19 / 30
安成君は元気です……若いっていいなぁ……。
しおりを挟む
安成の家族は、さほど遊亀の病にも気にしなかった。
逆に心配して、
「休みなさい。ゆっくり休めばいいのよ」
「病気がどうした。疲れて参っとるだけや。家におればええ」
浪子はデーンと構え、亀松も大笑いである。
「自分の親ながら、凄いですよ」
安成は報告する。
「でも、親が反対しても……」
「連れて逃げてでも、添い遂げるつもりでした。親には申し訳ないのですが……」
安舍の一言に苦笑する。
「でも……」
「き、気持ち悪い……」
浪子に支えられ現れたのは、少々痩せやつれた遊亀である。
「おめでとう。ややが出来たのだって?父上が『初孫~‼』だそうだよ」
「おめでたいもなにも……気持ちの悪さが……ご飯の匂いが……駄目だなんて……勿体ないお化けが……」
嘆く方向がずれているのは、相も変わらずである。
「で、男の子がいいのかな?」
「いえ、私は健康であれば。でも、家の為にはと、言っているのですが……」
夫を見る。
「女の子を‼絶対に、遊亀に似た女の子で‼」
「と、こうなんです……うちに似ても可愛くないのに……それなら、安成君かさきちゃんに似た美人がいいですよね」
「さきは元気で日々動いてるから、男の子かなと思っているんだよ」
実は、さきも身ごもっているのだが、つわりはほぼない。
「いや、兄上。年のせいですよ。高齢出産は危険度が高いんです。母体にも負担がかかるし……母体のできていない、10代前半も危険ですけど、私のこの年では、はっきり言って超高齢出産です」
「遊亀は……」
「数えで31です。生まれた時にはすでに1才。新年が来ると2才です。私は、長月生まれですから生まれて3月で2才です」
答える遊亀に、
「数え以外でも、年を言えるのかな?」
「『ゼロの概念』ですね。インド……ここから、南西にある天竺に、グレゴリウス暦628年に正式に用いられた記録があります。グラーマグプタという、数学者……計算を研究したり天文学を教えた有名な人が、使ったとあります。残されている書物の名前は『ブラーマ・スプタ・シッダーンタ』。元々はもっと古く、それよりも500年程前に用いられていたのですが、曖昧でした」
「『ゼロの概念』?」
安舍は不思議そうに言う。
「簡単に言うと、今では計算では子供は生まれた時には1才ですが、私の場合、長月に生まれた時には0才です。で、新年を迎えても年を取りません。翌年の長月に1才になるんです。生まれた赤ん坊は全く何も出来ない、泣いて襁褓、お乳をねだります。次の年の生まれた日位には、ハイハイや立ち上がったり、言葉をしゃべったり……その時に1才なんです」
「ふーむ……面白い考え方だ」
「もし、大晦日に生まれたら翌日には2才も大変でしょう?人それぞれ生きる時間も違う……新年に全員が年を取るというのも、新年に身を清め新しい気持ちで迎えるのに良いことです。でも、こう言う考えがあることも面白いと思いませんか?」
「あぁ、楽しい話だ」
安舍は微笑む。
「さきも面白がっていたが、遊亀の考え方は柔軟でとてもいいと思う。遊亀は学者だな。学ぶ楽しさを思い出させてくれる」
「そんな……知識だけで……」
「説明できるだけで凄いものだ。自信を持てとはまだ言わない。でも、自分を否定しないで、自分を誉めてあげなさい。他人よりも自分とお腹の子供を考えなさい」
年上の青年の言葉に、照れくさそうに、
「はい、兄上。ありがとうございます」
「では、遊亀?体を大事にするんだよ?」
「はい」
微笑んだ安舍に、頷いた遊亀は、日に日につわりにもなれて、日々を過ごせるようになったのだった。
逆に心配して、
「休みなさい。ゆっくり休めばいいのよ」
「病気がどうした。疲れて参っとるだけや。家におればええ」
浪子はデーンと構え、亀松も大笑いである。
「自分の親ながら、凄いですよ」
安成は報告する。
「でも、親が反対しても……」
「連れて逃げてでも、添い遂げるつもりでした。親には申し訳ないのですが……」
安舍の一言に苦笑する。
「でも……」
「き、気持ち悪い……」
浪子に支えられ現れたのは、少々痩せやつれた遊亀である。
「おめでとう。ややが出来たのだって?父上が『初孫~‼』だそうだよ」
「おめでたいもなにも……気持ちの悪さが……ご飯の匂いが……駄目だなんて……勿体ないお化けが……」
嘆く方向がずれているのは、相も変わらずである。
「で、男の子がいいのかな?」
「いえ、私は健康であれば。でも、家の為にはと、言っているのですが……」
夫を見る。
「女の子を‼絶対に、遊亀に似た女の子で‼」
「と、こうなんです……うちに似ても可愛くないのに……それなら、安成君かさきちゃんに似た美人がいいですよね」
「さきは元気で日々動いてるから、男の子かなと思っているんだよ」
実は、さきも身ごもっているのだが、つわりはほぼない。
「いや、兄上。年のせいですよ。高齢出産は危険度が高いんです。母体にも負担がかかるし……母体のできていない、10代前半も危険ですけど、私のこの年では、はっきり言って超高齢出産です」
「遊亀は……」
「数えで31です。生まれた時にはすでに1才。新年が来ると2才です。私は、長月生まれですから生まれて3月で2才です」
答える遊亀に、
「数え以外でも、年を言えるのかな?」
「『ゼロの概念』ですね。インド……ここから、南西にある天竺に、グレゴリウス暦628年に正式に用いられた記録があります。グラーマグプタという、数学者……計算を研究したり天文学を教えた有名な人が、使ったとあります。残されている書物の名前は『ブラーマ・スプタ・シッダーンタ』。元々はもっと古く、それよりも500年程前に用いられていたのですが、曖昧でした」
「『ゼロの概念』?」
安舍は不思議そうに言う。
「簡単に言うと、今では計算では子供は生まれた時には1才ですが、私の場合、長月に生まれた時には0才です。で、新年を迎えても年を取りません。翌年の長月に1才になるんです。生まれた赤ん坊は全く何も出来ない、泣いて襁褓、お乳をねだります。次の年の生まれた日位には、ハイハイや立ち上がったり、言葉をしゃべったり……その時に1才なんです」
「ふーむ……面白い考え方だ」
「もし、大晦日に生まれたら翌日には2才も大変でしょう?人それぞれ生きる時間も違う……新年に全員が年を取るというのも、新年に身を清め新しい気持ちで迎えるのに良いことです。でも、こう言う考えがあることも面白いと思いませんか?」
「あぁ、楽しい話だ」
安舍は微笑む。
「さきも面白がっていたが、遊亀の考え方は柔軟でとてもいいと思う。遊亀は学者だな。学ぶ楽しさを思い出させてくれる」
「そんな……知識だけで……」
「説明できるだけで凄いものだ。自信を持てとはまだ言わない。でも、自分を否定しないで、自分を誉めてあげなさい。他人よりも自分とお腹の子供を考えなさい」
年上の青年の言葉に、照れくさそうに、
「はい、兄上。ありがとうございます」
「では、遊亀?体を大事にするんだよ?」
「はい」
微笑んだ安舍に、頷いた遊亀は、日に日につわりにもなれて、日々を過ごせるようになったのだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる