39 / 55
VERSUS
めぐと悠登
しおりを挟む
「…めぐまだそこにいたんだ」
「悠登…おかえりなさい…」
「ただいま」
「帰ってきてくれてよかったぁ…」
「そりゃ帰るよ…自分ちだし」
家の玄関で一人座り込んで泣いていためぐの手首を悠登が軽く掴み、起き上がれと言わんばかりに少し引っ張った。
「悠登?」
「話があるから、部屋入ろ」
いい話なわけがないからとめぐはしばらく嫌がったけれど、悠登が諭してようやくめぐは部屋に入った。
「未央に嘘言ったんだな」
「…嘘…」
嘘ってなんだろう?と言いたげにめぐがとぼけて呟き悠登は心底苛立ったけれど、それをぐっと堪えた。
…ダメだ。こっちが感情的になればめぐだって感情的になってしまう。ちゃんと冷静になって話し合わないと。
「わかるでしょ。俺たちは別れてから1回もヤってないよね。めぐは未央に嘘を言ったよね?」
「…」
***
「ほんとにやめよう、そういうのは。俺はめぐをセフレになんかしたくない」
「悠登、そんなに未央ちゃんのことが好きなの?めぐには魅力ないの、触るのも嫌なの?めぐのことそんなに嫌いになっちゃったの」
「洗ってるだけだけど体には触れてるだろ。本気で嫌いなら触りたくもないしいくら病人でも自分で風呂入れって突き放すし」
「ならいいじゃん…」
「ダメ。俺は未央のこと裏切りたくないし」
「…もしかして未央ちゃんと付き合ってるの?」
「付き合ってないよ。だから俺がめぐとヤっても浮気でも何でもないわな」
「じゃあ」
「いやいやじゃあ、じゃないから。浮気じゃなくても後ろめたい気持ちは持ちたくないし。第一めぐにも申し訳ないし」
「めぐにはそんなこと思わなくていいんだよ」
「あのさ、別れてだいぶ経つし今も一緒に住んでるのって変な関係だけど…めぐと付き合ってた時間は大切な思い出にしときたい。めぐはどう思う?」
「…めぐも大切にしたいって思う」
「ならそのままにしとかない?ヤっちゃったらそういう大切な思い出も悪い意味で塗り替えられる気がして俺は嫌だ。わかってくれないかな、めぐ」
「…そっか…うん、そうだよね…わかった…」
めぐがバスルームで悠登を誘ったあの夜。近付いてきためぐの唇を悠登が自分の手の平でガードした時、めぐはバツが悪そうに目を開けた。
自分のことをまだ好きだと言ってくれる元恋人に迫られたらそのまま体の関係を持ってしまう人間もいるだろう、お互い新しい恋人がいないなら尚のことだ。
今もまだこんなに自分を好きでいてくれるめぐがいじらしいと感じたけれど、悠登の気持ちは一瞬たりとも動くことはなかった。
未央とは一夜の過ちを犯し、めぐとは後に付き合ったけれどそうなる前に半ば強引に襲った。「悠登は付き合ってない人とでもえっちできるじゃん」というめぐの言葉に人聞きが悪いと抗議はしつつも、本当のことだからそれ以上は何も言わなかった。
けれど未央と一夜を共にし好きになって以来、悠登は愛情のあるセックスをしたい、好きじゃない女とはしたくない。と思う様になった。
付き合っていた頃は当然めぐのことが好きで愛情のあるセックスをしていたし、浮気をしたことだってない。ただフリーの時であれば全然別の話になってくる。一晩だけの関係も何度もあったしセックスフレンドがいたこともある。めぐと別れてから未央と体の関係を持つまでの間にも他の女の子と寝ることはあった。
今、悠登は未央とセックスをしたことを後悔している。
普通に過ごしていれば見ることのない職場の上司が乱れているところは興奮したし行為自体も気持ちが良かった。愛撫に感じている表情も何度も絶頂する姿も物凄く可愛かったし、あの夜にセックスをしたからこそ未央が愛しくて堪らなくなっている。
でも、いくら誘ってきたとしても人妻の未央を安易に抱いてしまったことは世間一般で許されることではない。
それに…こんなに好きになってしまうくらいならあの夜にもっと愛情を持って抱きたかった。…だからといって好きだ、と言っても離婚して、と言っても何も答えない未央を再び誘うのは怖い。好きになって欲しいからこそ強引に誘って嫌われたくない。これまで抱いたことのない感情に悠登は戸惑っている。
二度も玉砕してしまっためぐは泣きそうなぐらい恥ずかしかったけれど、泣いてしまえば自分が余計惨めになってしまいそうでそれを必死で堪えた。
そしてやり場のない怒りの様な悲しさの様な、自分でもよくわからない思いを未央にぶつけてしまった。悠登とまだえっちしてるよ、なんていう幼稚な嘘までついて。
「めぐ?聞いてる?」
「聞いてる…」
「なんでそんな嘘ついたの?」
「…悠登のこと、奪られたくなかったから…」
「奪られるってなんだよ、俺はめぐの所有物じゃないよ」
「悠登のこと好きになったのはめぐが先だもん…」
「先とか後とかないし、っていうか未央は俺の事好きじゃないと思うけど」
「…好きだよ、未央ちゃんは悠登のこと…めぐが悠登とえっちしてるって言ったらすごいショック受けてたもん…気にしてない風にしてたけど未央ちゃん超テンパってた」
自分のことをどう思っているのか、未央に何も言ってもらえずにこの家に帰ってきた悠登はそれを聞いて落ち込んでいた気持ちが少しだけ和らいだ。少しでも自分に興味を持ってもらえているのなら嬉しい。
ただ、めぐに嘘をつかれたことに対する怒りが消え去りはしない。…怒りというより、もう呆れしかなかった。
「…めぐ顔上げて」
俯いていためぐが、親に叱られる前に怯える子供のようにびくびくしながら顔を上げた。
「めぐ。終わりにしよう」
「終わり…?」
「もう一緒に住むのやめよう」
顔を上げてから聞いた悠登の一言目に一気に潤み始めためぐの瞳。二言目でその瞳から大粒の涙が一つ、零れ落ちた。
「悠登…おかえりなさい…」
「ただいま」
「帰ってきてくれてよかったぁ…」
「そりゃ帰るよ…自分ちだし」
家の玄関で一人座り込んで泣いていためぐの手首を悠登が軽く掴み、起き上がれと言わんばかりに少し引っ張った。
「悠登?」
「話があるから、部屋入ろ」
いい話なわけがないからとめぐはしばらく嫌がったけれど、悠登が諭してようやくめぐは部屋に入った。
「未央に嘘言ったんだな」
「…嘘…」
嘘ってなんだろう?と言いたげにめぐがとぼけて呟き悠登は心底苛立ったけれど、それをぐっと堪えた。
…ダメだ。こっちが感情的になればめぐだって感情的になってしまう。ちゃんと冷静になって話し合わないと。
「わかるでしょ。俺たちは別れてから1回もヤってないよね。めぐは未央に嘘を言ったよね?」
「…」
***
「ほんとにやめよう、そういうのは。俺はめぐをセフレになんかしたくない」
「悠登、そんなに未央ちゃんのことが好きなの?めぐには魅力ないの、触るのも嫌なの?めぐのことそんなに嫌いになっちゃったの」
「洗ってるだけだけど体には触れてるだろ。本気で嫌いなら触りたくもないしいくら病人でも自分で風呂入れって突き放すし」
「ならいいじゃん…」
「ダメ。俺は未央のこと裏切りたくないし」
「…もしかして未央ちゃんと付き合ってるの?」
「付き合ってないよ。だから俺がめぐとヤっても浮気でも何でもないわな」
「じゃあ」
「いやいやじゃあ、じゃないから。浮気じゃなくても後ろめたい気持ちは持ちたくないし。第一めぐにも申し訳ないし」
「めぐにはそんなこと思わなくていいんだよ」
「あのさ、別れてだいぶ経つし今も一緒に住んでるのって変な関係だけど…めぐと付き合ってた時間は大切な思い出にしときたい。めぐはどう思う?」
「…めぐも大切にしたいって思う」
「ならそのままにしとかない?ヤっちゃったらそういう大切な思い出も悪い意味で塗り替えられる気がして俺は嫌だ。わかってくれないかな、めぐ」
「…そっか…うん、そうだよね…わかった…」
めぐがバスルームで悠登を誘ったあの夜。近付いてきためぐの唇を悠登が自分の手の平でガードした時、めぐはバツが悪そうに目を開けた。
自分のことをまだ好きだと言ってくれる元恋人に迫られたらそのまま体の関係を持ってしまう人間もいるだろう、お互い新しい恋人がいないなら尚のことだ。
今もまだこんなに自分を好きでいてくれるめぐがいじらしいと感じたけれど、悠登の気持ちは一瞬たりとも動くことはなかった。
未央とは一夜の過ちを犯し、めぐとは後に付き合ったけれどそうなる前に半ば強引に襲った。「悠登は付き合ってない人とでもえっちできるじゃん」というめぐの言葉に人聞きが悪いと抗議はしつつも、本当のことだからそれ以上は何も言わなかった。
けれど未央と一夜を共にし好きになって以来、悠登は愛情のあるセックスをしたい、好きじゃない女とはしたくない。と思う様になった。
付き合っていた頃は当然めぐのことが好きで愛情のあるセックスをしていたし、浮気をしたことだってない。ただフリーの時であれば全然別の話になってくる。一晩だけの関係も何度もあったしセックスフレンドがいたこともある。めぐと別れてから未央と体の関係を持つまでの間にも他の女の子と寝ることはあった。
今、悠登は未央とセックスをしたことを後悔している。
普通に過ごしていれば見ることのない職場の上司が乱れているところは興奮したし行為自体も気持ちが良かった。愛撫に感じている表情も何度も絶頂する姿も物凄く可愛かったし、あの夜にセックスをしたからこそ未央が愛しくて堪らなくなっている。
でも、いくら誘ってきたとしても人妻の未央を安易に抱いてしまったことは世間一般で許されることではない。
それに…こんなに好きになってしまうくらいならあの夜にもっと愛情を持って抱きたかった。…だからといって好きだ、と言っても離婚して、と言っても何も答えない未央を再び誘うのは怖い。好きになって欲しいからこそ強引に誘って嫌われたくない。これまで抱いたことのない感情に悠登は戸惑っている。
二度も玉砕してしまっためぐは泣きそうなぐらい恥ずかしかったけれど、泣いてしまえば自分が余計惨めになってしまいそうでそれを必死で堪えた。
そしてやり場のない怒りの様な悲しさの様な、自分でもよくわからない思いを未央にぶつけてしまった。悠登とまだえっちしてるよ、なんていう幼稚な嘘までついて。
「めぐ?聞いてる?」
「聞いてる…」
「なんでそんな嘘ついたの?」
「…悠登のこと、奪られたくなかったから…」
「奪られるってなんだよ、俺はめぐの所有物じゃないよ」
「悠登のこと好きになったのはめぐが先だもん…」
「先とか後とかないし、っていうか未央は俺の事好きじゃないと思うけど」
「…好きだよ、未央ちゃんは悠登のこと…めぐが悠登とえっちしてるって言ったらすごいショック受けてたもん…気にしてない風にしてたけど未央ちゃん超テンパってた」
自分のことをどう思っているのか、未央に何も言ってもらえずにこの家に帰ってきた悠登はそれを聞いて落ち込んでいた気持ちが少しだけ和らいだ。少しでも自分に興味を持ってもらえているのなら嬉しい。
ただ、めぐに嘘をつかれたことに対する怒りが消え去りはしない。…怒りというより、もう呆れしかなかった。
「…めぐ顔上げて」
俯いていためぐが、親に叱られる前に怯える子供のようにびくびくしながら顔を上げた。
「めぐ。終わりにしよう」
「終わり…?」
「もう一緒に住むのやめよう」
顔を上げてから聞いた悠登の一言目に一気に潤み始めためぐの瞳。二言目でその瞳から大粒の涙が一つ、零れ落ちた。
0
あなたにおすすめの小説
俺と結婚してくれ〜若き御曹司の真実の愛
ラヴ KAZU
恋愛
村藤潤一郎
潤一郎は村藤コーポレーションの社長を就任したばかりの二十五歳。
大学卒業後、海外に留学した。
過去の恋愛にトラウマを抱えていた。
そんな時、気になる女性社員と巡り会う。
八神あやか
村藤コーポレーション社員の四十歳。
過去の恋愛にトラウマを抱えて、男性の言葉を信じられない。
恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。
そんな時、バッグを取られ、怪我をして潤一郎のマンションでお世話になる羽目に......
八神あやかは元恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。そんな矢先あやかの勤める村藤コーポレーション社長村藤潤一郎と巡り会う。ある日あやかはバッグを取られ、怪我をする。あやかを放っておけない潤一郎は自分のマンションへ誘った。あやかは優しい潤一郎に惹かれて行くが、会社が倒産の危機にあり、合併先のお嬢さんと婚約すると知る。潤一郎はあやかへの愛を貫こうとするが、あやかは潤一郎の前から姿を消すのであった。
シンデレラは王子様と離婚することになりました。
及川 桜
恋愛
シンデレラは王子様と結婚して幸せになり・・・
なりませんでした!!
【現代版 シンデレラストーリー】
貧乏OLは、ひょんなことから会社の社長と出会い結婚することになりました。
はたから見れば、王子様に見初められたシンデレラストーリー。
しかしながら、その実態は?
離婚前提の結婚生活。
果たして、シンデレラは無事に王子様と離婚できるのでしょうか。
嘘をつく唇に優しいキスを
松本ユミ
恋愛
いつだって私は本音を隠して嘘をつくーーー。
桜井麻里奈は優しい同期の新庄湊に恋をした。
だけど、湊には学生時代から付き合っている彼女がいることを知りショックを受ける。
麻里奈はこの恋心が叶わないなら自分の気持ちに嘘をつくからせめて同期として隣で笑い合うことだけは許してほしいと密かに思っていた。
そんなある日、湊が『結婚する』という話を聞いてしまい……。
友達婚~5年もあいつに片想い~
日下奈緒
恋愛
求人サイトの作成の仕事をしている梨衣は
同僚の大樹に5年も片想いしている
5年前にした
「お互い30歳になっても独身だったら結婚するか」
梨衣は今30歳
その約束を大樹は覚えているのか
【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!
satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。
働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。
早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。
そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。
大丈夫なのかなぁ?
俺を信じろ〜財閥俺様御曹司とのニューヨークでの熱い夜
ラヴ KAZU
恋愛
二年間付き合った恋人に振られた亜紀は傷心旅行でニューヨークへ旅立つ。
そこで東條ホールディングス社長東條理樹にはじめてを捧げてしまう。結婚を約束するも日本に戻ると連絡を貰えず、会社へ乗り込むも、
理樹は亜紀の父親の会社を倒産に追い込んだ東條財閥東條理三郎の息子だった。
しかも理樹には婚約者がいたのである。
全てを捧げた相手の真実を知り翻弄される亜紀。
二人は結婚出来るのであろうか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる