バイト先の先輩ギャルが実はクラスメイトで、しかも推しが一緒だった件

沢田美

文字の大きさ
2 / 30

校舎裏、告白かと思ったら“推し活デート”でした

しおりを挟む
「有馬くん、もう上がっていいよ。あと、今日クレーマー対応できなくてごめんね」

 事務所の奥で、店長が申し訳なさそうに頭を下げた。
 僕は「全然大丈夫です」とだけ返し、軽く会釈して事務所を出る。
 心に引っかかっているのは――あのクレーマーのことじゃない。
 白瀬さんが、僕と同じ学校……しかも同じクラスかもしれないという事実。それだけだ。

 ※

 翌朝。
 まだ教室はガランとしている時間帯、僕は早めに登校してラノベを開いていた。
 視線は文字を追っているが、頭の中は昨日の出来事でいっぱいだ。
 ――同じクラスなら、改めてお礼を言わなきゃ。それに……いろいろ話したい。
 本の表紙を指先で撫でながら、どんなふうに声をかけるかを何度もシミュレーションする。
 完全に“白瀬さんのこと”で脳内が埋め尽くされていた。

「お! 一番乗りだぜ!」

 勢いよく教室のドアが開き、陽キャ男子たちがぞろぞろ入ってくる。
 和気あいあいとした笑い声に、僕は慌ててラノベを再び開いた。
 ――よりによって今!? もう少しだけ考える時間が欲しかったのに!

「ちょっと司(つかさ)~、一番乗りじゃないじゃん。あそこに一人いるし!」

 女子の明るい声と、男子の笑い声。
 ……待て。今の声――陽キャ女子。じゃあ、まさか――。

「なーに見てんの?」

 頭上から降ってきた、柔らかくてどこか茶目っ気のある声。
 聞き覚えのある響きに、僕は思わず変な声を出し、その場で椅子ごと転げ落ちた。

「おはよ、有馬っち」

 顔を上げれば、銀色の髪が朝日を受けてきらりと光る。耳には小さなピアス、青灰色の瞳が穏やかに笑っていた。
 改めて――やっぱり綺麗な人だ。
 心臓が、変なリズムで跳ねている。

「あー、紗良が男の子いじめてる~」

 別の女子が近づいてきて、からかうように声を上げる。

「ごめんごめーん……えーっと、名前なんだっけ?」

 困ったように僕を見る女子。
 ――まぁ、覚えられてないよな。僕はクラス内ステルススキル全振りだから。
 そこで白瀬さんが、少し意地悪そうな笑みを浮かべた。

「ねぇ、有馬っち、私の友達に自己紹介してみてよ」

「じ、自己紹介!?」

 ――何言ってんだこの人!? 僕が陽キャグループ相手に自己紹介!? しかも楽しそうに笑ってるし!?
 おそるおそる立ち上がり、その女子の前に立つ。
 やるしか……ない。

「あ、有馬蓮でふ! このクラスの人間で、けっして怪しいものでないでしゅ!」

 ……終わった。自分でもわかる、全力でキモい自己紹介だった。
 頭を深く下げたまま、これで平穏な学園生活は終了だと悟る。

「紗良!」

「なに?」

「この子めっちゃ面白いじゃん!」

「でしょー?」

 ……え? 面白い?
 恐る恐る顔を上げると、その女子――須藤(すどう)さんは笑顔で手を差し伸べてきた。

「アタシは奏(かなで)、よろぴ!」

「よ、よろぴ?」

「“よろしく”って意味。奏~、有馬っちはなんとうちの元バイト先の後輩なんだよ!」

「マジ? それ超エモいじゃん!」

 須藤さんがはしゃぎ、白瀬さんはドヤ顔を決める。
 ――これ、気に入られたのか? それとも完全にからかわれてるだけ……?

「おーい! 何話してんだよ、売店行こうぜ!」

 陽キャ男子が教室の入り口から手を振る。
 須藤さんは返事をして歩き出し、白瀬さんも続こうとする――その時。

「ねぇ、有馬っち」

 振り返った白瀬さんが、小声で囁く。

「放課後、校舎裏に来て」

「――ッ!? え? えええ!?」

「待ってよ奏、私も行くから」

 僕の混乱を置き去りに、白瀬さんは軽やかに教室を出て行った。
 ……な、なんだ今の。校舎裏に放課後って……告白? いや違う違う、恐喝だ恐喝!

 ※

 放課後のチャイムが鳴る。
 ――お金、いくら持ってきたっけ。
 財布を確認すると三千円。ラノベの新刊を買う予定だったが……これも“お礼代”だと思えばいい。
 渡り廊下を抜け、靴を履き替え、薄暗い校舎裏へ。
 影が長く伸びるその場所には、まだ誰もいない。

「……帰るか」

 小さく呟き、踵を返しかけたその時――。

「先に来てたんだね。私が先を越されちゃうなんて」

 前方に立つ白瀬さん。いつもの賑やかな取り巻きはいない。
 柔らかな笑みを浮かべたその表情に、一瞬、息が詰まる。
 夕日が白瀬さんの銀髪を照らして、いつもより綺麗に見えた。

「あ、あの!」

「ん?」

「昨日はありがとうございました! 凄く助かりました!」

「助かった? 私、何かしたっけ?」

「いや、昨日変なクレーマーから助けてもらって……すごく嬉しかったです!」

 緊張で早口になる。白瀬さんは少し目を丸くして、それからふっと笑った。

「あー、あれね。気にしないで。私も見てていい気分じゃなかったから」

 その後、二人の間に沈黙が落ちる。
 ――何だ、この空気。妙に胸がざわつく。

「ねぇ有馬っち、なんで私が校舎裏に呼んだかわかる?」

「……恐喝、ですよね!」

「……は?」

「え、違うんですか!?」

「違うかなー? 有馬っち、多分すごい誤解してる」

 白瀬さんが呆れたように笑う。その笑顔に、少しだけ緊張がほどけた。

「じゃあ、何で……」

「今日が何の日か、わかる?」

「――ッ!? ……『ヒーリング』の漫画の新刊発売日!」

「そういうことだよ、ワトソンくん」

 得意げな笑みとともに、白瀬さんは財布を取り出す。
 そこには、『ヒーリング』のケンヤのストラップが揺れていた。

「オタクデートしない? 有馬っち」

 ――デート。
 その単語が頭の中でぐるぐる回る。
 心臓が、さっきよりもっと激しく跳ねた。
 白瀬さんが嬉しそうに笑って、僕の手首を掴んだ。
 ――これって、もしかして。
 僕の青春が、今、始まったのかもしれない。


後書き
モチベーション維持のため、週2回投稿!
投稿時間は夜 21時か22時ごろ!
基本的に火曜日と金曜日に投稿します!
よろしくお願いします!
 
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

小さい頃「お嫁さんになる!」と妹系の幼馴染みに言われて、彼女は今もその気でいる!

竜ヶ崎彰
恋愛
「いい加減大人の階段上ってくれ!!」 俺、天道涼太には1つ年下の可愛い幼馴染みがいる。 彼女の名前は下野ルカ。 幼少の頃から俺にベッタリでかつては将来"俺のお嫁さんになる!"なんて事も言っていた。 俺ももう高校生になったと同時にルカは中学3年生。 だけど、ルカはまだ俺のお嫁さんになる!と言っている! 堅物真面目少年と妹系ゆるふわ天然少女による拗らせ系ラブコメ開幕!!

手が届かないはずの高嶺の花が幼馴染の俺にだけベタベタしてきて、あと少しで我慢も限界かもしれない

みずがめ
恋愛
 宮坂葵は可愛くて気立てが良くて社長令嬢で……あと俺の幼馴染だ。  葵は学内でも屈指の人気を誇る女子。けれど彼女に告白をする男子は数える程度しかいなかった。  なぜか? 彼女が高嶺の花すぎたからである。  その美貌と肩書に誰もが気後れしてしまう。葵に告白する数少ない勇者も、ことごとく散っていった。  そんな誰もが憧れる美少女は、今日も俺と二人きりで無防備な姿をさらしていた。  幼馴染だからって、とっくに体つきは大人へと成長しているのだ。彼女がいつまでも子供気分で困っているのは俺ばかりだった。いつかはわからせなければならないだろう。  ……本当にわからせられるのは俺の方だということを、この時点ではまだわかっちゃいなかったのだ。

恋人、はじめました。

桜庭かなめ
恋愛
 紙透明斗のクラスには、青山氷織という女子生徒がいる。才色兼備な氷織は男子中心にたくさん告白されているが、全て断っている。クールで笑顔を全然見せないことや銀髪であること。「氷織」という名前から『絶対零嬢』と呼ぶ人も。  明斗は半年ほど前に一目惚れしてから、氷織に恋心を抱き続けている。しかし、フラれるかもしれないと恐れ、告白できずにいた。  ある春の日の放課後。ゴミを散らしてしまう氷織を見つけ、明斗は彼女のことを助ける。その際、明斗は勇気を出して氷織に告白する。 「これまでの告白とは違い、胸がほんのり温かくなりました。好意からかは分かりませんが。断る気にはなれません」 「……それなら、俺とお試しで付き合ってみるのはどうだろう?」  明斗からのそんな提案を氷織が受け入れ、2人のお試しの恋人関係が始まった。  一緒にお昼ご飯を食べたり、放課後デートしたり、氷織が明斗のバイト先に来たり、お互いの家に行ったり。そんな日々を重ねるうちに、距離が縮み、氷織の表情も少しずつ豊かになっていく。告白、そして、お試しの恋人関係から始まる甘くて爽やかな学園青春ラブコメディ!  ※夏休み小話編2が完結しました!(2025.10.16)  ※小説家になろう(N6867GW)、カクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、感想などお待ちしています。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

学校で成績優秀生の完璧超人の義妹が俺に隠れて、VTuberとしてネトゲ配信してたんだが

沢田美
恋愛
京極涼香。俺の義妹であり、あらゆる物事をそつなく完璧にこなす、スポーツ万能・成績優秀、全てが完璧な美少女。 一方の俺は普通の成績と並以下の才能しか持っておらず、なぜか妹に嫌悪されている男だ。 しかし、そんな俺にも一つだけ特筆して好きなものがある――それは、とあるVTuberを推しているということだ。 配信者界隈に新星の如く現れた『さすまた』というVTuberは、圧倒的なカリスマで、俺を含めたネット民を熱狂させていた。 しかし、そんな『さすまた』の正体が義妹である京極涼香だということを、俺は知ることになる。 ……そう、これは俺と兄嫌いの義妹による、破滅の物語――という名のラブコメである。

友達の妹が、入浴してる。

つきのはい
恋愛
 「交換してみない?」  冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。  それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。  鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。  冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。  そんなラブコメディです。

処理中です...