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16、距離の温度
白い光が、カーテン越しに差し込んでいた。
窓辺には薬草の束。
部屋の空気は清浄で、静かだ。
エリオットは寝台に起き上がっていた。
体調はまだ万全ではないが、頭の霧は晴れ、言葉もきちんと出るようになっていた。
(でも、なんだか……体の芯が、冷たい)
それは、毒のせいなのか。
それとも、心に刺さった何かが、まだ抜けていないからなのか。
そんなことを考えていたときだった。
控えめなノックの音。
「エリオット様……陛下がいらっしゃいました」
リディアの声がして、扉が開いた。
「入っても、いいか」
低く穏やかな声。
エリオットは頷いた。
「……はい」
入ってきたシグルドは、普段と変わらぬ落ち着いた表情をしていた。
けれど、その目には何か、掴み切れない影のようなものが揺れていた。
「容態は……?」
「もう、落ち着いてます。薬も、効いてるみたいで」
シグルドは頷き、寝台の傍に置かれた椅子に腰を下ろした。
ひと呼吸、間があって——
「……すまなかった」
エリオットは驚いたように目を上げた。
「陛下?」
「私が、君の傍にいなかった。視察を望んだ君を、止めなかった。その結果、君は……危険に晒された」
その声には、怒りでも悲しみでもなく、ただ深く静かな自責があった。
エリオットは首を振った。
「違います。僕が、見たいって……自分で決めたことです」
「だとしても、守れなかった事実は、変わらない」
そう言って、シグルドはエリオットの手を取った。
その手は、まだ少し冷えていた。
でも、震えてはいなかった。
指先が、そっと甲に触れる。
そこには、薄く残る“誓いの文様”。
「……“ノルド”という男が現れた時、私は……何とも言えない感情になった」
「……っ」
エリオットの胸が、わずかにざわめいた。
「彼のこと、どこまで知ってる?」
問いではなかった。
でも、その声には、確かな問いが含まれていた。
エリオットは目を伏せる。
「……わからないんです。でも、彼に会ったとき、何か……懐かしいような、怖いような、そんな感じがしました」
「“以前”の記憶か?」
「わかりません。でも、たしかに……昔、僕が誰かに、あんな風に触れられたことがあったような……」
言葉が途切れる。
そのとき、シグルドの指が、再びエリオットの手を優しく包んだ。
そして、そっと頬に触れる。
熱の名残を探すように、丁寧に。
「……それでも、君は今、ここにいる。
過去のどんな記憶よりも、私は——今の君を見ている」
エリオットの目が、わずかに潤んだ。
そして、その静けさの中で——
「……僕は、陛下に会えて、よかったと思っています」
それは告白ではなかった。
けれど、それは確かに、“今”の心だった。
シグルドは小さく息を飲み、ゆっくりと手を頬から額へと滑らせ、
そこにそっと、口づけを落とした。
唇が触れたのは、額。
けれど、どこまでも深く、静かな想いがそこに宿っていた。
「……本当に、よかった。生きていてくれて」
エリオットは小さく微笑み、まぶたを閉じた。
その一瞬の距離の温度が、心の奥にまで染みこんでいた。
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📅 毎日2回(7:30&22:30頃)更新予定!
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窓辺には薬草の束。
部屋の空気は清浄で、静かだ。
エリオットは寝台に起き上がっていた。
体調はまだ万全ではないが、頭の霧は晴れ、言葉もきちんと出るようになっていた。
(でも、なんだか……体の芯が、冷たい)
それは、毒のせいなのか。
それとも、心に刺さった何かが、まだ抜けていないからなのか。
そんなことを考えていたときだった。
控えめなノックの音。
「エリオット様……陛下がいらっしゃいました」
リディアの声がして、扉が開いた。
「入っても、いいか」
低く穏やかな声。
エリオットは頷いた。
「……はい」
入ってきたシグルドは、普段と変わらぬ落ち着いた表情をしていた。
けれど、その目には何か、掴み切れない影のようなものが揺れていた。
「容態は……?」
「もう、落ち着いてます。薬も、効いてるみたいで」
シグルドは頷き、寝台の傍に置かれた椅子に腰を下ろした。
ひと呼吸、間があって——
「……すまなかった」
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「陛下?」
「私が、君の傍にいなかった。視察を望んだ君を、止めなかった。その結果、君は……危険に晒された」
その声には、怒りでも悲しみでもなく、ただ深く静かな自責があった。
エリオットは首を振った。
「違います。僕が、見たいって……自分で決めたことです」
「だとしても、守れなかった事実は、変わらない」
そう言って、シグルドはエリオットの手を取った。
その手は、まだ少し冷えていた。
でも、震えてはいなかった。
指先が、そっと甲に触れる。
そこには、薄く残る“誓いの文様”。
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「……っ」
エリオットの胸が、わずかにざわめいた。
「彼のこと、どこまで知ってる?」
問いではなかった。
でも、その声には、確かな問いが含まれていた。
エリオットは目を伏せる。
「……わからないんです。でも、彼に会ったとき、何か……懐かしいような、怖いような、そんな感じがしました」
「“以前”の記憶か?」
「わかりません。でも、たしかに……昔、僕が誰かに、あんな風に触れられたことがあったような……」
言葉が途切れる。
そのとき、シグルドの指が、再びエリオットの手を優しく包んだ。
そして、そっと頬に触れる。
熱の名残を探すように、丁寧に。
「……それでも、君は今、ここにいる。
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エリオットの目が、わずかに潤んだ。
そして、その静けさの中で——
「……僕は、陛下に会えて、よかったと思っています」
それは告白ではなかった。
けれど、それは確かに、“今”の心だった。
シグルドは小さく息を飲み、ゆっくりと手を頬から額へと滑らせ、
そこにそっと、口づけを落とした。
唇が触れたのは、額。
けれど、どこまでも深く、静かな想いがそこに宿っていた。
「……本当に、よかった。生きていてくれて」
エリオットは小さく微笑み、まぶたを閉じた。
その一瞬の距離の温度が、心の奥にまで染みこんでいた。
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感想 1
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