バイト先の先輩ギャルが実はクラスメイトで、しかも推しが一緒だった件

沢田美

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陽キャラと陰キャラの壁

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 放課後を告げるチャイムが鳴り、周りにいたクラスメイトは一斉に荷物を持って帰っていく。
 そんな中、僕は掃除用具入れからほうきを取った。
 はぁ、こんなことになるなら二度寝なんてするんじゃなかった……いや、深夜までアニメを連続視聴するんじゃなかった。
 心の中でそんなことを考えていると、僕の肩を誰かが叩いた。

「えっと、君の名前、俺知らないんだけど。なんて言うの?」

 振り向いた先にいたのは、ニコッと笑う明るくて太陽のようなオーラを放つ神楽坂くんだった。
 や、やっぱり苦手だ! ま、眩しい人だ! うっ! 僕が吸血鬼だったらすでに砂になってるくらいだ。

「あ、有馬……蓮です」

「え? ごめんもう一回言って? 聞こえなかった!」

 は、はあああああ!? 聞こえなかったって……今の僕の全力の声だったよ!? こうなったら!

「あ、有馬! 蓮です!」

「有馬蓮、ね! じゃあ有馬って呼ぶわ!」

「は、はぁ……」

 ひ、久しぶりに大声を出した気がする。でもこれで聞こえたなら結果オーライだ。
 そんなことを思っていると、神楽坂くんもほうきを持った。

「だりぃよなー、放課後清掃とか」

「そ、そうだね……」

「有馬はさ、なんで今日遅刻したんだ? 俺、いつも遅刻しかけたりしてるからさ。大体遅刻するメンツはわかるんだけど、有馬は見たことなかったからよ」

 それもそうだ。僕は初めて、人生で“遅刻”というものをした。
 僕は日頃、目立たないように、影でひっそりと生きていたい人間だ。

「あ、えっと、ちょっとアニメ見てて起きれなくて……遅刻した、かな」

 僕がしどろもどろに言うと、神楽坂くんは僕の隣に立った。

「なんのアニメなん? 俺、日頃アニメとか見ねぇからさ。教えてくんね? 今度見るからさ!」

 今度見るって……それは“行けたら行く”と同じくらい信用できない言葉だよ。
 そんな小言を思いながら、僕は神楽坂くんの方に顔だけを向けた。

「ひ、ヒーリングっていうアニメだよ」

「へぇ! 面白い? それって!」

「――めちゃくちゃ面白い!」

「マジかよ! 気になってきたわ! ――なぁ有馬! ちょっとその“ヒーリング”っていうアニメのこと教えてくれよ」

 なぜか勢いよく話題に飛びついてきた神楽坂くんに、困惑しながらも僕は『ヒーリング』のあらすじ、どこが面白いのか、どういうキャラが良いのか――そのすべてを語った。
 オタクに関わるということはこういうことになるんだよ、と教え込むために遠慮はしなかった。
 ――が、しかし、神楽坂くんは僕の話を親身に聞いてくれて、人として完璧な対応をしていた。

「ぼ、僕の負けだ……」

 僕は彼の人間性の完璧さに思わず膝から崩れ落ちた。

「ん? どういうことだ?」

 困惑する神楽坂くん。
 そんな中、どこからか彼の知り合いと思われる男子グループが現れた。

「お! 司じゃん!」

「おー! 雄介!」

 そう言って神楽坂くんは知り合いの方へ行き、その知り合いたちと喋り始める。
 こ、これで僕は掃除に集中できる。
 そう思い立った僕は黙々と掃除に取り掛かった。
 そう、陽キャというものは弱者に雑用を任せて、自分は楽な仕事や楽しいことをする生き物。さすがの神楽坂くんも人間性ができているとはいえ、所詮は陽キャ――この勝負、僕の勝ちだ!

「あ、悪い。俺いま放課後の清掃しなきゃいけねえわ。すまん」

「マジかよ、頑張れよ!」

 な、なに!? 面倒事をやるだと!? そんなこと、僕の辞書にはないぞ!?
 ほうきを掃きながら困惑する僕に、神楽坂くんは声をかけてきた。

「悪りぃ! お前に任せっきりだったな! 一緒に早く終わらせようぜ!」

 そう言って神楽坂くんはほうきを持ち、掃きはじめる。
 それから僕は神楽坂くんと『ヒーリング』の話をしながら、掃除を終えた。

 掃除を始めて30分が経過した頃、僕と神楽坂くんは清掃を終えていた。
 僕はようやくホッとした気持ちで荷物をまとめ、帰ろうとした時――。

「なぁ、有馬!」

「は、はい!?」

「校門まで一緒に行こうぜ!」

 そう言って誘った神楽坂くんに、僕は断る術もなくそのまま校門まで一緒に帰ることになった。
 沈黙が続きなんとも言えない空気になると思っていたが、そんなことはなく、程よく神楽坂くんは僕に話しかけてくれていた。

「おーい! 司! もう掃除終わった?」

「終わった終わった! 悪りぃな、待たせて光、海斗!」

「俺らはそんな待ってないから気にすんな!」

「てか隣の奴、誰?」

 そう言って、2人は僕に視線を向ける。
 こ、怖い……なんだこの2人! 多分いつものあの陽キャグループの人たちだけど、いざこうなるとなんて言えば。
 こんがらがる頭が真っ白になったその時、隣にいた神楽坂くんが明るく言った。

「こいつは、今日の放課後清掃に付き合ってくれた相棒だよ!」

 神楽坂くんはそう言い、僕の体を自分の方へ寄せた。

「へぇ、なんかパッとしないね」

 海斗と言われた人はそう言い、光と言われた人は興味深そうな顔をしていた。

「あ! 思い出した。君って確か、あのファミレスの店員さんだよね?」

 そう言って神楽坂くんと海斗くんは僕の顔をじっと見る。
 え、あ、でもそうか。白瀬さん、あの時この人たちと来てたんだ……。

「あー! あの意味わからん客に絡まれてた店員!」

「わー思い出した! あの時大丈夫だった? 白瀬さんが助けてくれたから良かったけど」

 海斗くんがそう言って、僕に視線を合わせる。
 そんな珍妙な雰囲気に耐えきれなくなった僕は、目を回しながら「だ、大丈夫でした。ありがとうございます」と言った。
 すると海斗くんは「そのお礼は白瀬さんに言って」と告げた。

「なぁ! 有馬このあと暇だったら、俺たちとカラオケ行く?」

 神楽坂くんが優しく僕を誘う。
 しかし、僕の中の黒い何かがそれを拒む。

「ご、ごめん。今日はちょっとそういう気分じゃないていうか」
「そっか、分かった! じゃな!」

 そう言って神楽坂くんたちと別れると、僕は1人になった。
 


あとがき♪
ここ最近投稿欲が凄くて、火曜日と金曜日に投稿するのを目標にしてたのに、それを普通に破ってる笑
てか司みたいな友達が身内に欲しい!
有馬はもう少し素直になれ!!
次回は結構重めの回になるので覚悟してください笑
それではまた明日!
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