アラフォー幼女は異世界で大魔女を目指します

梅丸みかん

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第二章 大魔女の遺産

50, 【閑話】地圏の大魔女の独白②

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 とうとう妾の復活が、世間に知れ渡ってしまったようじゃな。
 もっとも、今のところ知るのはエアーレイ王国の王族と、その身近な者どもに限られておるようじゃが。

 じゃが、情報というものは一度誰かの手に渡れば、必ずどこからともなく広がるものじゃ。
 情報とは水のごときものじゃ。

 一度漏れ出せば、岩の隙間を伝い、どこへでも広がる。たとえ口を噤んだままであろうとも、その者の眼差し、挙動、わずかな躊躇の色が、勘の良き者には何より雄弁に告げるものじゃ。

 ――まあ、だからといって妾にどうこうできるものでもあるまい。
 なにより、ミカの機転であの王子アドニスには森にも塔にも干渉せぬよう釘を刺してくれたし、遺産についても「めぼしいものはない」と世間に公表してもらえたのは僥倖じゃった。

 これで無闇に森が荒らされることもないじゃろう。

 それにしても気になるのはディースラ帝國の動きじゃな。
 呪紋……しかも人に施すとは。

 まったく、あやつらは正気ではない。妾が封印される以前にも、呪紋はごく限られた魔法師が秘密裏に用いておった。
 じゃが、それは器や武具に刻む程度のもの。人の肌に彫るなど、怖ろしすぎて誰も手を出さなんだ。

 ……いや、怖ろしいからこそ、あやつらはやるのじゃな。
 帝國の連中は昔から卑劣でのう。人が一線を越えぬところを、平然と踏み越えて見せる。まるで「どうだ、我らは他とは異なるぞ」と誇っているかのようじゃ。

 奴らは自分らを神か何かだと勘違いしているようじゃった。

 思えば、五百年前、妾が封印された時も帝國が裏で糸を引いておったのは明らかじゃった。表向きに妾を封じたのはこの国の王族。

 じゃが、和平の名の下に嫁いできた帝國の皇女――あやつが耳元で囁き、焚きつけたのじゃろう。まったく、女の色香に転ぶとは王族の癖に意志の弱いことよ。
 妾は封印される直前、最後の力を振り絞り呪言を放った。


 ――「妾を封じたからとて安心するでない。もしこの国に牙を剥けば、帝國の大地は枯れ果て荒野となろう。ゆめゆめ忘れぬことじゃ」

 いやはや、今思えば随分と格好をつけたものじゃ。あれでも妾は必死じゃったのじゃぞ。実際には数十年ほどしか効力は持たなかったはずじゃが。

 それでも「地圏の大魔女」の言葉とあれば、ただの脅しも真実味を帯びて聞こえる。おかげで帝國はこの国に長らく手を出せなかったようじゃ。

 百年ほど前、封印の枷がわずかに緩み、妾の思念だけを飛ばせるようになった時、この国の空に戦の煙はなく、人々は穏やかに暮らしておった。妾は心底安堵したものよ。

 じゃが、どうやら帝國は再びこの国を侵略しようとしているらしい。五百年前の呪言がとうに色褪せたことを察したのじゃろう。

 まあ、この国にはミカがおるから心配なかろうが。
 妾はなるべく手を出さないようにしよう。

 いずれ“気圏の大魔女”と呼ばれるであろう存在じゃ。
 あやつの機転と成長を思えば、妾があえて手を出すまでもあるまい。……いや、正直に言えば、手を出せば出したで止まらぬやもしれんのよ。

 帝國への恨みがよみがえり、大地ごと飲み込んでしまいそうでな。
 いや、今はそれほどの力はないじゃろうが……
 まあ、たとえ妾の魔力なら力の残滓だったとしても,.、大地を裂く程度はできるやもしれぬな。


 さて、ミカのことじゃが、あやつはまだ己を未熟だと信じ込んでおる。
 “気圏の大魔女”の素質を持ちながら、自分はせいぜい魔女の見習いだとでも思っておるのじゃ。
 おかしいやつよ。己の力に気づかぬ者ほど強大な力を持つのは、古よりの理よ。

 いずれにせよ、妾の人形の呪いが解けるまでは楽しめそうじゃ。
 たとえ不穏な出来事が起ころうとも、何事も起こらぬよりはよほど愉快じゃ。


 退屈ほど味気なきものはない。むしろ、苦難を越えてこそ人生は輝きを増す。妾はそう信じておる。
 もし帝國が再び牙を剥くのであれば、それもまた一興。
 ミカにとっては試練であり、妾にとっては退屈を紛らわせる好機。

 ――さてさて、これからどんな騒ぎになるやら。
 妾はこの小さな人形の体で、茶を啜りながらのんびりと見物させてもらおう。
 退屈せぬ日々ほど、贅沢なものはあるまいからな。

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