暗い夜に怯えたい【怖い話】

放課後のゲーム

それは、私が高校生だった頃の話だ。学校の図書室で偶然見つけた一冊の古びた文庫本が、すべての始まりだった。その本のタイトルは『放課後奇譚RPG』。表紙には、薄暗い廊下を歩く学生の影が描かれていた。内容は、学校を舞台にした怪異をテーマにしたゲームのルールブックだった。

「これ、面白そうじゃないか？」

友人のタカシが興味を示し、私たちは放課後に集まってそのゲームを試してみることにした。ルールは簡単だった。プレイヤーは学校の生徒となり、怪異に遭遇しながらその真相を探る。そして、怪異から逃げ切ることができれば勝利。逃げられなければ……。

ゲームの進行は、ルールブックに記された「怪異生成表」に従って行われる。サイコロを振り、出た目に応じて怪異がランダムに決定される仕組みだ。例えば、「廊下の端に立つ影」「突然鳴り響くチャイム」「鏡に映る別の顔」など、どれもゾッとするような内容だった。

私たちは放課後の教室に集まり、ゲームを始めた。最初はただの遊びのつもりだった。だが、サイコロを振るたびに、奇妙な出来事が現実に起こり始めた。

最初の怪異は「廊下の端に立つ影」だった。ルールブックには「影が近づいてくる。プレイヤーは逃げるか、影の正体を探るか選択せよ」と書かれていた。私たちは笑いながら「逃げる」を選んだ。だが、その瞬間、教室の外の廊下から、カツン、カツン、と足音が聞こえてきた。

「誰かいるのか？」

タカシが恐る恐る廊下を覗いたが、そこには誰もいなかった。ただ、廊下の端に、黒い影のようなものがぼんやりと立っているのが見えた。

「おい、これ、冗談だろ？」

私たちは顔を見合わせた。だが、ゲームは続けなければならない。次の怪異は「突然鳴り響くチャイム」だった。ルールブックには「チャイムが鳴るとき、怪異が近づいてくる。プレイヤーは隠れるか、怪異に立ち向かうか選択せよ」と書かれていた。

その瞬間、教室のスピーカーから突然チャイムが鳴り響いた。時間外のはずなのに、なぜか学校のチャイムが鳴っている。私たちは慌てて机の下に隠れた。だが、チャイムの音が止むと同時に、教室のドアがギィ、と音を立てて開いた。

「誰かいるのか？」

タカシが震える声で尋ねたが、返事はなかった。ただ、ドアの向こうに、ぼんやりとした人影が立っているのが見えた。その影は、ゆっくりと教室の中に入ってきた。

「もうやめようぜ！」

私たちはゲームを中断し、慌てて教室を飛び出した。だが、廊下を走る私たちの背後から、カツン、カツン、と足音が追いかけてくる。振り返ると、黒い影が私たちを追いかけてきていた。

「逃げろ！」

私たちは必死で学校の外へ逃げた。だが、影はどこまでも追いかけてくる。まるで、ゲームのルールに従っているかのように。

その日以来、私たちは学校に行くのが怖くなった。影は、私たちの周りに常に存在しているように感じられた。教室の窓に映る影、廊下の端に立つ影、鏡に映る別の顔。どれも、あのゲームで見た怪異と同じだった。

そして、ある日、タカシが学校に来なくなった。彼の家を訪ねると、部屋の中には『放課後奇譚RPG』のルールブックが開かれたまま置かれていた。そして、その隣には、黒い影のようなものがぼんやりと立っていた。

「ゲームは終わらない」

影は、私にそう囁いた。

それ以来、私は影に追われ続けている。学校でも、家でも、どこにいても、影は私を見つめている。そして、影は、私に囁き続ける。

「次の怪異を選べ」

ゲームは、まだ終わっていないのだ。