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第三話 あれぇ? おかしいなぁ?
うーーん……。
おかしい。おかしいぞ?
アンガレッド邸で過ごすようになり、かれこれ一週間が経っていた。
メイドやバトラーとの関係は良好だ。特に世話係のメリアスとは気軽にお喋りが出来るくらい仲良くなった。
メリアスもモーリス様と同じで、穏やかな空気をまとっているので話しやすいのだ。
と、言うかお屋敷の人全体が穏やかな空気をまとっている。きっと、モーリス様が優しいからストレスなく伸び伸びと仕事が出来るのが理由だろう。
だが、やるべきことはきちんとやる。ベッドシーツはいつもシワ一つないし、フォークやスプーンはピカピカに磨かれているし、食事も趣向を凝らした美味しい料理が提供される。
やっぱり公爵家の使用人になるくらいだから、みんな優秀なんだね。
……と、話がそれた。
使用人自慢はこれくらいにして、僕の話に戻そう。
僕は最近モヤモヤしていた。
原因は、モーリス様だ。モーリス様は、僕がお屋敷に来てから一週間も経つのに、まだ一度も抱いてくれたことがないのだ!
そんなことがあるのだろうか?
普通結婚したら、その日に肉体関係を結ぶんじゃないの?
もしかして僕、モーリス様に愛されてない?
愛してないから身体に触れたくないのだろうか?
だけど、普段のモーリス様はそんな素振りを見せない。いつもニコニコ笑ってくれて、僕が喜ぶような優しい言葉をかけてくれる。
それなのにどうして抱いてくれないの!?
直接モーリス様に聞いてみようか?
でも、そんなこと聞いたら下品じゃないかな?
『コイツ……。なに一人で欲情してんだよ。貧乏貴族はこれだから……』と呆れられたら生きてゆけない!
いや、それも嫌だけど、あの優しい笑みを浮かべながら、『好きじゃないから抱かないだけだよ』とか言われたら、僕はショックで死んでしまう!
そんなわけで、僕はモーリス様の反応が怖くてなぜ抱いてくれないのか理由を聞けなかったのである。
今も僕とモーリス様はほのぼのと朝食を食べているが、それは上辺だけで僕の心には嵐が吹き荒れてていたのだった。
なぜ? なぜ抱いてくれないのですか!? と叫びだしそうになった僕は、パンをハクハグ食べ続けることでなんとか平静を保っていた。
すると、優雅にティーカップに口を付けていたモーリス様が、こちらを見てニコリと微笑んだ。
「セルビット。今日はピクニックにでも行こうか?」
「え? モーリス様、お仕事は?」
「ふふ……。実は今日は休みなのだよ」
「!」
僕は先ほどの悩みなど吹っ飛んで、椅子から立ち上がった。モーリス様のところまで歩いてゆき、嬉しさのあまりぎゅうぎゅう抱き付く。
あー……我ながら下品だなぁ。食事中に立ち上がるなよ……と思うのだが、身体が勝手に動いてしまうのだ。
「行く! 行きます! モーリス様とピクニック行きたいです!」
ギャアギャアはしゃぐ僕に、モーリス様は優しく微笑む。
「良かった。では、準備をしようね」
「うん! やったー!! モーリス様とお出かけ出来る! 嬉しいー!」
喜びが溢れて大興奮した僕は、座っているモーリス様の美しい頭にグリグリと頰を擦り付けた。
お前は犬か!! 本当、マナーもへったくれもないな……。
だが、モーリス様はそんな僕を諌めることもなく、ニコニコと微笑み続けたのだった。
※※※※
ピクニックは午後から行くことになった。
場所はアンガレッド邸の近くにある湖だ。
僕は外出着に着替えるため、一度部屋に戻った。
メリアスに着替えを手伝ってもらいながらはしゃぐ。
「メリアス! 聞いて聞いて! モーリス様と近くの湖にピクニックに行くんだ!」
「それは良かったですね」
「うん! 楽しみー!!」
モーリス様と今日はずうっと一緒にいられる! 僕はかなり浮かれていた。デヘデヘと気持ち悪いくらいに笑う僕を見て、メリアスも嬉しそうだ。
「セルビット様が来てから、モーリス様は毎日楽しそうです。本当に良かった」
「え? 僕がくる前はどうだったの?」
僕の何気ない質問に、メリアスは困ったように微笑んだ。
「モーリス様は、寂しそうでした。いつも沈んだお顔をなさっていて……。きっと、前の奥様のことが忘れられなかったのですね。お二人はとても愛し合っていたので」
「え?」
僕は言葉を失った。
前の奥様って、確かモーリス様を裏切って浮気したんだよね? それで二人は離婚したって聞いてたんだけど……。
二人は仲が良かったんだ……。
それなのに浮気されて、モーリス様は辛かったろうな……。
モーリス様は、もう奥様のことは吹っ切れたのかな? 僕と結婚したのなら、吹っ切れたはずだ。
「……」
本当に、そうなのかな?
もしまだ愛していたとしたら、僕は鬱陶しいだろうな……。好きでもないのにベタベタされて。
そこで僕はハッとした。
もしかして、前の奥様が忘れられないから僕のことを抱いてくれないのかもしれない。
そう考えると、血の気が引いた。
立っていられなくなって、しょんぼりしながらソファに倒れ込む。
すると、それを見ていたメリアスが『しまった! 口を滑らせてしまった!』と言う顔をした。
「セルビット様。でも、今モーリス様はセルビット様に夢中なのでお気を落とさないで下さいませ!」
「そうかなぁ……」
「そうです! モーリス様のお顔を見れば分かります! いつもニコニコしてらっしゃるでしょう? 前はあまり笑わなかったのですよ!?」
「……」
モーリス様は優しいから、僕に気を遣って無理に微笑んでいるかもしれないじゃないか……。
結局、モーリス様の心の中は、本人以外誰にも分からないのだ。
あーあ。僕に人の心を読む能力があったら良かったのに……。
しゅんとうなだれる僕を見て、メリアスはそれはもう慌てた。一生懸命僕が来てからどれだけモーリス様が幸せそうなのかを伝える。
あまりに必死なので、落ち込んでいたら申し訳ないような気持ちになってきた。
僕はわざと元気よく声を張り上げる。
「そうだよね! モーリス様は、今は僕に夢中だ!」
僕の言葉に、メリアスはホッと胸を撫で下ろしたようだった。
「そうです! 変なことを言って申し訳ございませんでした」
「ううん。気にしないで。じゃあモーリス様が待ってるから行くね」
「はい。行ってらっしゃいませ」
メリアスが深々と頭を下げたので、僕はニッコリ微笑み元気よく部屋を出たのであった。
おかしい。おかしいぞ?
アンガレッド邸で過ごすようになり、かれこれ一週間が経っていた。
メイドやバトラーとの関係は良好だ。特に世話係のメリアスとは気軽にお喋りが出来るくらい仲良くなった。
メリアスもモーリス様と同じで、穏やかな空気をまとっているので話しやすいのだ。
と、言うかお屋敷の人全体が穏やかな空気をまとっている。きっと、モーリス様が優しいからストレスなく伸び伸びと仕事が出来るのが理由だろう。
だが、やるべきことはきちんとやる。ベッドシーツはいつもシワ一つないし、フォークやスプーンはピカピカに磨かれているし、食事も趣向を凝らした美味しい料理が提供される。
やっぱり公爵家の使用人になるくらいだから、みんな優秀なんだね。
……と、話がそれた。
使用人自慢はこれくらいにして、僕の話に戻そう。
僕は最近モヤモヤしていた。
原因は、モーリス様だ。モーリス様は、僕がお屋敷に来てから一週間も経つのに、まだ一度も抱いてくれたことがないのだ!
そんなことがあるのだろうか?
普通結婚したら、その日に肉体関係を結ぶんじゃないの?
もしかして僕、モーリス様に愛されてない?
愛してないから身体に触れたくないのだろうか?
だけど、普段のモーリス様はそんな素振りを見せない。いつもニコニコ笑ってくれて、僕が喜ぶような優しい言葉をかけてくれる。
それなのにどうして抱いてくれないの!?
直接モーリス様に聞いてみようか?
でも、そんなこと聞いたら下品じゃないかな?
『コイツ……。なに一人で欲情してんだよ。貧乏貴族はこれだから……』と呆れられたら生きてゆけない!
いや、それも嫌だけど、あの優しい笑みを浮かべながら、『好きじゃないから抱かないだけだよ』とか言われたら、僕はショックで死んでしまう!
そんなわけで、僕はモーリス様の反応が怖くてなぜ抱いてくれないのか理由を聞けなかったのである。
今も僕とモーリス様はほのぼのと朝食を食べているが、それは上辺だけで僕の心には嵐が吹き荒れてていたのだった。
なぜ? なぜ抱いてくれないのですか!? と叫びだしそうになった僕は、パンをハクハグ食べ続けることでなんとか平静を保っていた。
すると、優雅にティーカップに口を付けていたモーリス様が、こちらを見てニコリと微笑んだ。
「セルビット。今日はピクニックにでも行こうか?」
「え? モーリス様、お仕事は?」
「ふふ……。実は今日は休みなのだよ」
「!」
僕は先ほどの悩みなど吹っ飛んで、椅子から立ち上がった。モーリス様のところまで歩いてゆき、嬉しさのあまりぎゅうぎゅう抱き付く。
あー……我ながら下品だなぁ。食事中に立ち上がるなよ……と思うのだが、身体が勝手に動いてしまうのだ。
「行く! 行きます! モーリス様とピクニック行きたいです!」
ギャアギャアはしゃぐ僕に、モーリス様は優しく微笑む。
「良かった。では、準備をしようね」
「うん! やったー!! モーリス様とお出かけ出来る! 嬉しいー!」
喜びが溢れて大興奮した僕は、座っているモーリス様の美しい頭にグリグリと頰を擦り付けた。
お前は犬か!! 本当、マナーもへったくれもないな……。
だが、モーリス様はそんな僕を諌めることもなく、ニコニコと微笑み続けたのだった。
※※※※
ピクニックは午後から行くことになった。
場所はアンガレッド邸の近くにある湖だ。
僕は外出着に着替えるため、一度部屋に戻った。
メリアスに着替えを手伝ってもらいながらはしゃぐ。
「メリアス! 聞いて聞いて! モーリス様と近くの湖にピクニックに行くんだ!」
「それは良かったですね」
「うん! 楽しみー!!」
モーリス様と今日はずうっと一緒にいられる! 僕はかなり浮かれていた。デヘデヘと気持ち悪いくらいに笑う僕を見て、メリアスも嬉しそうだ。
「セルビット様が来てから、モーリス様は毎日楽しそうです。本当に良かった」
「え? 僕がくる前はどうだったの?」
僕の何気ない質問に、メリアスは困ったように微笑んだ。
「モーリス様は、寂しそうでした。いつも沈んだお顔をなさっていて……。きっと、前の奥様のことが忘れられなかったのですね。お二人はとても愛し合っていたので」
「え?」
僕は言葉を失った。
前の奥様って、確かモーリス様を裏切って浮気したんだよね? それで二人は離婚したって聞いてたんだけど……。
二人は仲が良かったんだ……。
それなのに浮気されて、モーリス様は辛かったろうな……。
モーリス様は、もう奥様のことは吹っ切れたのかな? 僕と結婚したのなら、吹っ切れたはずだ。
「……」
本当に、そうなのかな?
もしまだ愛していたとしたら、僕は鬱陶しいだろうな……。好きでもないのにベタベタされて。
そこで僕はハッとした。
もしかして、前の奥様が忘れられないから僕のことを抱いてくれないのかもしれない。
そう考えると、血の気が引いた。
立っていられなくなって、しょんぼりしながらソファに倒れ込む。
すると、それを見ていたメリアスが『しまった! 口を滑らせてしまった!』と言う顔をした。
「セルビット様。でも、今モーリス様はセルビット様に夢中なのでお気を落とさないで下さいませ!」
「そうかなぁ……」
「そうです! モーリス様のお顔を見れば分かります! いつもニコニコしてらっしゃるでしょう? 前はあまり笑わなかったのですよ!?」
「……」
モーリス様は優しいから、僕に気を遣って無理に微笑んでいるかもしれないじゃないか……。
結局、モーリス様の心の中は、本人以外誰にも分からないのだ。
あーあ。僕に人の心を読む能力があったら良かったのに……。
しゅんとうなだれる僕を見て、メリアスはそれはもう慌てた。一生懸命僕が来てからどれだけモーリス様が幸せそうなのかを伝える。
あまりに必死なので、落ち込んでいたら申し訳ないような気持ちになってきた。
僕はわざと元気よく声を張り上げる。
「そうだよね! モーリス様は、今は僕に夢中だ!」
僕の言葉に、メリアスはホッと胸を撫で下ろしたようだった。
「そうです! 変なことを言って申し訳ございませんでした」
「ううん。気にしないで。じゃあモーリス様が待ってるから行くね」
「はい。行ってらっしゃいませ」
メリアスが深々と頭を下げたので、僕はニッコリ微笑み元気よく部屋を出たのであった。
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