【完結】※R18 熱視線 ~一ノ瀬君の瞳に囚われた私~

キリン

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ようやく捕まえた。その1 〜一ノ瀬君side〜

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「貴女を逃がす気などさらさらないので、おとなしく一生俺に囚われていて下さいね」

我ながらかなり重い発言だったと思う。漸く彼女を手に入れる事ができて調子に乗っていたのだ。

ドン引かれるのを覚悟していたのに、彼女の反応は違った。彼女は頬を赤く染め、照れたように笑ったのだ。

「…元々逃げる気なんてないもの」

そう小さく呟きながら。



***



彼女、城戸きど 真緒まおさんは、同じ部署の先輩だ。

入社年次でいえば6期上。
俺は修士卒で彼女は学部卒だから、学年でいえば4つ上。

彼女はよくこの学年基準を持ち出すが、俺的には納得がいかない。何故なら俺の誕生日は学年で一番早い4月2日で、真緒さんは一番遅い4月1日だからだ。

実質三年しか変わらないっての!
マジで誰だよ!学年の分け目を4月2日に決めやがった奴!何で4月に入ってんのに1日は一つ上の学年なんだよ!お陰で彼女に4つ下だと思われてるじゃねーか!


今思えば失礼極まりない話だが、彼女の第一印象は『中の上』だった。

顔のパーツはあるべき場所にはあるのだが、パーツ自体が控えめというか小作りで華やかさに欠ける。よく見れば美人?といった感じ。身長も平均的だし、胸もかなり慎ましい。

無論、それは昔の俺が彼女の素晴らしさを理解していなかっただけで。今の俺にとっては『上の上』。いや『特上』だ。
品よく楚々とした顔を地味だと勘違いしてただけだし。胸が慎ましいのだって、体自体が折れそうな程華奢なのだから仕方ない。

因みに昔は巨乳好きだった俺だけど、今は微乳こそが正義で巨乳は悪だと思っている!


(俺にとっては世界一魅力的な女性だけど)一般的にみたら、それ程際立った容姿をしているわけではない彼女だが。実はかなりモテる。
あの理知的な瞳と、一度も染めた事がなさそうな艶やかな黒髪が醸し出す色気にあてられる男が多いのだ。

仕事がデキるのもポイントだろう。
彼女の仕事ぶりは真摯で丁寧。どんなトラブルが起きても動じず、冷静に的確な判断が下せる度量を持ち合わせている。それでいて、それを鼻にかける事なく、常に周りを立てているのだから、モテない訳がない。
そんな素晴らしい女性だから、彼女と仕事で関わった人間は、老若男女問わず、皆彼女に好感を抱くのだ。

…女性はともかく。老いも若きも邪な気持ちで彼女に近付く野郎は、滅びてしまえばいいと思う。俺以外、全員地球上から消え失せろ!



そんな憤りを隠せない俺、一ノ瀬いちのせ 駿しゅんの人生は、これまでかなりイージーモードだった。

自分で言うのもなんだが、俺は可愛い容姿をしている。
母親似の大きな瞳。それを縁取る無駄に長い睫毛。他のパーツも全てあるべき場所に、あるべき形である。その上色素が薄いから、もし俺が女として生まれていたら”千年に一度の美少女”などと騒がれていたかも知れない。

まあ実際には男として生まれてきた訳で。母親似の顔も、170センチにギリギリ届かなかった身長も、筋肉が付き辛い体も、全く有難くない。
何より、男なのに『可愛い』と連呼されるのは、かなり微妙な気持ちになる。


しかし、これまでの人生。この容姿のお陰で得してきたのもまた事実だ。

俺は幼い頃から家族は勿論、周囲の人達にとても可愛がられてきた。
母性本能を擽られるのか。老いも若きも女性達は皆こぞって俺の世話を焼きたがった。近所のおばちゃんや商店街のおばちゃん達は、いつも食べきれない程おやつをくれたし、学校の先生も、俺が何かで結果を出すと結果以上に評価をしてくれた。
同級生の女子達も同じ。皆競うように俺の世話をやきたがったし、俺が甘えるようにお願いすれば、大抵の事は叶えてくれた。

皆に可愛がられ、甘やかされてきた俺は、自分の容姿に対する認識も早かった。小学校に入る頃には既に自分の容姿がいい事を自覚していたし、更に可愛がられる術を習得していた。

そうして俺は、自分の容姿を最大限フル活用して、今まで何不自由ない人生を過ごしてきたのだ。


社会人になっても、それは変わらないと思っていた。
俺は元々器用で要領がいいから、この愛嬌のある笑顔と愛想の良さをもってすれば、会社の人達にも可愛がられ、上手くやっていけると高をくくっていた。
まあ実際に、それは事実でもあったのだが。1人だけ、俺の教育係トレーナーだった彼女にだけは通用しなかった。

女性は大抵俺に関心をもつ。例え俺が好みのタイプでなくてもだ。だが彼女は俺に全く関心がなかった。多少打ち解けた方がやり易いだろうとランチや飲みに誘っても、全て空振り。それどころが逆に警戒され、距離をとられた。
人生史上。あれ程つれない態度を取られた事はない。常にチヤホヤされてきた俺にとって、彼女の態度は衝撃的だった。

多分あの頃には既に、俺は彼女に惹かれていたのだと思う。だが、あまりの素っ気無さに、それ以上こちらから距離を詰めようとは思わなかったのだ。
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