【完結】※R18 熱視線 ~一ノ瀬君の瞳に囚われた私~

キリン

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番外編 逃がさないけどね ~一ノ瀬君side~ その8

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どうやら俺は、昨晩少々飲み過ぎたらしい。いつの間にか寝落ちしていたらしく、寒さで目が覚めると床で寝ていた。おかげで体があちこち痛い…。

よく風邪をひかなかったもんだと自分の免疫力に感心しながら体を起こすと、隣には可愛い彼女ではなく、むさ苦しい男が高鼾をかいて寝ていた。

よろよろと立ち上がり、ヘリコプターのようないびきをかいて爆睡しているヤマケンを跨いで、窓の前まで移動する。閉じられたカーテンを開けると、空は紫陽花色で覆われ、通りの向こうにあるビルだけが、照明スポットライトを当てられたかのように際立っていた。

(眩しいな…。てか、今何時だ?)

体内時計が狂っているのか。眼前の光景が『朝焼け』なのか、『夕焼け』なのか、判断がつかない。とにかく時間を確認しようと床に落ちているスマホを拾い上げ、液晶画面に触れる。すると17時45分と表示された。

「げっ!マジか」

思わず目を疑った。いくら飲み過ぎたとはいえ、半日以上寝こけていたのだ。そりゃ、体も痛くなる訳だ。

俺の声に反応したヤマケンが「どうした?」と寝ぼけ眼で訊いてきた。俺が「何でもない」と答えると、ヤマケンは不機嫌そうに眉根を寄せて「だったら静かにしろ。俺はまだ眠いんだ」と言って、再び夢の世界へと戻っていった。


スマホ近くに落ちていた財布と家鍵を回収しながら、俺は彼女を思った。

一晩経ち、冷静さを取り戻すと、自己嫌悪の波が押し寄せる。
自分にもあるように、彼女には彼女の付き合いがある。そう頭では理解しているつもりだった。きっと昨晩アイツと飲んでいたのだって、彼女が言った通り、偶然再会した同級生と旧交を温めていただけなのだ。楽し気に話していたのだって、昔話に花が咲いていただけ。
それなのに狭量な俺は、それすら我慢ならなくて暴走した。

まるで子供だ。ヤマケンの言うように、俺ってこんなキャラだったっけ?と自嘲的な笑みが零れた。

理屈もへったくれもなく、ただ単に嫌だったのだ。
仕事ならまだしも、プライベートで、俺以外の男が彼女に触れる事が。
他の男の前で、彼女が『素』を見せた事が。
彼女がアイツをあだ名で呼んだ事が。アイツが彼女を下の名前で呼び捨てにした事が。
アイツが俺の知らない昔の彼女を知っていると思うだけで、どうしようもないくらい腹が立ったのだ。


……こんな子供染みた真似を晒した後すぐに距離を空けるのは、完全な悪手だったのではないか?

このまま彼女に捨てられるかも知れない。そんな不安が頭を過ると、胃の辺りをギュッと締め付けられるような感覚を覚えた。

例え彼女に別れを切り出されても、受け入れる気など毛頭ない。けれど、彼女はあれでいてかなり頑固だ。彼女が一度別れると決めたら、きっと簡単には翻さないだろう。もしそうなってしまったら、俺がどんなに説き伏せようが、言い縋ろうが、取り付く島もないに違いない。失望されるだけならまだしも、軽蔑される可能性すらある。

どう思われようと構わないが、軽蔑だけはされたくない。彼女に軽蔑されるくらいなら、きっと俺は別れを受け入れてしまうだろう…。

そんな不吉な予感を振り払うように、俺は大きくかぶりを振った。
こんなネガティブなのは俺らしくない。少なくとも昨夜の時点では、彼女の気持ちは俺にあった筈だ。それにまだ彼女に捨てられると決まったわけじゃない。
「諦めたらそこで試合は終了ですよ」と某有名スポーツ漫画に出て来る名言を小さく呟き、俺は自分を鼓舞した。

家に帰って風呂に入り、酒が抜けたら、彼女に会いに行こう。会って謝ろう。そう決めて、俺はスマホと家鍵をパンツの後ろポケットにつっこみ、未だ夢の中のヤマケンに礼を言って、家路を急いだ。
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