【完結】※R18 熱視線 ~一ノ瀬君の瞳に囚われた私~

キリン

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ようやく捕まえた。その8 〜一ノ瀬君side〜

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チェックインを済ませてエレベーターに乗り込んだ時、俺は彼女宛ての書類を課長から預かってきた事を思い出した。
それを別れ間際に彼女に伝え、できたら今晩中に俺の部屋まで取りに来て欲しいと言った。

俺はもう彼女を逃がすつもりはなかった。 
今夜こそ、何があっても必ず彼女を捕まえる。彼女をあんな奴には渡さない。
俺はそう固く心に誓っていた。


彼女が纏めて手配してくれたおかげか、ホテル側の好意か、宿泊する部屋は四人全員同じフロアだった。

俺は部屋の中央に置かれたベッドに腰を下ろし、どうやって彼女を手に入れるか思案していた。
本音を言えば、強引に押し倒して無理やりにでも抱いてしまいたい。
けれど俺が欲しいのは彼女の体だけじゃない。心も欲しいのだ。やはりここは慎重になって、もう少し時間をかけるべきか?…だが、そんな悠長な事をしていたら、あの男に出し抜かれるかも知れない。

悶々としていると、LINEの通知音がした。ポケットからスマホを取り出して確認すると「早いとこ城戸を捕まえとけ!あの人は明日動くつもりらしいぞ」というメッセージが間嶋さんから来ていた。
あっちは明日動くつもりなのか。だとしたら、やはり今夜しかない。
焦燥感を覚えながら、俺は間嶋さんに「有難うございます。善処します」と返信した。


返信メッセージを打ち終えた時、部屋のドアがノックされて「一ノ瀬君。城戸だけど」と彼女の声がした。
俺は急いでドアを開け、彼女を出迎えた。

「早っ!もう来たんですか?じゃあ今出しますね、…って、その書類、キャリーケースの一番奥に入ってるんですよ。取り出すのに少し時間がかかると思うんで、中で待っててもらってもいいですか?」

まだ荷物に手をつけてないのも事実だったが。俺は手っ取り早く彼女を捕獲しようと、巣に引き摺りこもうとしたのだ。
だが、流石の彼女もの部屋に入るのは抵抗を覚えたのか、即座に断られた。まあ当然っちゃ当然なのだが、そのつれない態度に自ずと顔が強張った。
すると彼女は心配そうに俺の顔を覗き込み、疲れてそうだから今日は早く寝なねと言って踵を返した。

――ちょっと待ってくれ!俺には今夜しか残されてないんだ!

焦燥に駆られた俺は、とっさに彼女の腕を掴んだ。彼女は怪訝な顔で振り返り、何の用だと俺を見る。何か言わなければと焦りが募り、苦し紛れに口から出たのは、彼女の淹れたコーヒーが飲みたいという、何とも間抜けな言葉だった。

彼女はキョトンとした顔で俺を見ていた。俺自身かなり無理がある言い分だとは思ったが、今更訂正する訳にもいかない。俺は少しでも不自然さを打ち消そうと、尤もらしい言い訳を並べてみた。

俺の頓珍漢な発言に呆気に取られていた彼女だったが、突然ケタケタと声を上げて笑い出した。

「よく分からないけど、美味しいコーヒーが飲みたいんだよね?だったら、私がそこのコンビニで買っててくるよ。最近のコンビニコーヒーは結構美味しいのよ?ちょっと待っててね」

彼女は悪戯っ子のように笑い、財布を取り部屋に戻ろうとした。

――えっ!?いや、そういう意味じゃ…。
それじゃ意味がないから!っていうか、こんなほろ酔い機嫌の彼女を1人で買い物になんか行かせられるか!変な男に絡まれたらどうするんだ!

「あっ、ちょっと待って下さい。城戸さん。実は俺、コンビニのコーヒーとか、専門店のコーヒーとかより、インスタント派なんです。コスパもいいし、濃さも調整できるし、最高じゃないですか。特に部屋にある銘柄が好きなんで、城戸さんに淹れて貰えたらなって」

俺は彼女が買い物に出るのを阻止するべく、更に無理がある言葉を並べた。彼女は理解不能といった顔で俺を見ている。いや、俺も理解不能だから。マジで何言ってんだ、俺?苦し過ぎるだろ。

暫く呆気に取られていた彼女だが、ハッと我に返ると「…もしかして一ノ瀬君て、ものすごく残念なバカ舌なのかも?」と失礼な事をブツブツ呟いて、どうにか納得していた。
……え?これで納得しちゃうの?チョロすぎじゃね?心配になるわ。

「そこまで言うなら。じゃあ、少しだけお邪魔するね」

彼女は俺の部屋に入り、俺の希望通り、コーヒーを淹れてくれた。
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