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第一章 塔の上から見た異世界
49, 冒険者たちの噂話
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「ミカ? ああ、ミカ、元気だったかい?」
フィアさんは、私の姿を目に止めると柔らかな笑みを浮かべた。
「はい、人形返してもらいました。ほらっ」
フィアさんに向けて人形を掲げてアピールする私。
「よかった、あれから全くミカのこと見なかったから心配してたんだよ」
「心配かけてすみません。でも、大丈夫です。さっき、町を歩いていたら騎士様に呼び止められて、領主様のお城に案内されたんです……領主夫人はとても優しい人だったし、お菓子もお土産にもらっちゃいました」
私はフィアさんを安心させるため、にこやかに報告した。
「ふーん、エレクの言っていた通りだったな」
「エレクさん? なんか言ってたんですか?」
「ああ、カーラ様が人形の持ち主を探しているって聞いたんだ。そうか、どんな心境の変化か知らないが返ってきたならよかったな」
心境の変化……さすがに、師匠が自ら呪い人形になって迫ったとは言えないよね。
私は「そうですね」と短く答えることにとどめた。
「ちょっと夕飯には早いけど、よかったらご飯食べていくかい? これから出勤なんだ。よかったら一緒に行こう。調理長に頼めばすぐに作ってくれると思うんだ」
「あの、よかったら持ち帰りとかできますか?」
「そうか、ミカは親戚の家に引き取られたんだったな。多分大丈夫だ。料理長に頼んでみよう」
親戚じゃなくて本当は師匠の家なんだけど、そんなことは言えるはずもなく私は黙って頷いた。
「まほろば亭」に行くと、もうお客さんが来店しているのが見えた。
「へぇ、めずらしいこともあるもんだ。こんなに早く冒険者たちがいるなんてね。ミカ、料理長になんか持ち帰りできる料理を頼んでみるからそこに座って少し待ってて」
私はフィアさんの言う通り、空いた席に腰掛けて待つことにした。
ふと、奥の席に目を向けると、座っているのは四人組の冒険者たちだった。
彼らの声が、耳に届く。
「いやぁ、それにしても”疾風の黒豹”はやるな。あの魔獣を仕留めたってんだからな」
「”一角玄虎”だろ? あんなの、普通のパーティじゃ近づくこともできねぇよ」
「”魔獣の森”で、ってのがまたすげえよな。地図もろくにない場所だろ、あそこ」
「ほんと、夢でもいいから討伐してみたいもんだぜ、一角玄虎ってやつを」
――疾風の黒豹。一角玄虎。魔獣の森。
その中の一つの言葉が頭に引っかかった。
”一角玄虎”って……あれ、もしかして――ゲンの母親のことかも……
もしそうだとしたら、ゲンの母親はやっぱり殺されたんだろう。
冒険者たちの噂話はさらに続く。
「それに、あの”エアデの塔”には大魔女の遺産が眠っているって話じゃないか」
「まあ、でもどうせあそこまで辿り着けるのはS級冒険者ほどの腕が必要だろうがな」
「それでも、森に入ればそれなりの素材は手に入るだろう?」
「違いねぇ」
”エアデの塔”――?
私はその言葉が気になった。
聞いたことのない名称。
でも冒険者たちは魔獣の森の話をしているよね。
ということは……冒険者たちが話に出てきた”エアデの塔”や”大魔女の遺産”って、もしかして……。
……私は背筋がひやりと冷えるのを感じた。
まさか――私と師匠が住んでいるあの塔のことじゃないよね?
だとしたら、”遺産”というのは師匠が作ったあの薬たちかガラクタのような魔導具?
それとも壺貯金?
ああ、もしかして塔自体が遺産なのかも……
『ミカ、心配するでない。あんなことを言っているが、たとえS級冒険者とて塔には近づけまい』
私が思考の渦に沈んでいると、不安そうに見えたのか師匠の宥めるような念話が私の耳に届いた。
「ミカ、お待たせ~料理長が色々作ってくれたよ。これ、持っていきな」
少しすると、両手いっぱいに料理が入った袋を抱えるフィアさんの声が聞こえた。
さっきの冒険者の言葉なんて吹き飛びそうなくらい朗らかな笑顔を携えて……
「すごいたくさん、あの、こんなに食べられないと思うんだけど」
「ミカを引き取ってくれたという親戚の分もあるからね。もちろん、お金はいらないよ」
「えっ? そんなわけには……だって、この前もご馳走になったのに」
「問題ないよ。料理長がそう言ったんだ」
「ありがとうございます。フィアさん」
見た目子供の私にいつも親切にしてくれるフィアさんに感謝。
今度来る時は何かお礼を持ってこようと心に誓った。
こうして師匠の本体は無事解放され、漸く森の中のあの塔に戻ることにした。
きっとゲンがお腹を空かせて私のことを待っているだろう。
それにしても、冒険者が話していたことが気になる。
その話の内容からすると今後、森に足を踏み入れる人が増えてくる可能性がある。
塔まではそう簡単に辿り着けないだろうけど、森が荒らされるのは看過できない。
まあ、師匠がいるから何とかなると思うけど……
私は塔に帰ったらそのことについて師匠と相談しようと頭の片隅にメモしたのだった。
フィアさんは、私の姿を目に止めると柔らかな笑みを浮かべた。
「はい、人形返してもらいました。ほらっ」
フィアさんに向けて人形を掲げてアピールする私。
「よかった、あれから全くミカのこと見なかったから心配してたんだよ」
「心配かけてすみません。でも、大丈夫です。さっき、町を歩いていたら騎士様に呼び止められて、領主様のお城に案内されたんです……領主夫人はとても優しい人だったし、お菓子もお土産にもらっちゃいました」
私はフィアさんを安心させるため、にこやかに報告した。
「ふーん、エレクの言っていた通りだったな」
「エレクさん? なんか言ってたんですか?」
「ああ、カーラ様が人形の持ち主を探しているって聞いたんだ。そうか、どんな心境の変化か知らないが返ってきたならよかったな」
心境の変化……さすがに、師匠が自ら呪い人形になって迫ったとは言えないよね。
私は「そうですね」と短く答えることにとどめた。
「ちょっと夕飯には早いけど、よかったらご飯食べていくかい? これから出勤なんだ。よかったら一緒に行こう。調理長に頼めばすぐに作ってくれると思うんだ」
「あの、よかったら持ち帰りとかできますか?」
「そうか、ミカは親戚の家に引き取られたんだったな。多分大丈夫だ。料理長に頼んでみよう」
親戚じゃなくて本当は師匠の家なんだけど、そんなことは言えるはずもなく私は黙って頷いた。
「まほろば亭」に行くと、もうお客さんが来店しているのが見えた。
「へぇ、めずらしいこともあるもんだ。こんなに早く冒険者たちがいるなんてね。ミカ、料理長になんか持ち帰りできる料理を頼んでみるからそこに座って少し待ってて」
私はフィアさんの言う通り、空いた席に腰掛けて待つことにした。
ふと、奥の席に目を向けると、座っているのは四人組の冒険者たちだった。
彼らの声が、耳に届く。
「いやぁ、それにしても”疾風の黒豹”はやるな。あの魔獣を仕留めたってんだからな」
「”一角玄虎”だろ? あんなの、普通のパーティじゃ近づくこともできねぇよ」
「”魔獣の森”で、ってのがまたすげえよな。地図もろくにない場所だろ、あそこ」
「ほんと、夢でもいいから討伐してみたいもんだぜ、一角玄虎ってやつを」
――疾風の黒豹。一角玄虎。魔獣の森。
その中の一つの言葉が頭に引っかかった。
”一角玄虎”って……あれ、もしかして――ゲンの母親のことかも……
もしそうだとしたら、ゲンの母親はやっぱり殺されたんだろう。
冒険者たちの噂話はさらに続く。
「それに、あの”エアデの塔”には大魔女の遺産が眠っているって話じゃないか」
「まあ、でもどうせあそこまで辿り着けるのはS級冒険者ほどの腕が必要だろうがな」
「それでも、森に入ればそれなりの素材は手に入るだろう?」
「違いねぇ」
”エアデの塔”――?
私はその言葉が気になった。
聞いたことのない名称。
でも冒険者たちは魔獣の森の話をしているよね。
ということは……冒険者たちが話に出てきた”エアデの塔”や”大魔女の遺産”って、もしかして……。
……私は背筋がひやりと冷えるのを感じた。
まさか――私と師匠が住んでいるあの塔のことじゃないよね?
だとしたら、”遺産”というのは師匠が作ったあの薬たちかガラクタのような魔導具?
それとも壺貯金?
ああ、もしかして塔自体が遺産なのかも……
『ミカ、心配するでない。あんなことを言っているが、たとえS級冒険者とて塔には近づけまい』
私が思考の渦に沈んでいると、不安そうに見えたのか師匠の宥めるような念話が私の耳に届いた。
「ミカ、お待たせ~料理長が色々作ってくれたよ。これ、持っていきな」
少しすると、両手いっぱいに料理が入った袋を抱えるフィアさんの声が聞こえた。
さっきの冒険者の言葉なんて吹き飛びそうなくらい朗らかな笑顔を携えて……
「すごいたくさん、あの、こんなに食べられないと思うんだけど」
「ミカを引き取ってくれたという親戚の分もあるからね。もちろん、お金はいらないよ」
「えっ? そんなわけには……だって、この前もご馳走になったのに」
「問題ないよ。料理長がそう言ったんだ」
「ありがとうございます。フィアさん」
見た目子供の私にいつも親切にしてくれるフィアさんに感謝。
今度来る時は何かお礼を持ってこようと心に誓った。
こうして師匠の本体は無事解放され、漸く森の中のあの塔に戻ることにした。
きっとゲンがお腹を空かせて私のことを待っているだろう。
それにしても、冒険者が話していたことが気になる。
その話の内容からすると今後、森に足を踏み入れる人が増えてくる可能性がある。
塔まではそう簡単に辿り着けないだろうけど、森が荒らされるのは看過できない。
まあ、師匠がいるから何とかなると思うけど……
私は塔に帰ったらそのことについて師匠と相談しようと頭の片隅にメモしたのだった。
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