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第4章
第二話
五月の午後、学食のラウンジは穏やかな陽光に包まれていた。
窓際のテーブルで、三人はそれぞれの資料を広げて時間を潰している。
サークル活動まではまだ少し時間があった。
「問題は、全部のゼミの説明会に出られないことなんだよね」
智也が履修要項を指でなぞる。
「マーケティング戦略ゼミとベンチャー論ゼミが同じ時間帯なんだよ。どっちを優先するか迷う」
「別の時間で説明会ないの?」
蛍が尋ねると、智也は眉間にしわを寄せた。
「あるけど、そっちはそっちで別の気になるゼミと重なってるんだよな。経営学科は選択肢が多いようで意外と縛りがあって」
「わかる、私も悩んでる」
真帆がため息をつく。
「金融系ゼミの説明会は出ておきたいけど、成績的に厳しいから、マーケティング系か地域経済学の説明会にも出ておかないと」
蛍は自分のメモを見直した。
「俺の場合、ジェンダー経済学ゼミは説明会に出るとして、労働経済学と国際経済学のどっちの説明会に出るか」
「でも蛍の成績なら、第一希望で通るんじゃない?」
智也が言うと、蛍は首を振った。
「ジェンダー経済学ゼミ、意外と人気らしくて。研究室にいた先輩に聞いたんだけれど、去年も競争倍率高かったって」
「え、そうなの?」
真帆の目が丸くなる。
「うん。だから、第二第三希望もちゃんと考えておかないと。一次で落ちたら、二次の説明会は空きのあるゼミだけだから、選択肢が狭まるし」
「経済学科は大変だな」
智也が同情するように言う。
「経営学科もそれは同じだけど、母数が違うからまだマシかも」
「そういうこと。でも、安全策って言っても、みんなが安全策を取ったら、そこも競争になるよね」
蛍の指摘に、三人とも黙り込む。
「俺、結構現実主義だから就職のこと考えちゃうんだよね」
智也が視線を落としながら続ける。
「マーケティング戦略ゼミが一番就職に有利なのは分かってるんだけど、競争激しいし。でも面白そうなのはベンチャー・起業論ゼミなんだよな」
「でも智也なら、どこでも大丈夫そうじゃない?」
真帆が言うと、智也は小さく首を振る。
「そう簡単じゃないよ。彼女も就活のこと考えて堅実なゼミ選んでるし、俺だけ冒険するのもなあ」
真帆は別の種類の迷いを抱えている。
「私、どうしよう。マーケティング系は就職に有利だけど、ついていけるか心配だし。金融系は優秀な人ばっかりで怖いし」
「地域経済学ゼミは?」
蛍が提案すると、真帆は困った顔になる。
「穴場で入りやすいのは分かってるんだけど、将来性がよく分からなくて。親も『しっかりしたところに入りなさい』って言うし」
「でも、興味があることの方が大事じゃない?」
「興味って言われても、正直どれもピンとこないのよね」
蛍の悩みは、二人とは少し違っていた。
「俺の場合、一番興味があるのはジェンダー経済学ゼミなんだけど」
「芦原さんのところでしょ?」
真帆が確認する。
「そう。でも、それって健ちゃんへの気持ちが影響してるのかもしれないし」
蛍は資料をめくりながら続けた。
「労働経済学ゼミも関連があるし、就職にも有利。国際経済学ゼミは安全な選択肢だけど、正直そんなに情熱を感じない」
「蛍は好きなことやった方がいいよ」
智也が言う。
「でも、もし健ちゃんへの気持ちが理由だとしたら、それって正しい選択なのかな」
「それは蛍にしか分からないことじゃない?」
それぞれが、別の天秤で測りかねている。
智也は現実と理想の間で、真帆は自信のなさと周囲の期待の間で、蛍は感情と理性の間で揺れていた。
「でもさ」
真帆がぽつりと言う。
「みんな真剣に悩んでるってことは、それだけ将来のこと考えてるってことよね」
「そうだね」
智也が頷く。
「一年前の俺たちなら、こんなに深く考えなかったかも」
確かに、自分たちは変わってきた。そう認めると、選択の重さも同時に増す。
「そういえば、夏休みに入る前にサークル合同でバーベキューするなら、少しずつ準備しておきたいな」
智也が話題を変えた。
映像研究会とスポーツサークルの合同イベントは、前回も好評だった。
「確かに。前回は秋だったから予約も空いてたけれど、夏は混雑してそうだもんね」
蛍も頷く。
「真帆、さくにも伝えておいてくれる?」
「あ、ごめん聞いてなかった」
真帆がスマートフォンから顔を上げる。
画面には見慣れない名前のメッセージ通知が表示されていた。
「誰?」
智也が興味深そうに聞く。
「えーっと、この前バイト先で知り合った人」
真帆は少し照れながらメッセージを返信し始めた。
「さくとの話より大事?」
蛍もからかい半分で言う。
「もう、そういうわけじゃないから」
「はいはい、バーベキューの件、進めていこうねってこと」
智也が苦笑する。
「うん、そうだね。確かにもう時間もあまりないね」
それぞれの説明会まで、あと数日。三人とも、自分なりの答えを見つけなければならない。
窓際のテーブルで、三人はそれぞれの資料を広げて時間を潰している。
サークル活動まではまだ少し時間があった。
「問題は、全部のゼミの説明会に出られないことなんだよね」
智也が履修要項を指でなぞる。
「マーケティング戦略ゼミとベンチャー論ゼミが同じ時間帯なんだよ。どっちを優先するか迷う」
「別の時間で説明会ないの?」
蛍が尋ねると、智也は眉間にしわを寄せた。
「あるけど、そっちはそっちで別の気になるゼミと重なってるんだよな。経営学科は選択肢が多いようで意外と縛りがあって」
「わかる、私も悩んでる」
真帆がため息をつく。
「金融系ゼミの説明会は出ておきたいけど、成績的に厳しいから、マーケティング系か地域経済学の説明会にも出ておかないと」
蛍は自分のメモを見直した。
「俺の場合、ジェンダー経済学ゼミは説明会に出るとして、労働経済学と国際経済学のどっちの説明会に出るか」
「でも蛍の成績なら、第一希望で通るんじゃない?」
智也が言うと、蛍は首を振った。
「ジェンダー経済学ゼミ、意外と人気らしくて。研究室にいた先輩に聞いたんだけれど、去年も競争倍率高かったって」
「え、そうなの?」
真帆の目が丸くなる。
「うん。だから、第二第三希望もちゃんと考えておかないと。一次で落ちたら、二次の説明会は空きのあるゼミだけだから、選択肢が狭まるし」
「経済学科は大変だな」
智也が同情するように言う。
「経営学科もそれは同じだけど、母数が違うからまだマシかも」
「そういうこと。でも、安全策って言っても、みんなが安全策を取ったら、そこも競争になるよね」
蛍の指摘に、三人とも黙り込む。
「俺、結構現実主義だから就職のこと考えちゃうんだよね」
智也が視線を落としながら続ける。
「マーケティング戦略ゼミが一番就職に有利なのは分かってるんだけど、競争激しいし。でも面白そうなのはベンチャー・起業論ゼミなんだよな」
「でも智也なら、どこでも大丈夫そうじゃない?」
真帆が言うと、智也は小さく首を振る。
「そう簡単じゃないよ。彼女も就活のこと考えて堅実なゼミ選んでるし、俺だけ冒険するのもなあ」
真帆は別の種類の迷いを抱えている。
「私、どうしよう。マーケティング系は就職に有利だけど、ついていけるか心配だし。金融系は優秀な人ばっかりで怖いし」
「地域経済学ゼミは?」
蛍が提案すると、真帆は困った顔になる。
「穴場で入りやすいのは分かってるんだけど、将来性がよく分からなくて。親も『しっかりしたところに入りなさい』って言うし」
「でも、興味があることの方が大事じゃない?」
「興味って言われても、正直どれもピンとこないのよね」
蛍の悩みは、二人とは少し違っていた。
「俺の場合、一番興味があるのはジェンダー経済学ゼミなんだけど」
「芦原さんのところでしょ?」
真帆が確認する。
「そう。でも、それって健ちゃんへの気持ちが影響してるのかもしれないし」
蛍は資料をめくりながら続けた。
「労働経済学ゼミも関連があるし、就職にも有利。国際経済学ゼミは安全な選択肢だけど、正直そんなに情熱を感じない」
「蛍は好きなことやった方がいいよ」
智也が言う。
「でも、もし健ちゃんへの気持ちが理由だとしたら、それって正しい選択なのかな」
「それは蛍にしか分からないことじゃない?」
それぞれが、別の天秤で測りかねている。
智也は現実と理想の間で、真帆は自信のなさと周囲の期待の間で、蛍は感情と理性の間で揺れていた。
「でもさ」
真帆がぽつりと言う。
「みんな真剣に悩んでるってことは、それだけ将来のこと考えてるってことよね」
「そうだね」
智也が頷く。
「一年前の俺たちなら、こんなに深く考えなかったかも」
確かに、自分たちは変わってきた。そう認めると、選択の重さも同時に増す。
「そういえば、夏休みに入る前にサークル合同でバーベキューするなら、少しずつ準備しておきたいな」
智也が話題を変えた。
映像研究会とスポーツサークルの合同イベントは、前回も好評だった。
「確かに。前回は秋だったから予約も空いてたけれど、夏は混雑してそうだもんね」
蛍も頷く。
「真帆、さくにも伝えておいてくれる?」
「あ、ごめん聞いてなかった」
真帆がスマートフォンから顔を上げる。
画面には見慣れない名前のメッセージ通知が表示されていた。
「誰?」
智也が興味深そうに聞く。
「えーっと、この前バイト先で知り合った人」
真帆は少し照れながらメッセージを返信し始めた。
「さくとの話より大事?」
蛍もからかい半分で言う。
「もう、そういうわけじゃないから」
「はいはい、バーベキューの件、進めていこうねってこと」
智也が苦笑する。
「うん、そうだね。確かにもう時間もあまりないね」
それぞれの説明会まで、あと数日。三人とも、自分なりの答えを見つけなければならない。
感想 12
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