思い出し、頭を抱える。
えーーー? なんでモーリス様は僕を抱いてくれなかったんだろう? 僕、なにかモーリス様の気に障るようなことしたかなぁ?
考えてみたが、思い当たるふしはない。
い、いや……。僕は元貧乏貴族だ。マナーの勉強はしたつもりだが、本物の貴族様には敵わない。
知らず知らずのうちにモーリス様を不快にさせる行動を取っていたかもしれない。
「うわー! どうしよう……!」
僕がぐしゃぐしゃと頭を掻きむしっていたら、ドアがコンコンとノックされる音が聞こえた。
続いて、丸顔のメイドが控えめにドアを開ける。
「セルビット様、おはようございます」
「!」
あ、この娘は確か、僕の世話係のメリアスだ! 昨日モーリス様に紹介してもらったのを覚えてる!
「おはよう。メリアス」
僕は先ほどの動揺を隠すように、優雅に微笑んだ。
「朝の準備をお手伝いしてもよろしいでしょうか?」
「うん。お願いします」
顔を洗ったり服の着替えを手伝ってもらう。靴下を履かせてもらっているときに、僕はメリアスに質問する。
「モーリス様はもうお仕事行っちゃったの?」
モーリス様は、衣料品の商会を営んでいる。他国から上質な衣類を輸入して、国内の貴族に買ってもらうんだって。モーリス様が販売する衣類は手触りがよく、華やかで丈夫らしい。だから上位貴族のほとんどがモーリス様の商会を利用している。
それだけでも凄いのに、この度僕の家の鉱山から取れるエスタリドの宝石まで取り扱うようになったから、アンガレッド家の繁栄はとどまることを知らない。
いやぁ、モーリス様って商売上手だね。妻(僕の場合は夫か?)の僕も鼻が高いよ。
そんなことを考えていたら、メリアスがニッコリ微笑んだ。
「いえ。まだお屋敷にいらっしゃいます。今は食後の紅茶を飲んでいると思います」
「!」
モーリス様がまだ家に居る! ならば、是非お会いしたい!
この頃の僕は、すっかりモーリス様に夢中になっていた。だって、話せば話すほどモーリス様って優しいんだもん。こんなの大好きになっちゃうよ。
一目でもモーリス様に会えるチャンスがあるのなら、それを逃したくない。
「じゃあすぐに食堂に行く!」
僕の言葉に、メリアスはニコニコと微笑んだ。
「そうですか。モーリス様もお喜びになると思いますよ」
「うん!」
僕は嬉しくて満遍の笑みを浮かべたのだった。
※※※※
「おはようございます! 旦那様!」
食堂で新聞を読みながら紅茶を飲んでいるモーリス様を見つけた僕は、はやる気持ちを抑え、速歩きで近付いた。
モーリス様は僕を見てニッコリ微笑む。
「おはようセルビット。今日も元気だね」
「はい。モーリス様はこれからお仕事ですか?」
「あぁ。もうすぐ出かけるよ。その前に、可愛いセルビットの顔が見れて嬉しいよ」
キュンと胸が高鳴った僕は、モーリス様にギュッと抱き付いた。
「僕もモーリス様の顔が見れて嬉しい~~」
そこでハッとした。
まずい。メイドたちの目の前でこんな立ち振る舞いをしたら下品だったかな。
これだから貧乏貴族はマナーがなってないんだよな!
などと憤慨しながら、慌ててモーリス様から離れる。
「失礼しました」
だが、モーリス様は特に気分を害した様子もなく、ニコニコしている。
「ふふ……。いいのだよ。貴族のマナーなど、堅苦しいことはなしにしよう。私はセルビットにはのびのびと過ごしてほしいのだよ」
「……。じゃあ、ぎゅうぎゅうしても怒らない?」
「もちろんさ。それどころか、嬉しくて舞い上がってしまうよ」
「……!」
僕の表情がぱあっと明るくなった。
モーリス様、本当優しい! 大好き!
モーリス様のお許しが出たので、そのあとも僕はモーリス様にぎゅうぎゅう抱き付いて甘えまくったのだった。
※※※※
モーリス様が商会に向かうのを見送った僕は、遅い朝食を食べていた。
うーーん……。
モーリス様、いつも通り優しかったな。
僕に怒っているようではなかった。じゃあ、なんで昨夜抱いてくれなかったんだろう?
パンを咀嚼しながら考える。
――もしかして、昨日は疲れていたのかな?
結婚式だけでも疲れるのに、モーリス様は挨拶にくるゲストにも丁寧に対応していた。ちなみに僕はただニヤニヤ笑っているだけだった。だって僕ってあまり頭が良くないから。出しゃばってバカなのがバレるより、黙っていた方が皆さんの印象が良いとお父様にも言われていたのだ。
僕が黙っているので、モーリス様の負担は二倍だったろう。それなら初夜に寝てしまうほど疲れるはずだ。
うんうん。ならば、仕方がなかったんだな。
昨夜のことは無かったことにしよう。
じゃあ……、今晩こそは手を出してくれるかな。
モーリス様はどんな夜の顔をしているのだろう?
普段は温厚だけど、意外と激しかったりして!
「大歓迎です! そんなモーリス様も大好きです!」
ギャアギャアはしゃぐ僕を、メイドたちは不思議そうな表情で眺めていた。
とにかく今夜だ!
今夜キメる! 今晩僕は、モーリス様と一つになるんだ!
そんな決意をしながら、僕は鼻息荒く意気込んだのだった。
このときの僕は知らない。
モーリス様が、その夜も抱いてくれなかったことを。
そして、その状態が一週間続くことも。
小鳥のさえずる爽やかな朝。
僕は自分のいびきで目を覚ました。
ハッとして起き上がり、隣を見つめる。
だが、隣に眠っていたはずのモーリス様はもう起床したようで、ベッドが冷たくなっていた。
僕は昨晩のことを思い出し、頭を抱える。
えーーー? なんでモーリス様は僕を抱いてくれなかったんだろう? 僕、なにかモーリス様の気に障るようなことしたかなぁ?
考えてみたが、思い当たるふしはない。
い、いや……。僕は元貧乏貴族だ。マナーの勉強はしたつもりだが、本物の貴族様には敵わない。
知らず知らずのうちにモーリス様を不快にさせる行動を取っていたかもしれない。
「うわー! どうしよう……!」
僕がぐしゃぐしゃと頭を掻きむしっていたら、ドアがコンコンとノックされる音が聞こえた。
続いて、丸顔のメイドが控えめにドアを開ける。
「セルビット様、おはようございます」
「!」
あ、この娘は確か、僕の世話係のメリアスだ! 昨日モーリス様に紹介してもらったのを覚えてる!
「おはよう。メリアス」
僕は先ほどの動揺を隠すように、優雅に微笑んだ。
「朝の準備をお手伝いしてもよろしいでしょうか?」
「うん。お願いします」
顔を洗ったり服の着替えを手伝ってもらう。靴下を履かせてもらっているときに、僕はメリアスに質問する。
「モーリス様はもうお仕事行っちゃったの?」
モーリス様は、衣料品の商会を営んでいる。他国から上質な衣類を輸入して、国内の貴族に買ってもらうんだって。モーリス様が販売する衣類は手触りがよく、華やかで丈夫らしい。だから上位貴族のほとんどがモーリス様の商会を利用している。
それだけでも凄いのに、この度僕の家の鉱山から取れるエスタリドの宝石まで取り扱うようになったから、アンガレッド家の繁栄はとどまることを知らない。
いやぁ、モーリス様って商売上手だね。妻(僕の場合は夫か?)の僕も鼻が高いよ。
そんなことを考えていたら、メリアスがニッコリ微笑んだ。
「いえ。まだお屋敷にいらっしゃいます。今は食後の紅茶を飲んでいると思います」
「!」
モーリス様がまだ家に居る! ならば、是非お会いしたい!
この頃の僕は、すっかりモーリス様に夢中になっていた。だって、話せば話すほどモーリス様って優しいんだもん。こんなの大好きになっちゃうよ。
一目でもモーリス様に会えるチャンスがあるのなら、それを逃したくない。
「じゃあすぐに食堂に行く!」
僕の言葉に、メリアスはニコニコと微笑んだ。
「そうですか。モーリス様もお喜びになると思いますよ」
「うん!」
僕は嬉しくて満遍の笑みを浮かべたのだった。
※※※※
「おはようございます! 旦那様!」
食堂で新聞を読みながら紅茶を飲んでいるモーリス様を見つけた僕は、はやる気持ちを抑え、速歩きで近付いた。
モーリス様は僕を見てニッコリ微笑む。
「おはようセルビット。今日も元気だね」
「はい。モーリス様はこれからお仕事ですか?」
「あぁ。もうすぐ出かけるよ。その前に、可愛いセルビットの顔が見れて嬉しいよ」
キュンと胸が高鳴った僕は、モーリス様にギュッと抱き付いた。
「僕もモーリス様の顔が見れて嬉しい~~」
そこでハッとした。
まずい。メイドたちの目の前でこんな立ち振る舞いをしたら下品だったかな。
これだから貧乏貴族はマナーがなってないんだよな!
などと憤慨しながら、慌ててモーリス様から離れる。
「失礼しました」
だが、モーリス様は特に気分を害した様子もなく、ニコニコしている。
「ふふ……。いいのだよ。貴族のマナーなど、堅苦しいことはなしにしよう。私はセルビットにはのびのびと過ごしてほしいのだよ」
「……。じゃあ、ぎゅうぎゅうしても怒らない?」
「もちろんさ。それどころか、嬉しくて舞い上がってしまうよ」
「……!」
僕の表情がぱあっと明るくなった。
モーリス様、本当優しい! 大好き!
モーリス様のお許しが出たので、そのあとも僕はモーリス様にぎゅうぎゅう抱き付いて甘えまくったのだった。
※※※※
モーリス様が商会に向かうのを見送った僕は、遅い朝食を食べていた。
うーーん……。
モーリス様、いつも通り優しかったな。
僕に怒っているようではなかった。じゃあ、なんで昨夜抱いてくれなかったんだろう?
パンを咀嚼しながら考える。
――もしかして、昨日は疲れていたのかな?
結婚式だけでも疲れるのに、モーリス様は挨拶にくるゲストにも丁寧に対応していた。ちなみに僕はただニヤニヤ笑っているだけだった。だって僕ってあまり頭が良くないから。出しゃばってバカなのがバレるより、黙っていた方が皆さんの印象が良いとお父様にも言われていたのだ。
僕が黙っているので、モーリス様の負担は二倍だったろう。それなら初夜に寝てしまうほど疲れるはずだ。
うんうん。ならば、仕方がなかったんだな。
昨夜のことは無かったことにしよう。
じゃあ……、今晩こそは手を出してくれるかな。
モーリス様はどんな夜の顔をしているのだろう?
普段は温厚だけど、意外と激しかったりして!
「大歓迎です! そんなモーリス様も大好きです!」
ギャアギャアはしゃぐ僕を、メイドたちは不思議そうな表情で眺めていた。
とにかく今夜だ!
今夜キメる! 今晩僕は、モーリス様と一つになるんだ!
そんな決意をしながら、僕は鼻息荒く意気込んだのだった。
このときの僕は知らない。
モーリス様が、その夜も抱いてくれなかったことを。
そして、その状態が一週間続くことも。
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