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遊亀は、目を覚ましませんでした。
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安舍に言われた通り、神馬の世話をしていた安成は、奥から姉が走ってくるのを見る。
「安成‼安成‼遊亀……いえ、真鶴様が‼」
「真鶴が……?」
「来なさい‼」
さきは弟の手首を掴み、引っ張った。
その後をついてくるのを確認し、
「真鶴様が、倒れたわ」
「えっ!ま、又熱ですか‼」
「それならいいけれど……もっと辛い思いをしていると思うわ」
「ど、どう言うことですか?」
振り返ったさきは、弟の目を見つめ、手を翻した。
パーン‼
良い音が響き、安成は目を見開く。
「姉上……」
「……遊亀は、初恋の話はしたくないって言ったのでしょう?貴方に」
「は、はい……」
「安舍様が、暗い顔をしていた遊亀に聞いたのよ。そうしたら……」
姉に話を聞き、目を見開く。
「そ、そんな……そんなこと……‼いえ、冗談半分で、12の時に襲われかけて男が嫌いって……、それに働いているって……」
「必死に生きてきて、辛い日々の方が多かったのね。特に真面目で繊細だから……」
「繊細って……人を子供扱いして……」
さきは弟を呆れたように、
「貴方、お子様じゃないの。成人したからって大人になれる訳はないのよ。逆に遊亀は子供に戻りたいの。現実が怖くて堪らないのよ」
「でも‼私は……結婚して‼」
「遊亀は解らなくなっているの。混乱して、『自分が悪いんだ、自分が馬鹿だから……』そう言って廊下をバンバンと叩いて、泣き叫んでいたそうよ。『何で?何で?何で?』『私が悪いの?生きているのが悪いの?お金だけ渡せば良いの?』『私は?私は?要らないの?必要ないの?』そう叫んで……」
「……‼遊亀の所に行かなきゃ‼」
さきは弟の手首をぎゅっと握る。
「止めなさい‼これ以上遊亀を傷つけて、苦しめて……あの子が死んでしまうわ」
「姉……上……」
目を伏せる。
「前に結婚していた頃の私に似ているわ。気が狂いそうだった。日々下女のように働かされて、夫とは呼びたくない男に抱かれて……日々罵られ。子供が生めない女、石女と呼ばれて、家を飛び出した。実家に戻ろうと思ったけれど、連れ戻される……そう思っていた時に安舍様に。何も聞かずに、ボロボロの姿の私の手を引いて、ここに……」
「し、知りませんでした……すみません」
「良いのよ……過去だから、乗り越えたわ。でも、遊亀は何度も何度も地獄を見てきたのよ。そこから逃げられたと思っていたのに、再現なんてさせないで‼心の傷のかさぶたを塞いであげる手伝いをするべき貴方が、はがしてどうするの‼」
さきは、弟の手首を離す。
「これ以上、遊亀を傷つけて苦しめる、遊びのような恋情なら、別れなさい。ただ側にいたい。その程度の思いなら、遊亀には重荷よ。止めなさい」
「姉上‼」
「遊亀を手離しなさい‼父上にも母上にも伝えるわ‼」
「姉上‼嫌です‼」
安成は言い返す。
「絶対に離れません‼遊亀は俺の妻です‼俺が支えます‼」
「口先では何とでも言えるものよ」
「口先ではありません‼」
安成は覚悟を決めたのだった。
そして遊亀は、こんこんと眠っていたのだった。
「安成‼安成‼遊亀……いえ、真鶴様が‼」
「真鶴が……?」
「来なさい‼」
さきは弟の手首を掴み、引っ張った。
その後をついてくるのを確認し、
「真鶴様が、倒れたわ」
「えっ!ま、又熱ですか‼」
「それならいいけれど……もっと辛い思いをしていると思うわ」
「ど、どう言うことですか?」
振り返ったさきは、弟の目を見つめ、手を翻した。
パーン‼
良い音が響き、安成は目を見開く。
「姉上……」
「……遊亀は、初恋の話はしたくないって言ったのでしょう?貴方に」
「は、はい……」
「安舍様が、暗い顔をしていた遊亀に聞いたのよ。そうしたら……」
姉に話を聞き、目を見開く。
「そ、そんな……そんなこと……‼いえ、冗談半分で、12の時に襲われかけて男が嫌いって……、それに働いているって……」
「必死に生きてきて、辛い日々の方が多かったのね。特に真面目で繊細だから……」
「繊細って……人を子供扱いして……」
さきは弟を呆れたように、
「貴方、お子様じゃないの。成人したからって大人になれる訳はないのよ。逆に遊亀は子供に戻りたいの。現実が怖くて堪らないのよ」
「でも‼私は……結婚して‼」
「遊亀は解らなくなっているの。混乱して、『自分が悪いんだ、自分が馬鹿だから……』そう言って廊下をバンバンと叩いて、泣き叫んでいたそうよ。『何で?何で?何で?』『私が悪いの?生きているのが悪いの?お金だけ渡せば良いの?』『私は?私は?要らないの?必要ないの?』そう叫んで……」
「……‼遊亀の所に行かなきゃ‼」
さきは弟の手首をぎゅっと握る。
「止めなさい‼これ以上遊亀を傷つけて、苦しめて……あの子が死んでしまうわ」
「姉……上……」
目を伏せる。
「前に結婚していた頃の私に似ているわ。気が狂いそうだった。日々下女のように働かされて、夫とは呼びたくない男に抱かれて……日々罵られ。子供が生めない女、石女と呼ばれて、家を飛び出した。実家に戻ろうと思ったけれど、連れ戻される……そう思っていた時に安舍様に。何も聞かずに、ボロボロの姿の私の手を引いて、ここに……」
「し、知りませんでした……すみません」
「良いのよ……過去だから、乗り越えたわ。でも、遊亀は何度も何度も地獄を見てきたのよ。そこから逃げられたと思っていたのに、再現なんてさせないで‼心の傷のかさぶたを塞いであげる手伝いをするべき貴方が、はがしてどうするの‼」
さきは、弟の手首を離す。
「これ以上、遊亀を傷つけて苦しめる、遊びのような恋情なら、別れなさい。ただ側にいたい。その程度の思いなら、遊亀には重荷よ。止めなさい」
「姉上‼」
「遊亀を手離しなさい‼父上にも母上にも伝えるわ‼」
「姉上‼嫌です‼」
安成は言い返す。
「絶対に離れません‼遊亀は俺の妻です‼俺が支えます‼」
「口先では何とでも言えるものよ」
「口先ではありません‼」
安成は覚悟を決めたのだった。
そして遊亀は、こんこんと眠っていたのだった。
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