バイト先の先輩ギャルが実はクラスメイトで、しかも推しが一緒だった件

沢田美

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胸の苦しさの名前を、まだ知らない

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「いやー、白瀬ちゃん、めちゃくちゃいい子だったね~」

 ショッピングモールの帰り道、不意に運転している姉さんが言った。
 僕はそんな姉さんの言葉と共に、今日の白瀬さんの姿を思い浮かべる。
 ふわっとした雰囲気、綺麗な髪、優しい微笑み……あれ? 僕なんで――胸が苦しいんだ?

「蓮? アンタ顔赤いよ?」

「――ハッ!? な、何言ってるんだよ!」

「ははーん? もしかして白瀬ちゃんのこと、す――」

「違う! そんなんじゃない! 絶対に……そんなんじゃ」

 また脳裏に白瀬さんの顔がよぎる。
 ダメだ……今の僕はずっと白瀬さんのことしか考えてない。


 ※

「おはよう! 須藤! 有村!」

 教室の扉の前で神楽坂くんたちが、いつものメンツに挨拶をしている。
 さすが陽キャ、僕みたいな陰のオーラより、陽のオーラが強い。
 そんなことを思いながら、僕は手元のライトノベルに集中しようとする。

「なぁに見てんのー?」

 席に座っている僕に、聞き覚えのある声がかけられる。
 僕の視線がスッと声の方へ向くと、そこにはいつもの白瀬さんが立っていた。

「あ、え、おはようございます」

「おっはー、有馬っち、今日もオタ活やってんねー」

 白瀬さんのニヤけ顔が僕をじっと見つめてくる。
 綺麗な青い瞳、ピアスの光る耳、透き通るような肌……。
 僕は強く自分の頬を叩いた。

「ちょ!? 有馬っち!? 急にどうした?!」

 白瀬さんの驚きの声が教室に響く。
 一方の僕はただ口を閉ざし、白瀬さんの顔を見ていた。
 ……そっか、僕は――【好き】になったんだ。白瀬さんのこと。
 だからこのモヤモヤがあるし、彼女に会うたびに言葉にできない胸の苦しさがある。

「有馬っち? 大丈夫?」

 白瀬さんの手が、僕が叩いた頬に優しく触れる。

「どしたどした!?」

 神楽坂くんが慌てた様子で僕と白瀬さんの方に来る。
 須藤さんや有村さんたちもやってきて、少しざわつく教室の中で僕は頭を掻きながら――

「あの、虫が止まっていた気がしたんで……つい」

 めちゃくちゃ変な嘘をついた僕。
 それを聞いた周りは「なんだよー」「おいおい」といった呆れた声を上げる。
 そんな中で、白瀬さんだけは僕をじっと見つめて――フフンとニヤけた。

「ふふん」

 彼女はそう言うと、僕の耳元で囁いた。

「放課後、息抜きしよ!」

「へ?」

 白瀬さんはそう言って笑顔のまま、須藤さんたちのグループへ向かっていった。
 息抜き……つまり、白瀬さんと放課後デート!?
 完全に頭の中が真っ白になり、僕はまるで熱々のお風呂から上がったように火照る。

「あーもう無理かも」


 ※

 学校が終わり、僕は街の方に来ていた――白瀬さんと、陽キャグループのメンバーと共に。

「紗良~! これよくなーい?」

 有村さんが白瀬さんに服をオススメしている。
 一方の神楽坂くんと須藤さんは、二人でゲームセンターで遊んでいた。
 そして僕と海斗くん、光くんは、そんな光景を遠目に見ながらクレープを食べていた。

「美味しいですね、これ」

「でしょ! ここは俺のオススメクレープ屋なんだ!」

「光、何気にこういう系のおすすめスポット熟知してるよな」

「えへへ、じゃあ今週の週末、みんなで遊びに行こうよ! 食べ物巡りとか!」

「俺はいいけど、みんなに聞いてみないと。有馬はどう?」

 海斗くんがふいに聞いてきた。
 予想外だった僕はあたふたする。

「あ、え、えっと僕は……」

 ふと脳裏に過ったのはカラオケでのあの日。
 きっと僕がいたら空気が悪くなる。
僕はみんなの空気を壊してしまう――そんな思いで胸がいっぱいになる。

「有馬?」

 海斗くんの声にハッとした。
 脳裏を過っていた言葉を断ち切るように。
 そして、そんな闇の中に光を差すように、白瀬さんの姿が思い浮かんだ。

「僕も行ってみたい」

「そっか」

「いいね! 有馬も来るんなら、みんなで行かないとね!」

 海斗くんはどこか安心したように笑い、光くんは相変わらず元気な顔をする。

「てか、相変わらずあの二人いい雰囲気してるな」

 海斗くんは須藤さんと神楽坂くんがいるゲームセンターを見ながら言った。
 そういえば、あの二人いつも一緒にいるな。

「あの二人って、付き合ってないんですか?」

「「付き合ってないよ」」

 海斗くんと光くんは真顔で言った。

「須藤は司のこと好きらしいんだけど、司は須藤のことを友達として見てる」

「な、なるほど」

「まぁ内緒にしてほしいんだけど、俺たちは須藤さんと司がどうくっつくか試行錯誤してる」

「そうそう! でも司、鈍感だからさ、全然進展しないんだよね」

 光くんがそう言うと、海斗くんはふと呟いた。

「それなら、あいつらも誘うか」

 海斗くんがそう言った時、ちょうど服を見ていた白瀬さんと有村さんが戻ってきた。

「香澄さん、紗良さん、週末空いてる?」

 光くんが白瀬さんと有村さんに聞くと、有村さんは困惑気味に――

「週末?」

 一方の白瀬さんはテンション高めに――

「空いてるよー!」

「紗良が行くなら私も行く」

「やったー! それじゃあ司たちにも言わないと!」

 光くんはそう言って司くんたちの方へ向かっていく。
 そんな中、僕の片腕を白瀬さんがツンと突く。
 白瀬さんの顔を見ると、どこか不安そうだった。

「有馬っちは行くん?」

 白瀬さんの青灰色の瞳が、僕を真っ直ぐ見つめている。
 ――行きたい。
 白瀬さんと一緒なら、どこへでも。

「い、行く……」

 言葉が、途切れそうになる。
 でも――ここで曖昧にしたら、また同じだ。

 僕は、白瀬さんの目を見て、もう一度言った。

「行きます。白瀬さんと一緒なら、行きたいです」

 ――言えた。

 白瀬さんの目が、大きく見開かれる。
 それから、頬がふわりと赤く染まった。

「な、なに……それ」

 白瀬さんが、珍しくどもる。
 いつも余裕のある彼女が、動揺してる。

「ズルい……有馬っちのくせに、そんなこと言うなんて……」

「え? あの、何か変なこと言いましたか?」

「変じゃない! 変じゃないけど……!」

 白瀬さんは、自分の頬に両手を当てた。

「……ありがと。嬉しい」

 小さな声。
 でも、確かに聞こえた。

「じゃあ楽しみ! 有馬っち!」

 白瀬さんは、いつもの明るさを取り戻して笑った。
 でも、耳まで赤くなってるのが――可愛かった。

「はい! 楽しみにしてます!」

 僕も、自然と笑顔になっていた。


あとがき
有馬!それは恋だよ!
次回は有馬達みんなで遊びに行きます!
次の投稿は未定です!
面白いと思っていただけたらブクマお願いします!!
それではまた(*^-^*)ノ~~マタネー
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