自転車が回転して、世界が変わった日〜鶴姫

刹那玻璃

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遊亀は、大変混乱しております。

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 翌日……。



「無理や……」



熱を出した遊亀ゆうきに、



「体力ないねぇ?」
「あるかぁぁ! わーん。お父様やお母様にまで……手間を……」



思い出しただけで憤死する。

 29で男性経験なし。
 何処の巫女さんと言われてもおかしくない。
 ぐったりした遊亀を身を清める為に運んだのは安成やすなりだが、後を片付けたのが、義母の浪子なみこと聞き顔をおおった。



「と言うか、逆に驚いとった。遊亀が男知らんかったって」
「そら驚くわ! うちやって……」
「はいはい、寝とき寝とき。熱が下がらんで」



 数日、婚礼の後と言うことで休みを貰っている。
 実家に一応戻っているが、遊亀は大祝職おおほうりしょく安用やすもちの娘の鶴の身代わりであり、数日後には、再び大祝の屋敷に戻ることになるだろう。
 父は、完全に目が見えなくなる前に、部下にとことん指導をしていた為、職を辞してここに住む。
 自分もここに住むのだが……離ればなれになる。
 しばらくは傍についておきたい。



「うー。自分の体力ないのが情けない!」
「だからと言って、熱は下がらないよ。寝てなさい」



 一応、一回り近く年上の嫁に釘を指す。



「じゃぁ、安成君! これ見て!」



 これだけは!

と持ってきていた袋から紙を取り出す。
 中には、筆と言っていたが細い線で、何か変な形のものが描かれている。
 そして、鳥居の形等が書かれている。



「何? これは」
「地図。どこから攻められたら困るかと思って。この間、一緒に出たやろ? で、一応、昔の記憶たどって、地図書いてみたんよ。で、ここから出て言ったやろ? で、下っていって、で、こういう風に行った。で、こっちが伊予や。やけん方角的には、伊予が南方、安芸あきが北。厳島神社いつくしまじんじゃは北西。で、石鎚神社いしづちじんじゃは南。石鎚神社のある石鎚山は、この国でも西側の山の中で一番高いんよ。富士の山が一番高いけど」



 舌を巻く。
 この小さい体で、どれ程の知識を身に収めているか……。



「で、な? ……おーい、聞いとる?」
「あ、うん、聞いてる! 聞いてます!」
「よーし、じゃぁ、大内氏が戦場に来るとしたら、どう来ると思う?」
「大内は、安芸より西に本陣がある」
「ブッブー! そんなん、普通の人間解るわ。まずは海を渡り、島々を抜けて、こっちから来るって方法もある」
「波は荒い! この周囲の海は、父上が見てきたように……」



 食って掛かる安成に、ぽんぽんと頬を叩く。



「ほら、落ち着いて考えとうみ? 初めて通るのは、本当に恐ろしい思うで。でもなぁ、何度か行き来しよったら、ある程度、休めるところや波の緩いところ、他には、この辺りは島が多いんやから、上陸して身を潜めて……大潮で波も落ち着いとる時ねろうたら、一発や」
「でも、軍船は……」
「アホやなぁ……軍の船でも、動かすんは人やで? 漁師や商人の船をそのまま召し上げて、それで近づくこともできるんやで?」
「……!」
「調べてみぃ。そうすれば戦は起きんこともある。他にもな、上陸されて困らんように、ここに入りにくいようにするべきやと思う。幾らここは信仰の対象……でもな、火事場泥棒はおるもんや」



 色々と説明し、考えが及ばない安成に、説明していく。



 しかし、しばらくして、



「あぁ、もう、いかん……頭が痛なった。安成君のお父様、お母様……に聞いておかなと思たのに……」
「寝よりや」
「やけど……」
「大丈夫か?遊亀?」



声がして、父の亀松かめまつと浪子がやって来る。



「あぁ、お父様、お母様……済みません。熱だしてしもて……」
「無理したらいかん。疲れたんや、休め、休め。ここはうちや」
「ありがとうございます。もう少し、休んで、越智家の為に……」



 亀松も浪子も驚く。
 大祝家の娘である。
 臣下の屋敷に嫁いで、普通は実家ではないのか?



「大祝の家は……どがいするんぞ?」
「お姉さまのさきちゃんがおりますし、元々うちは関与しておりませんから。嫁いだ身です……お父様とお母様が両親です……安成君。ちょっと休んでよかろか? お父様に聞いてくれる?」



 夫にそっと告げ、目を閉じてすうすうと眠り始める。



「……遊亀は?」
「いえ、父上。お伺いしたいことがあるのですが……遊亀が、このようなことを」



 浪子に地図を見せつつ、方向を知らせ、何度か吐きながらも船に乗ったことも頼りに説明していく。



「私は西だけと思っていたのですが、遊亀は何度か行き来をしていたら、ある程度知識は解る。商人の船ごとを借り上げて、その船で攻め込めば西だけでなく。他にも小さい島に上陸して、満ち潮を待って攻めてくる……ありますか?」
「あるやろうな……それに、こちらの中に味方でもおったら余計に」
「味方……父上。安房やすふさ様は、婚礼に来ておりませんでしたよね?」
「そうやったな」
「婚礼が決まる前に、遊亀に大怪我を負わせて、大祝の屋敷を出て船にいけと……」
「来とらんぞ?」



 嫌な予感に立ち上がる。



「父上、母上。遊亀をお願い致します。社の方に参りますゆえ」



 安成は、戦いが始まったことを知らず知らず、巻き込まれていったのだった。
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