暗い夜に怯えたい【怖い話】

シマシマ

文字の大きさ
16 / 24

招かれざる影

しおりを挟む
社会人になりたてで金もなく、暇を持て余していた俺と友人のケイタ、ユウキは、いつものように俺のアパートで缶ビールを片手に他愛のない話で盛り上がっていた。その日の話題は、YouTubeで見つけた「絶対にやってはいけない降霊術」という動画だった。

「これ、マジでやばいらしいぜ? 結構有名な話で、軽い気持ちでやったら人生終わるって」
ケイタが興奮気味にスマホの画面を見せる。俺とユウキは半信半疑で画面を覗き込む。「適当な紙に特定の模様を描いて、真夜中にロウソクを灯して……」動画の説明は、ありきたりなオカルト儀式めいていた。

「どうせフェイクだろ。こんなんで何か本当に起こるわけないって」
ユウキが笑い飛ばす。俺も同意見だった。だが、酒の勢いと好奇心に煽られ、その場のノリで「じゃあ、ちょっとだけ試してみるか?」と誰かが言い出した。それが、悪夢の始まりだった。

翌日、特に何も起こらなかった。俺たちは「やっぱりな」と笑い、その件はすぐに忘れ去られた。しかし、数日後、些細な異変が起こり始めた。

まず、俺の部屋の電化製品が時々誤作動を起こすようになった。テレビの電源が勝手に入ったり消えたり、設定していないのにスマホのアラームが鳴り響いたり。最初は故障か、と気にも留めなかった。

次に、夜中に奇妙な音が聞こえるようになった。カタン、コトン、という何かが床に落ちるような音や、壁の向こうから微かに聞こえる、すすり泣くような声。耳を澄ましても、その音はすぐに途切れる。しかし、その音は確実に、俺の部屋の中から聞こえてくるように感じられた。まるで、部屋のどこかに、もう一人、誰かがいるような気配。

ある晩、寝ようとして電気を消すと、部屋の隅、特に家具の影が、やけに濃く感じられた。暗闇の中に、うごめくような「何か」が、ぼんやりと見えるような錯覚。目が慣れてくると消えるのだが、毎晩、それが繰り返されるようになった。

ユウキもケイタも、それぞれ似たような体験を報告してきた。「なんか最近、寝つきが悪いんだ」「いや、俺も。夢見が悪いっつーか、誰かに見られてる気がしてさ」最初は笑い話だったが、次第に顔色が悪くなっていくのが分かった。

そして、あの日、俺たちは決定的な「声」を聞いてしまった。
深夜、リビングで三人で集まっていた時だ。突然、部屋の奥、誰もいないはずのクローゼットの中から、微かな、しかしはっきりと聞こえる声がした。「……いるよ……」。それは、子供のような、しかし酷く歪んだ声だった。

俺たちは顔を見合わせた。全身の血の気が引いていく。
「今の、聞こえたか……?」
ケイタが震える声で尋ねる。誰も返事をしない。その沈黙の中、再び声が聞こえた。
「……ここに、いるよ……」

その声は、耳から聞こえているのに、同時に脳の奥に直接響くような、奇妙な感覚だった。
俺は、あの降霊術の動画を思い出した。動画の最後に、警告めいた字幕があったことを。
「軽い気持ちで呼び出したものは、決して帰ってくれない。彼らは、あなたの生活の一部になることを望みます」

「何かを呼んでしまった」その言葉が、頭の中で何度も繰り返される。俺たちは、好奇心と無知から、取り返しのつかないことをしてしまったのだ。

それ以来、俺たちの生活は、見えない「何か」によって支配されている。
夜中に目が覚めると、枕元に誰かが立っているような気配がする。
食器棚を開けると、全ての食器が裏返っていたりする。
朝、起きると、寝ている間に誰かに触られたような、ひんやりとした感覚が体に残っている。

あの「何か」は、確実に俺たちの生活に根を下ろし、少しずつ、しかし確実に、俺たちを蝕んでいる。それは、物理的な被害をもたらすわけではない。ただ、常にそこに「いる」という、その純粋な存在感が、俺たちの精神を削り続けているのだ。

俺たちは、もう、逃げられない。
だって、あの日、俺たちが自らの手で、この「何か」を、この世界に、俺たちの部屋に招き入れてしまったのだから。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

(ほぼ)5分で読める怖い話

涼宮さん
ホラー
ほぼ5分で読める怖い話。 フィクションから実話まで。

(ほぼ)1分で読める怖い話

涼宮さん
ホラー
ほぼ1分で読める怖い話! 【ホラー・ミステリーでTOP10入りありがとうございます!】 1分で読めないのもあるけどね 主人公はそれぞれ別という設定です フィクションの話やノンフィクションの話も…。 サクサク読めて楽しい!(矛盾してる) ⚠︎この物語で出てくる場所は実在する場所とは全く関係御座いません ⚠︎他の人の作品と酷似している場合はお知らせください

それなりに怖い話。

只野誠
ホラー
これは創作です。 実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。 本当に、実際に起きた話ではございません。 なので、安心して読むことができます。 オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。 不定期に章を追加していきます。 2025/12/7:『どろのあしあと』の章を追加。2025/12/14の朝8時頃より公開開始予定。 2025/12/6:『とんねるあんこう』の章を追加。2025/12/13の朝8時頃より公開開始予定。 2025/12/5:『ひとのえ』の章を追加。2025/12/12の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/4:『こうしゅうといれ』の章を追加。2025/12/11の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/3:『かがみのむこう』の章を追加。2025/12/10の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/2:『へびくび』の章を追加。2025/12/9の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/1:『はえ』の章を追加。2025/12/8の朝4時頃より公開開始予定。 ※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

静かに壊れていく日常

井浦
ホラー
──違和感から始まる十二の恐怖── いつも通りの朝。 いつも通りの夜。 けれど、ほんの少しだけ、何かがおかしい。 鳴るはずのないインターホン。 いつもと違う帰り道。 知らない誰かの声。 そんな「違和感」に気づいたとき、もう“元の日常”には戻れない。 現実と幻想の境界が曖昧になる、全十二話の短編集。 一話完結で読める、静かな恐怖をあなたへ。 ※表紙は生成AIで作成しております。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

残酷喜劇 短編集

ドルドレオン
ホラー
残酷喜劇、開幕。 短編集。人間の闇。 おぞましさ。 笑いが見えるか、悲惨さが見えるか。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

処理中です...