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招かれざる影
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社会人になりたてで金もなく、暇を持て余していた俺と友人のケイタ、ユウキは、いつものように俺のアパートで缶ビールを片手に他愛のない話で盛り上がっていた。その日の話題は、YouTubeで見つけた「絶対にやってはいけない降霊術」という動画だった。
「これ、マジでやばいらしいぜ? 結構有名な話で、軽い気持ちでやったら人生終わるって」
ケイタが興奮気味にスマホの画面を見せる。俺とユウキは半信半疑で画面を覗き込む。「適当な紙に特定の模様を描いて、真夜中にロウソクを灯して……」動画の説明は、ありきたりなオカルト儀式めいていた。
「どうせフェイクだろ。こんなんで何か本当に起こるわけないって」
ユウキが笑い飛ばす。俺も同意見だった。だが、酒の勢いと好奇心に煽られ、その場のノリで「じゃあ、ちょっとだけ試してみるか?」と誰かが言い出した。それが、悪夢の始まりだった。
翌日、特に何も起こらなかった。俺たちは「やっぱりな」と笑い、その件はすぐに忘れ去られた。しかし、数日後、些細な異変が起こり始めた。
まず、俺の部屋の電化製品が時々誤作動を起こすようになった。テレビの電源が勝手に入ったり消えたり、設定していないのにスマホのアラームが鳴り響いたり。最初は故障か、と気にも留めなかった。
次に、夜中に奇妙な音が聞こえるようになった。カタン、コトン、という何かが床に落ちるような音や、壁の向こうから微かに聞こえる、すすり泣くような声。耳を澄ましても、その音はすぐに途切れる。しかし、その音は確実に、俺の部屋の中から聞こえてくるように感じられた。まるで、部屋のどこかに、もう一人、誰かがいるような気配。
ある晩、寝ようとして電気を消すと、部屋の隅、特に家具の影が、やけに濃く感じられた。暗闇の中に、うごめくような「何か」が、ぼんやりと見えるような錯覚。目が慣れてくると消えるのだが、毎晩、それが繰り返されるようになった。
ユウキもケイタも、それぞれ似たような体験を報告してきた。「なんか最近、寝つきが悪いんだ」「いや、俺も。夢見が悪いっつーか、誰かに見られてる気がしてさ」最初は笑い話だったが、次第に顔色が悪くなっていくのが分かった。
そして、あの日、俺たちは決定的な「声」を聞いてしまった。
深夜、リビングで三人で集まっていた時だ。突然、部屋の奥、誰もいないはずのクローゼットの中から、微かな、しかしはっきりと聞こえる声がした。「……いるよ……」。それは、子供のような、しかし酷く歪んだ声だった。
俺たちは顔を見合わせた。全身の血の気が引いていく。
「今の、聞こえたか……?」
ケイタが震える声で尋ねる。誰も返事をしない。その沈黙の中、再び声が聞こえた。
「……ここに、いるよ……」
その声は、耳から聞こえているのに、同時に脳の奥に直接響くような、奇妙な感覚だった。
俺は、あの降霊術の動画を思い出した。動画の最後に、警告めいた字幕があったことを。
「軽い気持ちで呼び出したものは、決して帰ってくれない。彼らは、あなたの生活の一部になることを望みます」
「何かを呼んでしまった」その言葉が、頭の中で何度も繰り返される。俺たちは、好奇心と無知から、取り返しのつかないことをしてしまったのだ。
それ以来、俺たちの生活は、見えない「何か」によって支配されている。
夜中に目が覚めると、枕元に誰かが立っているような気配がする。
食器棚を開けると、全ての食器が裏返っていたりする。
朝、起きると、寝ている間に誰かに触られたような、ひんやりとした感覚が体に残っている。
あの「何か」は、確実に俺たちの生活に根を下ろし、少しずつ、しかし確実に、俺たちを蝕んでいる。それは、物理的な被害をもたらすわけではない。ただ、常にそこに「いる」という、その純粋な存在感が、俺たちの精神を削り続けているのだ。
俺たちは、もう、逃げられない。
だって、あの日、俺たちが自らの手で、この「何か」を、この世界に、俺たちの部屋に招き入れてしまったのだから。
「これ、マジでやばいらしいぜ? 結構有名な話で、軽い気持ちでやったら人生終わるって」
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「どうせフェイクだろ。こんなんで何か本当に起こるわけないって」
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ユウキもケイタも、それぞれ似たような体験を報告してきた。「なんか最近、寝つきが悪いんだ」「いや、俺も。夢見が悪いっつーか、誰かに見られてる気がしてさ」最初は笑い話だったが、次第に顔色が悪くなっていくのが分かった。
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「今の、聞こえたか……?」
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