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終章 未来の光
季節は春。
柔らかな陽が差し込む王都の外れ、小高い丘の上にある離宮。
そこは、政務を離れた皇帝夫妻が時折静かに過ごすための場所であり、もうひとつの家でもあった。
庭には白い花が咲き乱れ、小さな足音が草をかき分けて駆けていく。
「おとーさまー!こっち、こっちー!」
走っているのは、小さな少年。
まだ四つか五つくらいの、ふわふわのアッシュグレイの髪をを持った子どもだった。
「転ばないようにね」
後ろからついてくるのは、緩やかに笑うエリオット。
シグルドの手を取って歩いていた。
「……本当に、よく育ったな。お前に似て、よく喋る」
「僕、そんなに喋りますかね……?性格はあなたに似てますよ。甘えたなのに、やたら頑固で……」
シグルドが小さく笑い、首を振る。
「君がそばにいてくれるから、あの子はまっすぐに育っている。それでいい」
「……それはシグルドも一緒に育ててくれるからですよ」
そんな会話をしていたときだった。
庭の奥、いつもの場所に、ひとつの包みが置かれていた。
子どもが目ざとく見つけ、駆け寄る。
「あ!また来てた!」
エリオットがそれを見て、ふっと目を細めた。
包みは簡素な布にくるまれていて、名前もなにも書かれていない。
けれど、中には決まって——小さなおもちゃが入っている。
手のひらにちょうど乗るような、動物だったり、竜だったり。
不思議と子どもの好みにぴったりで、渡すたびに目を輝かせる。
「……また“彼”が来たんですね」
シグルドは何も言わず、ただエリオットの背に手を添えた。
「この子が生まれてすぐくらいからだね。あの人が、時々こうして……」
「……そうだな」
ノルド・グレイ。
今は爵位も地位も持たず、どこか遠くに身を置いているらしい男。
けれど、春の訪れとともに、こうして音もなくやってくるのだ。
何も言わず、ただ残して去る。
一度も会うことはない。
けれど、庭に立ち、遠くから子どもの笑い声を見送っている姿を、エリオットは一度だけ見た気がした。
「……“彼”の気持ち、わかる気がします」
「私もだ。……君が赦したように、私も、もうとっくに赦している」
「ええ。だって……この子は、幸せですから」
遠くから届いた光のように、小さな手が、木彫りの竜を空へかざした。
「おかーさま!りゅー!また、りゅーが来たよ!」
笑顔がまぶしかった。
その声が、過去のどんな痛みよりも確かに“今”を照らしている。
シグルドとエリオットは、そっと目を合わせて微笑んだ。
もう終わった物語の、けれど終わらない絆の、静かな証。
春風が吹いた。
その中で、黒衣の影が遠ざかっていくのを、誰も追いはしなかった。
——過去は風に溶けていく。
けれど、未来はこの手の中にある。
「さあ、家に帰ろう。みんなが待ってる」
「うんっ!」
手を伸ばせば、確かにそこに“家族”がいた。
──終──
柔らかな陽が差し込む王都の外れ、小高い丘の上にある離宮。
そこは、政務を離れた皇帝夫妻が時折静かに過ごすための場所であり、もうひとつの家でもあった。
庭には白い花が咲き乱れ、小さな足音が草をかき分けて駆けていく。
「おとーさまー!こっち、こっちー!」
走っているのは、小さな少年。
まだ四つか五つくらいの、ふわふわのアッシュグレイの髪をを持った子どもだった。
「転ばないようにね」
後ろからついてくるのは、緩やかに笑うエリオット。
シグルドの手を取って歩いていた。
「……本当に、よく育ったな。お前に似て、よく喋る」
「僕、そんなに喋りますかね……?性格はあなたに似てますよ。甘えたなのに、やたら頑固で……」
シグルドが小さく笑い、首を振る。
「君がそばにいてくれるから、あの子はまっすぐに育っている。それでいい」
「……それはシグルドも一緒に育ててくれるからですよ」
そんな会話をしていたときだった。
庭の奥、いつもの場所に、ひとつの包みが置かれていた。
子どもが目ざとく見つけ、駆け寄る。
「あ!また来てた!」
エリオットがそれを見て、ふっと目を細めた。
包みは簡素な布にくるまれていて、名前もなにも書かれていない。
けれど、中には決まって——小さなおもちゃが入っている。
手のひらにちょうど乗るような、動物だったり、竜だったり。
不思議と子どもの好みにぴったりで、渡すたびに目を輝かせる。
「……また“彼”が来たんですね」
シグルドは何も言わず、ただエリオットの背に手を添えた。
「この子が生まれてすぐくらいからだね。あの人が、時々こうして……」
「……そうだな」
ノルド・グレイ。
今は爵位も地位も持たず、どこか遠くに身を置いているらしい男。
けれど、春の訪れとともに、こうして音もなくやってくるのだ。
何も言わず、ただ残して去る。
一度も会うことはない。
けれど、庭に立ち、遠くから子どもの笑い声を見送っている姿を、エリオットは一度だけ見た気がした。
「……“彼”の気持ち、わかる気がします」
「私もだ。……君が赦したように、私も、もうとっくに赦している」
「ええ。だって……この子は、幸せですから」
遠くから届いた光のように、小さな手が、木彫りの竜を空へかざした。
「おかーさま!りゅー!また、りゅーが来たよ!」
笑顔がまぶしかった。
その声が、過去のどんな痛みよりも確かに“今”を照らしている。
シグルドとエリオットは、そっと目を合わせて微笑んだ。
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春風が吹いた。
その中で、黒衣の影が遠ざかっていくのを、誰も追いはしなかった。
——過去は風に溶けていく。
けれど、未来はこの手の中にある。
「さあ、家に帰ろう。みんなが待ってる」
「うんっ!」
手を伸ばせば、確かにそこに“家族”がいた。
──終──
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