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塚口悠良

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#8. 角砂糖

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 甘いものは苦手だった。喉が焼けるような気がして嫌いだ。でも、キミは甘いものが大好きで、飲み物もうんと甘くしていたね。私の家に砂糖類が全然ないことに驚いていたから、慌てて角砂糖とシュガーポッドを買った。とりあえず間に合わせで買ったから、後から気に入ったのを探す約束をした。
 私は嫌いなものが多くて、キミはなんでも好物だった。キミが作ってくれる料理はどれもほんとに美味しいのに、全部食べられないのが申し訳なくて、いつも謝っていた。そんな私にキミは優しく微笑んでくれた。美味しいと思うものだけ食べていいって言ってくれた。
 
 キミと過ごすようになってしばらくしたら、時々シュガーポッドの中身を確認する癖がついた。キミはどうしてか私の身の回りのものには気が払えるのに自分のものには無頓着で、いつもシュガーポッドを空にして慌てていた。だから、私の方が気にするようになってしまったんだ。
  キミと一緒に囲む食卓は凄く温かくて、キミが作ってくれる食事がとても美味しくて、嫌いだったものが少しだけ好きになったり、食べられることに気付いたりもした。私が嫌いだと言ったものも一度だけ作ってみて食べさせてくれた。もしかしたら食べられるようになっているかもよ、って。きっとキミにとってすごく手のかかる恋人だったと思う。本当に、感謝している。
  それなのに、今の私は減りもしないシュガーポッドを何度も確認している。お皿に残した嫌いなものも減っていってはくれない。その事実は変わらないし、頭では理解しているはずなのに、やっぱり分からないみたいだ。
 キミがくれたたくさんの彩りが突然、人生から消え去ってしまった。あまりにも急すぎて、まだよく分からないんだ。だけど、無情にも時間は過ぎていってしまう。キミのいない世界に少しずつ慣れていってしまう。キミの居ない世界なんて、なんの意味もないと思っていたのに、私はそれでも生き続けている。
 じわじわと、だけれど確実に、一人で生きていけるようになっていく自分が怖かった。キミがいないと生きていけないんだ。ほんとは。なのに、どうして。私は、どうしてこんなにも薄情に、のうのうと生きているんだ。どうして。どうして。
 
 ある日、キミの部屋の掃除をすることにした。キミが置いていったたくさんのものを、ひとつも無くしたくなかったから触れないようにしていたけれど、部屋に風を入れないとダメになってしまうものもあるかもしれない。窓を開けてホコリを払って掃除機をかけて。ひとしきり掃除をしたあと、デスクの上に出っぱなしになっているノートが目に付いた。えらく使い込まれているノートで、表紙には「お料理ノート」と書かれていた。久しぶりに見たあの子の字に涙が滲む。中を確認するとこと細かくレシピが書かれていた。あまり上手じゃないイラストとカラフルな文字は私には少し鮮やかすぎるけど、私が美味しいと言った料理には花丸がついていたり、私が食べられなかったものの改善案が作られていたりした。あの子が一生懸命頑張っていた姿が目に浮かんで、背中を、押された気がした。
  あの日から立ち止まっていた私をそっと前に進めてくれた。キミがいない世界はやっぱり寂しいけれど、このままじゃあキミに心配ばかりかけてしまう。今すぐには無理かもしれないけど、少しずつ、少しずつ、歩けるように頑張るから。あと少しだけ、私のことを見守っていてくれないかな。
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