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人間に序列なんてないけど、恋には順番がある
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有馬っちが、出て行った。
「紗良、追いかけなくていいの?」
奏が心配そうに聞いてくる。
「……大丈夫」
そう答えたけど、胸が痛い。
――私の、せいだ。
無理やり連れてきちゃったから。
有馬っちは、こういう場所が苦手なのに。
分かってたのに。
だって有馬っちは、いつも一人でラノベを読んでて、誰かと騒ぐより静かな場所が好きそうで。
それなのに、私の勝手で――
「白瀬さん」
海斗が立ち上がった。
「俺、ちょっと行ってくる」
「え……」
「大丈夫。任せて」
海斗はそう言って、有馬っちを追いかけた。
私は、ただ座っているしかできなかった。
――有馬っち、ごめん。
私、また失敗しちゃった。
でも、明日絶対に謝る。
だから――嫌いにならないで。
お願い。
※
(奏の視点)
「司、大丈夫かな」
私は隣にいる司を見た。
いつもの明るい笑顔が、少し曇っている。
「俺、失敗したかな」
「え?」
「有馬を誘ったの、俺なんだ。掃除の時、仲良くなれたと思って」
司は頭を掻いた。
「でも、ああいう場所が苦手だったんだな。気づけなかった」
「司のせいじゃないよ」
私はそう言った。
「有馬くんも、きっと分かってくれる。司の気持ち」
「そうかな……」
「うん。だって司は、そういう人だもん」
私がそう言うと、司は少し笑った。
「サンキュ、奏」
――司のそういうところが、好きなんだよ。
優しくて、誰にでも分け隔てなくて。
だから、私――
「どうした? 顔赤いぞ?」
「な、なんでもない!」
慌てて顔を隠す私を見て、司は不思議そうに首を傾げた。
――いつか、この気持ち、伝えられるかな。
※
(有馬蓮の視点に戻る)
「なぁ、お前今楽しい?」
「――ッ」
突然、後ろから声がした。振り返ると、そこには海斗くんが立っていた。
「ちょっと面貸せよ」
※
「お前、今の言葉本気で言ったのか?」
僕を呼び止めたのは海斗くんだった。
あの楽しそうな雰囲気を台無しにした僕に対し、彼は憎悪や嫌悪を抱いたような態度を見せてはいなかった。
ただ、真っすぐに僕の顔を見つめていた。
「……本気だよ。本気だから、あんなことを言えたんだ。僕にあの環境、あの場所は似合わない。いたら、きっと白瀬さん達にあれ以上不愉快な思いをさせる……そう思うから」
言葉を選べず、乱雑に吐き出す。
わざと彼らから距離を置こうとするために。
すると、海斗くんはそんな僕を見て――笑った。
「面白いな」
「?」
「まるで昔の自分を見てる気分だ。お前、勘違いしてないか?」
「勘違い?」
「俺とお前、自分ではそう思ってなくても、第三者から見れば陽キャと陰キャ……。でもだからなんだよ? それでお前の価値が俺以下になるのか?」
「そ、それは……」
「お前はきっと、陽キャを王様か神様みたいな"上の存在"だと思ってるんだろ。でもな、そんなことはない。――俺には両親がいない」
「……ッ」
「小学生の時、事故で亡くなった。それから、ばあちゃんに育てられてる」
海斗くんの声は、穏やかだった。
けれど、その奥に何かを感じた。
「だからさ、お前みたいに自分を卑下する奴を見ると、イライラするんだよ。両親がいて、健康で、学校にも通えて。それだけで、どれだけ恵まれてるか分かってない」
「……すみません」
「謝らなくていい。ただ、分かってほしいんだ」
海斗くんは空を見上げた。
「人間に、上も下もない。ただ、環境が違うだけだ」
その言葉が、深く胸に刺さった。
「お前には両親がいるか? いるなら、社会的に見れば俺よりずっと恵まれてるし、立場だって上だ。それなのにどうして、自分を下に見て俺に気をつかう必要があるんだ? ……そもそも、人間はどうして序列をつけたがるんだろうな。みんな平等に生まれて、平等に育つ。ただ、コミュ力とか目立ち方で勝手に評価される」
「そ、それは……」
「なぁ有馬。お前は知らないだろうから言っとくけど、白瀬さんは善意でお前に構ってるんじゃない。――有馬蓮に興味があるから。本当の友達として関わりたいから、話しかけたり、からかったりしてるんだ。そこに善意も悪意もない。ただ"友達になりたい"って気持ちだけだ」
「白瀬さんが……僕と、友達に?」
「白瀬さんの趣味、知ってるか? ちなみに、長く一緒にいる須藤さんや有村さんだって知らない。白瀬さんは周りに合わせがちだから。でも――お前は知ってるんだろ?」
「な、なんでそう言えるんですか?」
僕が問うと、海斗くんはフッと笑った。
「白瀬さんがお前の話をしている時、とても楽しそうだからだ」
「――ッ」
「楽しそうにお前のことを話す白瀬さんの姿を、俺たちは何度も見てる。だからこそ、有村さんはあんな態度をとったお前を見て怒ったんだ」
「そ、そうだったんだ……」
「でもな、こうなったのはお前だけのせいじゃない。俺たちが無理やり連れてきたのも悪かった。……あんな思いをさせて、ごめん」
海斗くんは素直に頭を下げた。
その姿を見て、思わず息を呑む。
な、なんで海斗くんが謝る? あの場を壊したのは僕で、僕が白瀬さんを傷つけたのに……。
どうして彼が――。
僕は何も言えず、ただ拳を握りしめる。
少しの沈黙の後、海斗くんが顔を上げた。
「今日は帰った方がいい。有村さんもまだ怒ってるだろうし、今戻っても気まずくなるだけだ。……ただ、明日には白瀬さんに謝れ。あいつら、いじめとかはしないけど、嫌いな奴には徹底的に無視したりするから。――なにより、白瀬さんのためにも」
「わ、分かった……」
※
海斗くんと別れた後、僕は一人で夜道を歩いた。
街灯の下、自分の影が長く伸びる。
――白瀬さんは、僕に興味がある。
――友達になりたいと思っている。
海斗くんの言葉が、胸の中で温かく響いた。
過去のトラウマが消えるわけじゃない。
あの時言われた言葉も、まだ心の奥に残っている。
でも――少しだけ、前を向けそうな気がした。
家に着いて、部屋の電気をつける。
机の上には、白瀬さんと一緒に買った『ヒーリング』の新刊が置いてあった。
「……ごめん、白瀬さん」
僕は小さく呟いた。
明日、絶対に謝ろう。
そして――もう一度、一緒に笑いたい。
あとがき!!
海斗お前!!良い奴じゃ!
私の周りにいないタイプの人だ!
有馬良かったな、なんて思いながら書いてました笑
もしかしたら明日も投稿するかもなので、よろしくお願いします!!
それではまた(o・・o)/~
「紗良、追いかけなくていいの?」
奏が心配そうに聞いてくる。
「……大丈夫」
そう答えたけど、胸が痛い。
――私の、せいだ。
無理やり連れてきちゃったから。
有馬っちは、こういう場所が苦手なのに。
分かってたのに。
だって有馬っちは、いつも一人でラノベを読んでて、誰かと騒ぐより静かな場所が好きそうで。
それなのに、私の勝手で――
「白瀬さん」
海斗が立ち上がった。
「俺、ちょっと行ってくる」
「え……」
「大丈夫。任せて」
海斗はそう言って、有馬っちを追いかけた。
私は、ただ座っているしかできなかった。
――有馬っち、ごめん。
私、また失敗しちゃった。
でも、明日絶対に謝る。
だから――嫌いにならないで。
お願い。
※
(奏の視点)
「司、大丈夫かな」
私は隣にいる司を見た。
いつもの明るい笑顔が、少し曇っている。
「俺、失敗したかな」
「え?」
「有馬を誘ったの、俺なんだ。掃除の時、仲良くなれたと思って」
司は頭を掻いた。
「でも、ああいう場所が苦手だったんだな。気づけなかった」
「司のせいじゃないよ」
私はそう言った。
「有馬くんも、きっと分かってくれる。司の気持ち」
「そうかな……」
「うん。だって司は、そういう人だもん」
私がそう言うと、司は少し笑った。
「サンキュ、奏」
――司のそういうところが、好きなんだよ。
優しくて、誰にでも分け隔てなくて。
だから、私――
「どうした? 顔赤いぞ?」
「な、なんでもない!」
慌てて顔を隠す私を見て、司は不思議そうに首を傾げた。
――いつか、この気持ち、伝えられるかな。
※
(有馬蓮の視点に戻る)
「なぁ、お前今楽しい?」
「――ッ」
突然、後ろから声がした。振り返ると、そこには海斗くんが立っていた。
「ちょっと面貸せよ」
※
「お前、今の言葉本気で言ったのか?」
僕を呼び止めたのは海斗くんだった。
あの楽しそうな雰囲気を台無しにした僕に対し、彼は憎悪や嫌悪を抱いたような態度を見せてはいなかった。
ただ、真っすぐに僕の顔を見つめていた。
「……本気だよ。本気だから、あんなことを言えたんだ。僕にあの環境、あの場所は似合わない。いたら、きっと白瀬さん達にあれ以上不愉快な思いをさせる……そう思うから」
言葉を選べず、乱雑に吐き出す。
わざと彼らから距離を置こうとするために。
すると、海斗くんはそんな僕を見て――笑った。
「面白いな」
「?」
「まるで昔の自分を見てる気分だ。お前、勘違いしてないか?」
「勘違い?」
「俺とお前、自分ではそう思ってなくても、第三者から見れば陽キャと陰キャ……。でもだからなんだよ? それでお前の価値が俺以下になるのか?」
「そ、それは……」
「お前はきっと、陽キャを王様か神様みたいな"上の存在"だと思ってるんだろ。でもな、そんなことはない。――俺には両親がいない」
「……ッ」
「小学生の時、事故で亡くなった。それから、ばあちゃんに育てられてる」
海斗くんの声は、穏やかだった。
けれど、その奥に何かを感じた。
「だからさ、お前みたいに自分を卑下する奴を見ると、イライラするんだよ。両親がいて、健康で、学校にも通えて。それだけで、どれだけ恵まれてるか分かってない」
「……すみません」
「謝らなくていい。ただ、分かってほしいんだ」
海斗くんは空を見上げた。
「人間に、上も下もない。ただ、環境が違うだけだ」
その言葉が、深く胸に刺さった。
「お前には両親がいるか? いるなら、社会的に見れば俺よりずっと恵まれてるし、立場だって上だ。それなのにどうして、自分を下に見て俺に気をつかう必要があるんだ? ……そもそも、人間はどうして序列をつけたがるんだろうな。みんな平等に生まれて、平等に育つ。ただ、コミュ力とか目立ち方で勝手に評価される」
「そ、それは……」
「なぁ有馬。お前は知らないだろうから言っとくけど、白瀬さんは善意でお前に構ってるんじゃない。――有馬蓮に興味があるから。本当の友達として関わりたいから、話しかけたり、からかったりしてるんだ。そこに善意も悪意もない。ただ"友達になりたい"って気持ちだけだ」
「白瀬さんが……僕と、友達に?」
「白瀬さんの趣味、知ってるか? ちなみに、長く一緒にいる須藤さんや有村さんだって知らない。白瀬さんは周りに合わせがちだから。でも――お前は知ってるんだろ?」
「な、なんでそう言えるんですか?」
僕が問うと、海斗くんはフッと笑った。
「白瀬さんがお前の話をしている時、とても楽しそうだからだ」
「――ッ」
「楽しそうにお前のことを話す白瀬さんの姿を、俺たちは何度も見てる。だからこそ、有村さんはあんな態度をとったお前を見て怒ったんだ」
「そ、そうだったんだ……」
「でもな、こうなったのはお前だけのせいじゃない。俺たちが無理やり連れてきたのも悪かった。……あんな思いをさせて、ごめん」
海斗くんは素直に頭を下げた。
その姿を見て、思わず息を呑む。
な、なんで海斗くんが謝る? あの場を壊したのは僕で、僕が白瀬さんを傷つけたのに……。
どうして彼が――。
僕は何も言えず、ただ拳を握りしめる。
少しの沈黙の後、海斗くんが顔を上げた。
「今日は帰った方がいい。有村さんもまだ怒ってるだろうし、今戻っても気まずくなるだけだ。……ただ、明日には白瀬さんに謝れ。あいつら、いじめとかはしないけど、嫌いな奴には徹底的に無視したりするから。――なにより、白瀬さんのためにも」
「わ、分かった……」
※
海斗くんと別れた後、僕は一人で夜道を歩いた。
街灯の下、自分の影が長く伸びる。
――白瀬さんは、僕に興味がある。
――友達になりたいと思っている。
海斗くんの言葉が、胸の中で温かく響いた。
過去のトラウマが消えるわけじゃない。
あの時言われた言葉も、まだ心の奥に残っている。
でも――少しだけ、前を向けそうな気がした。
家に着いて、部屋の電気をつける。
机の上には、白瀬さんと一緒に買った『ヒーリング』の新刊が置いてあった。
「……ごめん、白瀬さん」
僕は小さく呟いた。
明日、絶対に謝ろう。
そして――もう一度、一緒に笑いたい。
あとがき!!
海斗お前!!良い奴じゃ!
私の周りにいないタイプの人だ!
有馬良かったな、なんて思いながら書いてました笑
もしかしたら明日も投稿するかもなので、よろしくお願いします!!
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