暗い夜に怯えたい【怖い話】

シマシマ

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黒い折り鶴

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私が住んでいるのは、都心にあるタワーマンション。娘が同じ幼稚園に通う母親たちで自然とグループができ、私たちはそれを「ひまわり会」と呼んでいた。中心にいるのは、いつも完璧な笑顔を絶やさないリーダー格の佐伯さん。彼女の意見は、ひまわり会では絶対だった。

半年前、新しく越してきた佐藤さんが私たちの輪に加わった。物静かで、少し控えめな人だった。娘の莉奈ちゃんは、折り紙が上手な子で、会うたびに色とりどりの小さな折り鶴をくれた。

悲劇の始まりは、些細なことだった。幼稚園のバザーで、ひまわり会が出品した手作りアクセサリーの売上金が、数千円合わなかったのだ。誰かが盗んだのでは、と騒ぎになった時、佐伯さんがぽつりと言った。
「そういえば、あの時、会計のそばにいたの、佐藤さんだけじゃなかったかしら」

確証は何もない。だが、その一言は、閉鎖的なコミュニティの中で瞬く間に毒のように広がった。グループLINEから佐藤さんを外し、すれ違っても挨拶をしない。公園で会えば、示し合わせたようにその場を離れる。私も、輪から外されるのが怖くて、見て見ぬふりをした。ただの一度、助けを求めるように私を見ていた佐藤さんの視線から、目をそらしてしまった。

一ヶ月後、佐藤さん親子は、誰にも告げずにマンションから姿を消した。管理会社は「自己都合による退去」としか説明しなかったが、私たちは皆、自分たちのせいだと、心のどこかで分かっていた。

奇妙なことが起こり始めたのは、その直後からだ。
まず、佐伯さんの家のスマートスピーカーが、誰もいないのに勝手に起動するようになった。「今日の天気は?」と尋ねると、「くらい。ずっとくらい」と、幼い女の子の声で答えるのだという。

次に、私たちのスマートフォンの待受画面が、深夜になると真っ黒な画像に勝手に変わるようになった。画像を変更しても、翌日の深夜にはまた黒く戻ってしまう。よく見ると、その真っ黒な画面の中央に、ほとんど見えないほど小さな、白い点があった。

恐怖が頂点に達したのは、マンションのエレベーターに乗った時だった。私と佐伯さん、そして他のメンバーが数人。扉が閉まり、上昇を始めた途端、照明が明滅し、ガクン、と大きな音を立ててエレベーターが停止した。
非常ボタンを押そうとした佐伯さんの指が、凍り付く。
エレベーターの隅、床と壁の隙間から、何かが這い出てきていた。
黒い、黒い、折り鶴だった。
それは紙でできているとは思えないほど、ぬらりとした光沢を放ち、まるで生きているかのように身をよじりながら、ゆっくりと床を這ってくる。一つ、また一つと、隙間から無数の黒い折り鶴が湧き出し、私たちの足元を埋め尽くしていく。

パニックに陥る私たちを乗せたまま、エレベーターは再び動き出した。目的の階に到着し、扉が開くと、あれほどあった黒い折り鶴は、跡形もなく消えていた。
ただ、佐伯さんの足元に、一羽だけ、ぽつんと残されていた。

翌日、佐伯さんは行方不明になった。彼女の部屋はもぬけの殻で、リビングのテーブルの上には、黒い折り鶴が一つ、置かれていただけだったという。

ひまわり会は、自然消滅した。誰もが、あのマンションから逃げるように去っていった。私も、ようやく新しい住まいを見つけ、引っ越しの準備をしていた。
荷造りを終えた段ボールの山を眺めていると、郵便受けに何かが投函される、カタン、という小さな音がした。
見に行くと、床に一通の封筒が落ちている。差出人の名前はない。

震える手で封を開けると、中からひらりと落ちてきたのは、手のひらサイズの、黒い折り鶴だった。
その瞬間、私のスマートフォンの画面が、ふっと暗転した。
真っ黒な画面。その中央で、以前よりも少しだけ大きくなった白い点が、ぼんやりと光っている。
それは、点ではなかった。
こちらをじっと見つめる、小さな、小さな、瞳だった。

私は理解した。
「つぐない」に終わりはない。ただ、順番が回ってくるだけなのだ。
私の背後で、誰もいないはずの部屋の隅から、カサリ、と紙が擦れる音がした。
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