バイト先の先輩ギャルが実はクラスメイトで、しかも推しが一緒だった件

沢田美

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好きなモノは一緒

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 僕、有馬蓮は今、窮地に立たされている。
 なぜって? それは簡単、僕はいまクール系ギャルの白瀬さんの部屋にいて、この家には誰もいないからだ。
 この状況、一体どうしたらいいんだ?!
 ことの経緯は単純。僕と白瀬さんが2人で『ヒーリング』の新刊を買った帰り道、彼女から家に誘われたからだ。

「有馬っち、どう? 私の部屋」

 漫画を読んでいる僕の視界を遮るように、白瀬さんは僕の方へ顔を覗かせる。
 僕は必死に視線を動かしながら、白瀬さんとは絶対に目を合わせないようにして言った。

「た、た、たた楽しいです! 白瀬さんの部屋はいい匂いがして、とても良いと思います!!」

 テンパりすぎて意味がわからないどころか、キモいことを言ってしまっていた。
 しかし、白瀬さんはそれを聞くなり「あはは!」と笑った。
 ひとしきり笑うと、僕の名を呼んだ。

「有馬っち、やっぱ良いね! バイト先で有馬っち見つけられてよかったー!」

「ど、どうしてですか? 僕みたいな人間、つまらないだけなのに」

 脳裏によぎったのは、気持ち悪いからという理由で虐められた過去。仲良かった友達から拒絶された、あの凄惨な記憶だった。
 楽しいと思えなかった学校生活……いや、人間関係に辟易していたのに。
 でもどうしてだろう、白瀬さんは違う気がする……そんな気がする。
 僕が『ヒーリング』の漫画を開きっぱなしにしていると、白瀬さんは言った。

「私、初めてだったんだよ。こうやって自分の好きなものを、趣味を共有できるのは」

「え? てっきりそういうのは白瀬さんなら沢山やってると思ってた」

「私こう見えてね~、色々と人に合わせたりしてるからさー。自分の“好き”を友達とかに言ったことないんだ~」

 その言葉を聞いた時、以前彼女が言った『だって、私の趣味なんてあの人たち知らないし、興味ないと思うからさ』という話を思い出した。
 僕は思わず顔をしかめる。一方の白瀬さんは漫画を読みながら寝転がっている。
 でもなぜか、初めての女子の部屋なのに緊張は消え、むしろ居心地の良ささえ感じていた。

「ねぇ、有馬っちはさ、私のことどう思ってんの?」

 そう言って、漫画をベッドに置いた彼女は体育座りしている僕の隣に座る。
 こうして近くで彼女を見ると、どうも胸騒ぎがする。
 綺麗に染められた銀髪とピアス、整った顔立ち。僕は思わず目を逸らしながら口を開いた。

「そ、それは……白瀬さんはこんな僕にも優しく接してくれる人で、なにより――僕にとって初めての大切な友人です!」

「わーお」

 それを言うと、彼女はニヤニヤとした表情をした。
 や、やばい。完全に恥ずかしいことを言ってしまった……絶対に馬鹿にされる! なんなら揶揄われそう。
 僕は思わず彼女から視線を逸らす。
 すると、白瀬さんは優しく僕の頭を撫でてくれた。髪の流れをなぞるように。

「ウケる、わたし初めてだよ! わたしなんかにそう言ってくれる人」

「か、揶揄わないでください……今、自分めちゃくちゃ恥ずかしい……です」

「あはは! 有馬っちはやっぱり可愛い、わたしの後輩だよ」

「後輩って、それバイト先での話ですよね!?」

「それもそうだね~。でも良かった、こうして自分と同じ好きな物を一緒に語れて、買い物もできて、超楽しかったよ!」

 白瀬さんは満面の笑みを僕に見せた。
 それを見た僕は思わずほっこりとした気持ちになる。
 それから、僕は18時ごろまで白瀬さんの家で彼女と話した後、自分の家に帰った。


 
 有馬っちが帰った後、私はベッドに倒れ込んだ。
 天井を見上げながら、さっきまでの会話を思い返す。
 
「はぁ……楽しかった」
 
 思わず声に出してしまう。
 今まで誰にも話せなかった『ヒーリング』の話。ケンヤがどれだけかっこいいか、最新話がどれだけ熱かったか――全部、全部言えた。
 スマホを手に取り、LINEのグループを開く。
 奏や香澄との会話は、いつも流行りの服やカフェ、インスタ映えする場所の話ばかり。
 別に嫌いじゃない。むしろ楽しい。
 でも――どこか、息苦しさを感じていたのも事実だった。
 
「私、いつから"紗良ちゃん"を演じるようになったんだろう」
 
 中学の時、オタク趣味を馬鹿にされたことがある。
 『え、紗良ってそういうの好きなの? 意外~』って笑われて。
 悪気はなかったんだと思う。でも、あの時から――私は自分の"好き"を隠すようになった。
 髪を染めて、ピアスを開けて、みんなが思う"ギャル"になった。
 それで友達も増えて、楽しい毎日が手に入った。
 でも、本当の自分を出せる場所は――なくなってしまった。
 
「有馬っち……」
 
 彼はきっと気づいてない。
 私にとって、彼がどれだけ特別な存在か。
 趣味を共有できる。一緒に笑える。何も隠さなくていい。
 そんな相手に出会えるなんて、思ってもみなかった。
 ベッドから起き上がり、机の引き出しを開ける。
 中には、誰にも見せたことのない『ヒーリング』のグッズたち。
 缶バッジ、ポストカード、アクリルスタンド――全部、こっそり買い集めたもの。
 
「……有馬っちとなら、これからも一緒に楽しめる気がする」
 
 頬が緩むのを感じながら、私はグッズを大切にしまい直した。
 
 ※
 
 次の日のこと。僕は完全に学校に遅刻していた。
 いつも通る道を必死に走りながら学校まで向かう。
 日頃運動をしないせいか、体力はすでに尽きていた。
 そして、校門前の先生に少し注意を受けながら、教室まで走った。

「お! お前も遅刻か?」

 そう言って僕に話しかけてきたのは、白瀬さんと同じ陽キャグループに属している男子だった。

「えっと、俺と話すの初めてだよな! 俺は神楽坂司(かぐらざか つかさ)。よろしく!」

 そう言って、走りながら僕に握手を求めてくる神楽坂くん。
 僕はどうすればいいのかわからず、思わずその手を叩いてしまった。

「はは! なんだよ今の! 予想外すぎてウケる!」

 神楽坂くんはなぜかめいっぱい笑っていた。
 一方の僕はというと、彼がなぜこんなに笑っているのか困惑していた。
 そして、僕と神楽坂くんはチャイムが鳴ると同時に教室へ入った。

「おいお前ら、俺のホームルームで遅刻ギリギリとは……覚悟はできてるんだろうな?」

 あ、終わった……。
 僕と神楽坂くんの前で怒っているのは、担任の前澤先生。

「遅れましたー! すんませんしたー!!!」

「す、すんませんした!!!」

 僕は思わず神楽坂くんのふざけたような謝罪を復唱していた。
 それを聞いた前澤先生はにこやかな顔になると、僕たちに告げた。

「お前ら、今日居残って教室掃除な?」

 その怒気の凄まじさに僕は怖気付き、一方の神楽坂くんは「えぇー!」と反省していない様子だった。
 それを見ていたクラスは一斉に笑い始める。
 さて、どうしたものか。今日僕は接点の全くない、苦手なタイプの人と居残り掃除をすることになった。
 早退しようかな。どうしよう! 一体どうすれば良いんだよ!



あとがき
眠い! 眠い!
早く寝たい!
そうだ!寝よう!
てかオタクに優しいギャルて存在するのか?!
次回は有馬と司の関係が深まる回です!
突発的な投稿がなければ火曜日に会いましょう!!
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