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第1章
第四話
翌日の昼休み、蛍は一人で中庭のベンチに座っていた。
健吾のことばかり考えていて、友達の話にも上の空だった。
「蛍くーん」
後ろから智也の声がした。
「なに?」
「最近、ぼーっとしてない? 恋でもしてるの?」
智也の冗談めいた言葉に、蛍は慌てて首を振る。
「そんなわけないでしょ」
「ふーん。まあ、蛍がそういうの興味なさそうなのは分かるけど」
「そういうのって?」
「恋愛とか」
智也は当たり前のように言った。蛍は少し驚く。
「なんで?」
「だって、蛍って誰にでも優しいし、仲のいい女子も多いけど、特別扱いする人いないじゃん」
蛍は智也の言葉を聞きながら、自分でも気づかなかった一面に気づかされた。
確かに、健吾以外に特別な感情を抱いたことはない。
でも、健吾に対してだけは、胸が苦しくなるほど特別だった。
「でも最近、何か変わった気がする」
「そう?」
「うん。なんていうか、恋してる顔」
智也がにやりと笑う。
蛍は頬が熱くなるのを感じた。
そんなに分かりやすいのだろうか。
その時、中庭の向こうから健吾が歩いてくるのが見えた。
蛍の心臓が跳ね上がる。
健吾は職員室に向かう途中なのか、蛍に気づいて手を振ってくれた。
蛍も手を振り返すが、胸がドキドキして仕方ない。
健吾の姿が見えなくなっても、まだ動悸が止まらない。
「あー、やっぱり」
智也が呆れたような声を出した。
「何が?」
「芦原先生でしょ? 今の反応、分かりやすすぎ」
蛍は何も言えなかった。智也の指摘は的確だった。
「でも大丈夫? 先生でしょ? まあ、期間限定の先生だから立場はいいのかもしれないけど」
「分かってる」
「分かってるって......蛍、本気なの?」
本気。
そう、これは本気だった。
健吾への想いは、日を追うごとに強くなっていく。
校内で健吾の姿を見つけるだけで胸が締まり、健吾が他の生徒と話しているのを見ると嫉妬してしまう。
こんな感情を抱いたのは初めてだった。
「本気だよ」
蛍は小さく呟いた。
智也は心配そうな表情を見せたが、それ以上は何も言わなかった。
翌日の授業で、健吾は生徒たちにプリントを配っていた。
蛍の机の前に来た時、健吾が小さく微笑んでくれる。
それだけで蛍の心は舞い上がった。
授業が終わると、健吾は教室の前で質問を受け付けていた。
蛍は机に座ったまま、健吾の周りに集まる生徒たちを見ていた。
特に女子生徒たちが積極的で、授業とは関係のない質問まで飛び出している。
「芦原先生って彼女いるんですか?」
クラスメイトの女子が恥ずかしそうに聞いた。健吾は苦笑いを浮かべる。
「そういう質問は控えてもらえるかな」
「えー、気になります」
「勉強の質問なら答えるけど」
健吾の困った表情を見ながら、蛍は胸の奥がざわついた。
嫉妬だった。
健吾に群がる女子生徒たちが羨ましくて仕方ない。自分も堂々と健吾に話しかけたい。
でも、どうしても一歩が踏み出せなかった。
教室が空になると、健吾は荷物をまとめ始めた。
蛍はまだ席に座っている。
「蛍、質問ある?」
健吾が声をかけてくれた。蛍は慌てて首を振る。
「ううん、大丈夫」
「そっか」
健吾は少し寂しそうな表情を見せた。
それとも蛍の思い込みだろうか。
次の日、蛍は意を決して健吾に話しかけることにした。
放課後の職員室前で待ち伏せした。
「健ちゃん」
「蛍? どうしたの?」
「ちょっと聞きたいことがあって」
「何?」
蛍は一瞬迷ったが、思い切って口を開いた。
「健ちゃんは、将来の夢とか目標とかある?」
「急にどうしたの?」
「進路のこと考えてて……健ちゃんは先生になるの?」
それは嘘ではなかった。
でも本当は、健吾ともっと話していたかっただけだ。
「いや、俺は研究者になりたいと思ってる」
「研究者?」
「社会の仕組みを変えられるような研究がしたい」
健吾の目が輝いて見えた。
何かに真剣に取り組む健吾を見ていると、蛍の胸が熱くなる。
「すごいね」
「蛍はどう? 何か興味のあることは?」
「うーん、まだよく分からなくて」
「焦る必要はないよ。蛍なら、きっと自分の道を見つけられる」
健吾の励ましの言葉に、蛍は涙が出そうになった。
こんなに優しい人を好きになってしまった自分が、切なくて仕方ない。
「健ちゃん」
「ん?」
「もし俺が、健ちゃんと同じ大学に行けたら、また会える?」
健吾の表情が曇った。
「蛍……」
「俺、健ちゃんを困らせてる」
「いや、そうじゃない」
健吾は困ったような表情で立ち止まった。
「蛍が同じ大学に来てくれたら、もちろん嬉しいよ。でも……」
「でも?」
「蛍には蛍の人生がある。俺のことは気にしないで、自分の行きたい道を選んでほしい」
健吾の言葉は優しかったが、蛍には遠回しな拒絶のように聞こえた。
やっぱり自分は、健吾にとって特別な存在ではないのだ。
教育実習も残り数日となった。
蛍は毎日、健吾の姿を目に焼き付けようとしていた。
健吾が教壇に立つ姿、生徒たちに優しく接する姿、困った時に見せる苦笑い。
全部が愛おしくて、胸が苦しかった。
健吾のことばかり考えていて、友達の話にも上の空だった。
「蛍くーん」
後ろから智也の声がした。
「なに?」
「最近、ぼーっとしてない? 恋でもしてるの?」
智也の冗談めいた言葉に、蛍は慌てて首を振る。
「そんなわけないでしょ」
「ふーん。まあ、蛍がそういうの興味なさそうなのは分かるけど」
「そういうのって?」
「恋愛とか」
智也は当たり前のように言った。蛍は少し驚く。
「なんで?」
「だって、蛍って誰にでも優しいし、仲のいい女子も多いけど、特別扱いする人いないじゃん」
蛍は智也の言葉を聞きながら、自分でも気づかなかった一面に気づかされた。
確かに、健吾以外に特別な感情を抱いたことはない。
でも、健吾に対してだけは、胸が苦しくなるほど特別だった。
「でも最近、何か変わった気がする」
「そう?」
「うん。なんていうか、恋してる顔」
智也がにやりと笑う。
蛍は頬が熱くなるのを感じた。
そんなに分かりやすいのだろうか。
その時、中庭の向こうから健吾が歩いてくるのが見えた。
蛍の心臓が跳ね上がる。
健吾は職員室に向かう途中なのか、蛍に気づいて手を振ってくれた。
蛍も手を振り返すが、胸がドキドキして仕方ない。
健吾の姿が見えなくなっても、まだ動悸が止まらない。
「あー、やっぱり」
智也が呆れたような声を出した。
「何が?」
「芦原先生でしょ? 今の反応、分かりやすすぎ」
蛍は何も言えなかった。智也の指摘は的確だった。
「でも大丈夫? 先生でしょ? まあ、期間限定の先生だから立場はいいのかもしれないけど」
「分かってる」
「分かってるって......蛍、本気なの?」
本気。
そう、これは本気だった。
健吾への想いは、日を追うごとに強くなっていく。
校内で健吾の姿を見つけるだけで胸が締まり、健吾が他の生徒と話しているのを見ると嫉妬してしまう。
こんな感情を抱いたのは初めてだった。
「本気だよ」
蛍は小さく呟いた。
智也は心配そうな表情を見せたが、それ以上は何も言わなかった。
翌日の授業で、健吾は生徒たちにプリントを配っていた。
蛍の机の前に来た時、健吾が小さく微笑んでくれる。
それだけで蛍の心は舞い上がった。
授業が終わると、健吾は教室の前で質問を受け付けていた。
蛍は机に座ったまま、健吾の周りに集まる生徒たちを見ていた。
特に女子生徒たちが積極的で、授業とは関係のない質問まで飛び出している。
「芦原先生って彼女いるんですか?」
クラスメイトの女子が恥ずかしそうに聞いた。健吾は苦笑いを浮かべる。
「そういう質問は控えてもらえるかな」
「えー、気になります」
「勉強の質問なら答えるけど」
健吾の困った表情を見ながら、蛍は胸の奥がざわついた。
嫉妬だった。
健吾に群がる女子生徒たちが羨ましくて仕方ない。自分も堂々と健吾に話しかけたい。
でも、どうしても一歩が踏み出せなかった。
教室が空になると、健吾は荷物をまとめ始めた。
蛍はまだ席に座っている。
「蛍、質問ある?」
健吾が声をかけてくれた。蛍は慌てて首を振る。
「ううん、大丈夫」
「そっか」
健吾は少し寂しそうな表情を見せた。
それとも蛍の思い込みだろうか。
次の日、蛍は意を決して健吾に話しかけることにした。
放課後の職員室前で待ち伏せした。
「健ちゃん」
「蛍? どうしたの?」
「ちょっと聞きたいことがあって」
「何?」
蛍は一瞬迷ったが、思い切って口を開いた。
「健ちゃんは、将来の夢とか目標とかある?」
「急にどうしたの?」
「進路のこと考えてて……健ちゃんは先生になるの?」
それは嘘ではなかった。
でも本当は、健吾ともっと話していたかっただけだ。
「いや、俺は研究者になりたいと思ってる」
「研究者?」
「社会の仕組みを変えられるような研究がしたい」
健吾の目が輝いて見えた。
何かに真剣に取り組む健吾を見ていると、蛍の胸が熱くなる。
「すごいね」
「蛍はどう? 何か興味のあることは?」
「うーん、まだよく分からなくて」
「焦る必要はないよ。蛍なら、きっと自分の道を見つけられる」
健吾の励ましの言葉に、蛍は涙が出そうになった。
こんなに優しい人を好きになってしまった自分が、切なくて仕方ない。
「健ちゃん」
「ん?」
「もし俺が、健ちゃんと同じ大学に行けたら、また会える?」
健吾の表情が曇った。
「蛍……」
「俺、健ちゃんを困らせてる」
「いや、そうじゃない」
健吾は困ったような表情で立ち止まった。
「蛍が同じ大学に来てくれたら、もちろん嬉しいよ。でも……」
「でも?」
「蛍には蛍の人生がある。俺のことは気にしないで、自分の行きたい道を選んでほしい」
健吾の言葉は優しかったが、蛍には遠回しな拒絶のように聞こえた。
やっぱり自分は、健吾にとって特別な存在ではないのだ。
教育実習も残り数日となった。
蛍は毎日、健吾の姿を目に焼き付けようとしていた。
健吾が教壇に立つ姿、生徒たちに優しく接する姿、困った時に見せる苦笑い。
全部が愛おしくて、胸が苦しかった。
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